38
「いやぁこっちも大変だったよぉ。もう少しで私、湯煙事故死現場の重要参考人になる所でさぁ」
旅館の前(初めの位置に戻った)にて、若干湿ったままの髪を揺らしつつ身に起こった出来事を疲れ顔で語るのはモノさんだ。何故か沙羅さんの後ろに周り、彼の後頭部にお絞りを当てている。
僕らがてんやわんやしていた間の、彼女らの出来事を整理すると……
・温泉に向かったモノさんと沙羅さん、温泉は一つしか無い、つまりは混浴
・二人で入っていた所、空から一匹の(普通の)ウサギがモノさん目掛け落ちて来た
・気付いた沙羅さんはモノさんの前に立ち、ウサギを顔面キャッチ、フラついて後頭部を岩でゴチン
……という流れらしい。
頭を打ってコブを作り、足下がおぼつかない沙羅さんの為、こうして後ろから支えてる。
「う〜ん、モノさんとくっつくのも久し振りだねぇ。昔はもっとこんな風にさ」
「……覚えてないよそんな事」
「まぁ僕も頭を打って思い出したんだけど――って、ちょっと、コブ押さないでよ痛い痛い」
目の前で行なわれる痴話喧嘩。色々あったが、結果的に二人の仲は今日一日で深まったようだ。コレも全て赤い縁糸の力、か。
「(ボソッ)邪魔しちゃ悪ィと思ってな。だからすぐお前らんとこに戻って来たんだ」
耳打ちして来る樒さん。気の利いた行動も出来るんだな(失礼)。……彼らを見る視線が寂しそうなのが、少し気になるが。
「で。蜜ちゃんはどうしてそんなファンキーな格好に?」
真実などカタギのモノさんに言える筈がない。「ウサギの集団に齧られた」と誤魔化しておいた。因みに、制服がファンキーな仕様になった原因の一端である鋏は、現在スリープモードである。
「皆様、こちらお土産だピョン! 月明かりオリジナル銘菓【月の萩】!」
「聞いた事ある名前だよ! 地元に似たのあるよ!」
突っ込むモノさんに「こ、こっちがオリジナルピョン!」と卯月さんは狼狽えていた。
「ま、まぁ何はともあれ有難く頂くね。……それじゃあ船の時間も近いんで私らはこれで。奥野島の記事、しっかり書くからね!」
「頼むピョン」
と二人は握手を交わし、
「じゃあ最後に記念撮影行こうか」
と言う沙羅さんの提案に皆首肯、旅館前に並ぶ。
「はいチーズ(カシャ)……、……? 卯月ちゃん、これって……」
「ん〜? お、懐かしい顔触れピョン!」
デジタル一眼レフカメラの液晶には、並ぶ僕ら、それと――屋根に足元に――びっっっっっしりとウサギが写り込んでいた。
実際に居るウサギは卯月さんの足元に居る数匹のみ。
ああ、思い出した。確か沙羅さんの撮る写真の特徴って……。
「皆達者でピョ――〜ン!」
その後は、卯月さんに頭を下げてお別れ。結局の所、樒さんの目的も叶ってないっぽいし、僕と卯月さんの関係もハッキリしてないけれど、このままでいいのだろうか。
(――ん?)
去り際、背中に『呼び止めるような視線』を感じ、振り返ると、
『ま た ね』
卯月さんが口パクで、僕にメッセージを送っていた。
……どうも、近い内に疑問はハッキリしそうだ。




