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「ウピョピョ……まぁ、月のクレーターの半分をこさえた過去を持つ卯月の一撃、まともに受ければ大変な事になるウサ。でも御安心! お前のように『合体する』タイプとは何度か遊んだ事があるから、本人を傷付けず『魂だけ』刈り取る術も心得てるピョン!」


言って、卯月さんは懐から【身の丈程の大バサミ】を取り出す。どう見てもソレが懐に収まる大きさで無いのは置いといて、刃の部分がウサ耳な可愛いデザインの一振りだ(他人事)。

ってかハサミキャラ被っちゃってるよ。


「この【シザーキャロット】を使うのも云十年振りウサ。……さぁ、命が惜しければ大人しく蜜から離れるピョン!」


此方の眼前にハサミを突き付ける卯月さん。最終通告なのだろう。今更な気もするが。


「ふん、上からじゃな。……これは命乞いでも無く一応の確認で言うが、鋏は蜜を悪いように扱うつもりは一切無いぞ?」

「ウピョ。この卯月が信じるとでも?」

「じゃろうな。ならば、最早語るまい」


『シャリンシャリン』――擦り合わせる蜜鋏の手の平から金属の擦れる音。


「言わずとも察しておろうが、今のこの身体は全身が刃、刃引きなぞしとらん。……貴様の思いも大したモノじゃし尊重したいが……鋏にも守るべき日常がある。退いて貰うぞ」


刹那、二つの刃が交錯しあい、文字通り火花が散る。


「鋏流! 手車ヨーヨー!」「竹馬ちくば!」「御弾き(おはじき)!」


回転し突き刺し弾ける蜜鋏に対し、


「アリスシンドローム!」「ジャビット!」「ラピッドファイア!」


大きくなったり攻撃を打ち返したり分身を作ったりな卯月さん。

両者の実力は拮抗してるように感じる。お互い『相手から受けた』ダメージは服も含めゼロなのだ。 小柄な二人の喧嘩だが、派手さは特撮怪獣映画のソレ(律儀に両者とも旅館と畑には手を出さないよう配慮してたり)。


僕は体を貸している立場だから状況を把握出来てるしある意味安全圏に居るけど、この暴風域に一般人が居たなら流れ弾に巻き込まれるのは必至、命がいくつあっても足りないだろう。卯月さん直属の戦闘員であるマッチョウサギらですら手を出せずにいる。

ってかほんと何でバトルしてるんだこの人ら。


「卯月の動きに合わせられるだなんて、やっぱりお前、【天使】の一味ウサね!」


叫ぶ卯月さん。天使……そういえば、糸さんが言ってたな。『大昔、天の使いが鋏を落とした』と。それと関係のある話かな?


「何の話じゃ! 確かに鋏は天の使いのように可愛いが、鋏は鋏! 蜜の女じゃ!」

「しらばっくれてるのか本音なのかは知らないウサが、お前は『強過ぎる』ピョン! その刃は必ず蜜まで傷付けるピョン!」

「貴様は過保護過ぎるんじゃ! 蜜とて立派な男! 多少の困難程度切り開ける強さを持っとるわ!」


どんどんヒートアップする二人。そろそろ『僕の為に争わないで!』と叫ぶべきかしら? 今更止まらないような気も……


「よしわかった」


唐突に蜜鋏は攻撃の手を止め、ピョンと卯月さんから離れる。僕の思いを察したのかな?


「どうしたピョン? 素直に負けを認め、蜜から離れる決心がついたウサ?」

「そんなわけがあるかっ、負けてもごねるわっ。……わかったのは貴様の実力じゃ。このままでは埒があかないと鋏に思わせる程度には強いようじゃな」

「ウピョピョ、だったらどうするウサ?」

「反則技を使わせて貰う」


だらり――脱力したように両手垂らす蜜鋏。


「むっ」


と、警戒心を露わにする卯月さん。空気の変化に当然ながら気付いたのだろう。


「今までコレを完全に避けられた者はおらん。破る事も逃げる事も出来んし、何度も使える。――行くぞ」


グイッと蜜鋏が左に腰を捻ると、


「ピョ!?」


ギュン――何故か卯月さんが此方に飛び込むように引き寄せられる。

見れば蜜鋏が右手で何かを掴み引いていて……キラキラ光る糸……卯月さんと繋がるそれは……【縁糸】。


「クッ!」


見えず触れられずな糸に対し踏ん張りが効く筈も無く……蜜鋏の間合いに入った卯月さんは崩れた体勢のままシザーキャロットを振るう。

だが、腰を捻った蜜鋏のその姿は――侍の超光速剣、居合いの型。


「鋏流奥義―― 千 本 つ り 」


一閃。

卯月さんの胴体が真っ二つに分かれた。


「ウォぉン!?」


と、思ったら、放り投げられていた。

何が起きた?

逆さまな視点から状況を俯瞰するに……

分割された卯月さんはしっかり地面に転がっていて……いや……肉体はグニャリと形を変え『二匹のウサギ』へと変化する。成る程、斬られる直前ダミーを置き、難を逃れた本体が僕らをぶん投げたと。成る程?

まぁしかし、流石の本体も無傷とはいかず、袴のお腹部分が横にパックリ一閃されていた。


「危ない危ない、服に傷だなんていつ以来かウサッ」

「おのれ小癪な真似を! ならばもう一撃じゃ〜!」

「あ〜……でもその前に、自分が投げられた先を気にするピョン」

「先?」


と首を曲げる。――先なんて無かった。つまりは、崖。火曜サスペンス劇場で御馴染みな断崖絶壁だ。


〈鋏、この状況やばくない? 崖っぷちだぜ?〉

「案ずるな蜜。この体、例え富士の山から身投げしても傷一つ」


と、その時だった。


「「あ」」


合 体 が 解 け た 。


「しまったこんなときに! みつ!」


直ぐに僕の手を掴む鋏。それはいいのだが、既に崖からも離れていて、このままで真下の針山のような森林へ二人共真っ逆さまだ。


「あっ。さっきの『早く勝負を決めないと格好悪い事に〜』って下りはコレか」

「そうじゃがおちつきすぎじゃみつ! あきらめるにはまだはやいぞ!」


鋏が空いた右手を握ると、


「ピョ!?」


卯月さんも落ちて来た。再び彼女の縁糸を掴んだのだろう。

加えて、卯月さんを助ける為にかマッチョウサギが瞬時に彼女の足を掴み、それが次々数珠のように繋がっていって……結果的に、鋏と卯月さんが手を繋ぐ事によって何とか落下も止まった。

キモイ命綱だぜ。


「むぅ! いきなり何するピョンこのガキ! また合体すれば落ちても平気ウサ――」

「こ、『このからだ』ではひになんどもゆうごうできんのじゃ! だ、だまってつるぎらをひきあげろ!」

「何という上から目線ピョン! っていうか、凄いプルプルしてるじゃないか!」


そうなのだ。今の幼女体型の鋏は、切れ味が良いだけで見た目通りの腕力と体力しかない。高校生男子を幼女が片手で吊り続けるのは明らかな無茶。


「このガキ……そこまで蜜を……で、でも、今はそんな事言ってられない! ガキ! まどろっこしいからいっそ蜜を離すピョン! 卯月なら余裕で抱えて着地出来るし!」

「いやじゃいやじゃ! みつのてをはなさない! つるぎのたましいごとはなしてしまうきがするから!」

「どっかで聞いたキャッチコピーみたいな事言ってないで早く離すウサ!」


ギャーギャー喚き合う幼女二人。傍目から見れば、手を繋いでる仲の良い友達同士なんだよなぁ。

と、そんな時にだ。

上から猛スピードで、垂直に、マッチョウサギ命綱を駆け下りてくる一つの影。

それはあっという間に『僕をお姫様だっこで抱え』、そのまま落下し、地面に着地する。


「ふぅ……ったく。大分無茶してたようだなお前ら。てか、何があってああなったんだ」


僕を助けてくれたそのイケメンは――樒さん。


「色々あったんだよ。ありがとう樒さん」


と口に出しつつ、僕は空を見る。

ここからでは僕の視力じゃ確認出来ないけど。

上の二人は今、ポカーンとしてるんだろうなぁ。

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