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外に出ると、


「あれ、ここどこ?」


明らかに、旅館周囲の風景が入る前と変わっていた。海の見える平地だったのが、今は竹藪の中。昨日泊まった箱根の旅館周りを思い出す立地である。

人の気配は無く、肌に湿っぽさがまとわりつく。現世と隔離されたような人外魔境だ。


「ふん、あのめうさぎめ、なにをたくらむ。みつ、ようじんしておけよ」


頷きつつ、何か面白い物はないかとキョロキョロしていると……ボソボソ……どこからか人の話し声。どうも旅館の裏手から聴こえて来る様子。多分『話がある』と出て行った樒さんと卯月さん、二人の声かな?

怠惰の間で暫く過ごした僕だけど、実際の時間の経過は数分程度だから、二人の会話も始まったばかりだろう。


――湧き上がったのは、僅かな好奇心。


「おいみつ、そっちは……」


という鋏の意見をスルーし、旅館の壁に沿って裏手までコソコソ向かう。

『裏手からの声が表からも聴こえる』という結果から分かる様に、この旅館、外観はコンビニ程度の大きさなのだが……不思議な事に、中は奥行きも幅も――館内に七つ客室があると言う卯月さんの言葉に偽りはない位に――あるのだ。空間アートの匠の仕業かな?

壁に体をくっつけバレないように裏手を覗く。裏手には小さな菜園と井戸、奥には竹藪が広がっていて……


「なぁ卯月さん、アンタが【ウチの長】を嫌いで猫も嫌いなのは聞いてるけど、そこを何とか教えてくんねぇか?」

「君もしつこいウサねぇ。確かにキミんとこの【雌猫】は嫌いだけど、今は好き嫌い関係無いピョン」


二人の姿を確認。手を合わせる樒さんに、卯月さんは呆れ顔。察するに、他人に聞かれては困る話をする為にワザワザ旅館を移動させたのやも。


「樒ちゃん、だっけ? 君は『運良く取り戻した人生』を大事にするピョン。あの連中――【天使】に深入りすると次は無いウサよ。……それに、見た所君はあの【白髪の子】の友達ピョン? だから余計話せないウサ」

「白髪って、蜜の事か? ……やっぱり、アンタと蜜の間には秘めた何かがあんだな。そんでアタシと関わらせたくないとっ」

「隠してるつもりは無いし、付き合いは自由ウサがね」

「おかしいと思ってたんだ。アンタのキャラが、長から聞いた話と違い過ぎるってなっ。本来、こんなにアッサリ人前に出ねぇとも聞いた」

「卯月は恥ずかしがり屋さんウサけど、たまにはひょっこり出てくるそんな日もあるピョン」


「――森羅万象の生き字引、性悪物知り兎……ウチの長と同じく『五仙妖ごせんよう』に数えられてるアンタには色んな二つ名があるらしいが……

アタシのように『まともな手段では得られない情報』をアンタに訊きに来た奴は、基本、

旅館にすら辿り着けず、

着いたとしても姿を見つけられず、

見つけたとしてもクイズやら何やらの試練や条件を吹っかけられ、

それでもお眼鏡に叶わなかったり『気分じゃない』と追い返されて……

兎に角、相手をおちょくるのが大好きなんだってな。そんなアンタが今日は『自分から迎えに来て旅館に受け入れ茶を出した』。これって異常なんじゃねぇか?」


「酷い言われようウサが、さもありなん、ここまでの高待遇はレア行動ウサよ。でも、これでもまだもてなし足りないくらいピョン。何てったって、あの子は特別ウサからねぇ」

「……何者なんだよ、蜜は」


樒さんの言う通りだよ、何者なんだよ僕は。

卯月さんの先の言葉が気になり、固唾を飲んで次の展開を眺めていると……『サワワ』……不意に脛をこすられる感触。こういう悪戯は大抵鋏が犯人だが、と視線を落とすと、


「クークー」


一匹の人懐っこい白黒ぶち柄野良ウサギが、僕の脛で顔を洗っていた。


(確か。猫が顔を洗うと雨が降るんだっけか)


ならば。ウサギが顔を洗うと?


「ええぃこやつめ、みつで『だにとり』をするようなまねをっ」


ウサギに手を伸ばす鋏だが、簡単に避けられてやんの(嘲笑)。


「ってか鋏、そんな声出したら二人に見つかっちゃうよ」

「はじめからみつかっとるわい」


え? ――その瞬間、肌が粟立つ。

何に対してかは分からない。けれど、本能が、何か、危険を……

フワリと風に乗り、卯月さんの声が、僕の耳をこすった。


「あの子の事を話す前に、先に卯月にはやる事があるピョン。――あの子にまとわりつく『危険因子の排除』というお節介が、ね」


刹那、


「とぶぞ! みつ!」


僕は跳んでいた。

直後、『ドガゴッッ!!』と鈍い轟音。

旅館の屋根に着地した僕は、


「ちょっとちょっと何さあの【キモい】のっ」


と鋏に叫ぶ。

見下ろす先に居たのは【ウサ耳付き白黒ぶち柄(タイツ?)八頭身細マッチョ】。

そんな気持ち悪い生き物が巨大な杵を持って此方を見上げていた。突然現れたアイツが僕らに杵を振り下ろしたらしく、さっきまで居た地点の地面が盛大に抉られている。体は人間なのに顔だけウサギで……キモイヨー。


〈あれはさっきの【うさぎ】じゃ! しゅんじにきょだいかし、つるぎたちをおそったんじゃ!〉


頭の中で響く鋏のワケガワカラナイ話。あんな可愛かったウサギがあんな姿に?


「ば、馬鹿な……そんな非現実な事が……ああ……僕の穏やかだった日常は今をもって終わりを迎えた(ガクブル)」

〈ひげんじつはいまさらじゃろう! たいしておだやかなにちじょうでもなかったじゃろう!〉

「それもそうだね(けろっ)」

〈きりかえがはやいのう〉


と鋏は感心する。もっとしていいぞ。

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