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——その後は。『まぁとって食われる訳でも無いしゆっくりしよう』と方針を決め、各々旅館内外をバラバラに行動する。
モノさんと沙羅さんはお風呂に、樒さんは——
『卯月さん、ちょっと話がある。外に出られないか?』
『クークー!』
『あ? 何だウサギども、無礼者! だって? アタシが無礼でなかった時なんざねぇよ』
『お、君はウサちゃんと話せるウサねぇ、成る程ぉ。兎に角、了解ピョン!』
そんなやり取りをして、卯月さんを外へ連れ出していた。
一方、インドア派な僕は鋏を巻き込んでその場から動かず、ダラダラ、である。他に誰もいないし、卯月さんからお代わりの饅頭とお茶も用意して貰ったしで怠け放題だ。
(……にしても)
と考えるのは卯月さんの事。
気の所為かもだが、彼女の僕を見る目が、他の人より柔らかい気がする。モノさんの言う通り、僕と容姿の特徴が似てるのが関係してる? 既視感の原因は、実は親戚だったとか?
う〜ん、わかんない。考えるのメンドイ。
「鋏ィ、お茶〜」
「うむ」
『膝枕』を鋏からして貰い、ついでに介護もして貰う。見た目小学生の幼女に甘える高校生男子……人には見せられない構図である。
膝枕といえば、一昨日糸さんにして貰って以来で……あかん、思い出したら糸さんに会いたくなって来た。ここ数日の精神的な疲労感で気弱になってる。身が震える。
「こら、ほかのおんなのことをかんがえてるな?」
「ごめんなひゃい」
と、頬を引っ張られつつ素直に謝罪する僕。考え事など直ぐに鋏にバレてしまう。
「まったく。ずいぶんとおつかれのようじゃな、みつ」
「そりゃあね。何年も一人で居たのに、いきなり『存在を認識』されたんだから、嬉しい反面ストレスも溜まるよ〜。外歩くだけでジロジロ見られるし……これが人酔いってやつ?」
「みつはだれよりもかわいいからのぉ、あつまるしせんは、なれるしかないぞ。あんしんせい、おまえのつかれはつるぎがきりきざんでやる(ナデナデ)」
「鋏は優しいなぁ」
糸さん同様、鋏も僕を甘やかしてくれる。駄目男製造機な二人との時間が居心地よ過ぎて、いつまでも他の人と共存出来る気がしない。
そうこうしていると、ジワジワ瞼が重くなって来た。
「このままねてもいいぞ。みまもっててやる」
「鋏は休まないの?」
「んん……このへやのくうきは……つるぎにはおちつかん」
そうかな? 僕は逆だ。この部屋だけ、フワフワと重力が軽い様な、綿毛に包まれてるような、そんな安心感。
ここも——来た事があるような——既視感?
勘違いやら錯覚ならばそれまでだけど……直接、卯月さんに訊けば教えてくれるだろうか。逆に、何かあるなら教えてくれればいいのに(我儘)。
……いや。誰にでも、秘めている事はある。
モノさんにも沙羅さんにも……僕だって糸さんに話して無い事はある(例えば過去の事とか)。
何でも明るみにすればいい物でもない。
「とかく。つるぎのことはいまはいいから、みつはねておれ」
「うん……、……鋏にはさ、隠し事とかある? (ウトウト)」
「なんじゃとつぜん。そんなの、もちろん『ある』わ」
「ふぅん……(ウトウト)」
「と、いっても、かくしごとというよりは、くちにしてないだけの『かこばなし』じゃが」
「それは……僕が知っちゃったら……鋏……居なくなる? (ウトウト)」
「つるぎはみつのそばからいなくならん」
「じゃあ……どうでもいいや」
彼女の言ってない『過去話』が、例え僕の人生に関する重大で悲惨な真実でも、今の僕にはどうでもいい事だ。
形の無い物などどうでもいい。鋏が居るならそれでいい。
——僕の意識はそこまで。鋏のプニプニ太ももの上で、僕は今【有る】幸せを噛みしめるのであった。




