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「ウサッ、船をお待ちなら、卯月のとこで休みません? 美味しいお茶もお菓子も気持ちいい露天風呂もあるピョン!」
旅館の娘さんだろうか? 商売熱心なおチビちゃんの誘いに負けた僕らはウサ耳幼女の提案を受け入れる事に。
「本当ピョン? じゃあついてくるウサ!」
語尾も徹底してるなぁと感心しつつ、ピョンピョン跳ねて移動するウサ耳幼女を目で追っていると……一瞬、視線が合った。
クスッ——
悪戯っぽい目付きと微笑。幼い見た目からの不意打ち気味な艶っほさ。
どうしてか、その笑みには見憶えがある。
「(ぼそ)ゆだんするなよ、みつ。あの【めうさぎ】、どうもおかしい」
僕の背中にくっつく鋏の小声に、小さく頷いた。
——来た道を戻る様に歩いていると、幼女が口を開く。
「その制服は、皆様〈帝釈学園御一行様〉ピョンね?」
「え? うん、そうそうよく分かったね。この奥野島に観光兼取材に来たんだよ」
「と、いうことは、貴方がモノ様ピョン? 実は、貴方に依頼を出したのは卯月ウサッ! 本当に来てくれるとはだピョン!」
「え、そうなの? 偉いねぇ、その歳で島の事を考えてるだなんて。よ〜し、お姉さん頑張って宣伝しちゃうよ!」
「期待してるピョン!」
ほのぼのとした会話をする二人。それを穏やかな顔で眺める沙羅さん。
一方、鋏の警戒は未だ解けておらず……樒さんも幼女を険しい目付きで観察していた。
それから歩いて一0分もしない内に、小さな旅館が見えてきた。立派な構えの建物……だが……僕らは自然と顔を合わせる。
この道は、先程通ったばかりの——芝公園から港までの——道、なのに、さっきは『こんな建物を見なかった』、筈。
「どうしたピョン? さぁ、遠慮なさらず入ったウサッ!」
世にも奇妙な気分を覚えつつ、幼女の勢いに負けた僕らは、そのまま旅館へと足を踏み入れた。




