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「さぁて、着いたよぉ!」
止まるモノさんの先には【廃墟】があった。外からでも中が覗ける程スカスカな、建物の亡骸。
「ここは旧陸軍の施設でね。この奥野島には他にも発電所の廃墟があったりするんだけど、マニアには結構有名な場所らしいよ?」
「いや、らしいよと言われても、アタシはあんま興味ねぇぞ? まさかコレが目玉だって?」
「いいや違うよ樒っち。……君達自身が【目玉】になるのだ」
「は?」
と眉を顰める樒さん。モノさんの視線は僕と鋏にも向けられている。
――モノさんがウサギ島に来た理由は、彼女のホームページに最近、『奥野島をPRして欲しい』という依頼が匿名であったからだと。普段からそんな依頼の多いモノさんだが、そのメールには何か惹かれるモノがあったようで……
「どうPRしようか悩んでたワケだけど、フェリーに三人が乗ってるのを見てピンッと来たんだっ。『電脳世界の暴走猫』こと樒っちと、ここ二日三日でネット界で知名度爆上げ中の五色神社マスコット『エリンギジンジャー』の蜜っち鋏っち、この三人がこの島を紹介すれば凄い宣伝効果になるんじゃないかって! ……やい沙羅っち!」
「ん、なに?」
「君は唯一の存在意義であるカメラを回してっ、ビデオモードね!」
「任されよう。男一人のハーレムには労働という対価も必要だしさ」
「沙羅っちの事はどうでもいいけど、撮影したのを動画サイトにアップすれば、樒っちも私も五色家も夢の美少女コラボにより更に名を上げられ、この島も話題になる。これ以上のWinWinは無いよ!」
「はぁ……やるしかねぇのか」
と抵抗を諦めた樒さん。僕と鋏も強制参加な流れだが、『五色家の為』と先打たれては断れない。そんな僕の心理を利用してるのなら、モノさんは大したモノだ。
――それからは、廃墟、海水浴場等を転々としながら(モノさんの厳しい演技指導に則って)撮影する。
通りかかった島人さんから『宣伝の御礼』と貰った名物のタコ串を三人で食べさせあったり、ウサ耳を付けてキャピキャピしたり、しまいには沙羅さんも女装させて四人でキャッキャウフフしたり……
撮った映像を見ると、まるでアイドルのイメージビデオのようなあざとさが全開で。
「ちょいと百合ッぷりを香らせれば視聴者の心はぴょんぴょんと爆釣れだよ!」
なんて、モノさんは真面目に熱く語る。最近のニーズはよく分からんな。
ウサギが多く集まる芝公園では、綿毛の様な体毛を持つアンゴラウサギやホッキョクウサギなどの珍しい種類も屯っていて、
「しかし、こう見ると本当に因幡さんはウサギみたいだね」
ファインダー越しに沙羅さんが、ウサギらに囲まれ埋れる僕を見て呟く。手に餌も無いのに、こいつらは僕が来た途端集団で襲って来たのだ。
「変な気起こすなよ沙羅っち! こっちは糸っちから蜜ちゃんを託されてんだからっ。……でも、確かに異常な位懐かれてるなぁ。見た目や雰囲気もあいまって、『仲間』だと思われてるのかも。それに引き換え、こっちの二人は――」
「このラビット共アタシを避けるたぁいい度胸だ! あ? 『ダニが寄るから離れろ』だ? シチューにすんぞ!」
「こらうさぎども、みつからのけ!」
ウサギが一匹も集まらない樒さんと鋏に、モノさんは哀れみの視線を送る。二人が触ろうとすると、邪な思いを感じ取ってるのか、ウサギらは『クークー』と威嚇し出すのだ。中には二人の顔面に体当たりするという命知らずな殺人毛玉も。
可哀想に、毛がモフモフで清潔感もあって気持ち良く、干した布団の様な自然的で落ち着く香りもして……ふむ? これ、どこかで……昔嗅いだ事のあるような……今そんな懐かしい気持ちに……?
「よし、撮影はこんなとこかなっ。そろそろ帰りのフェリーが来るから、撤収するよ皆っ」
モノさんに言われ、しがみついたウサギを引っぺがしつつ僕は立ち上がる。芝公園を離れる際、ウサギ達がその場から動かずじぃっと僕らを見つめていたのが少し、不気味だった。
港までの道すがら、携帯をチェックすると、糸さんから写真付きメールが。本文は特に無く、画像の内容は、水族館のような所で笑うクラスメイトらと写る一枚。糸さんは相変わらずの無表情。
「あらら。竜宮城に居るのに糸っち、浮かない顔してるねぇ」
メールを覗いてくるモノさん、友人ゆえに糸さんの微妙な表情の違いを読み取れるのだろう。僕も、モノさんと同じ事を思った。
「蜜ちゃんが居ないから寂しいんだろうねぇ。よーし、こっちも糸っちにベストショット送ろっか!」
モノさんが自らの携帯に表示させたのは、さっき芝公園で撮った画像。
「送信っ」
とモノさんは糸さんに画像を送り……一0数秒後、糸さんから僕宛てに『本文無し』メールが届いて二人で
「「こわっ!」」
と漏らした。
――港に着いた僕ら……だが、何かおかしい。フェリーの船員達が、慌ただしい様子なのだ。
沙羅さんが船員から話を訊くに、何でも、船にトラブルが起きたらしく、出発が更に一時間半程遅れるとの事。
更に更に悪い事は続くもので、海の状態も今後悪くなる可能性があるらしく、最悪、船が出せなくなるとも。
すかさず糸さんに『戻れなくなった』と事情をメール。今度は返信すらなし。帰った時が怖い。
「帰れないパターンも考えないと。シーズンじゃないから民宿もやってないらしいし……説明すれば一晩だけならどこかの建物で過ごす事は出来るだろうけど……最悪野宿?」
「アタシと沙羅は島育ちだから野宿は余裕だが、お前ら大丈夫か? 一0月の夜は寒いぞ」
さて、二時間どう時間を潰そうかと皆で唸っていた……その時。
「お困りピョン?」
背後から、鈴の様な可愛らしい声。振り返ると、『袴を着たウサギ耳幼女』が首を傾げていた。
透き通る様な白い長髪とルビーのような赤い瞳。足下にはウサギを数匹従えていて……
何というか、色々属性混ぜ過ぎである(鋏もそうだけど)。




