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〈二〉
乙姫様のごちそうに〜 鯛やひらめの舞踊り〜 を僕は今頃楽しんでる、筈だった。
しかし。今、視線の先に居るのは――ヒクヒクと鼻を動かす【ウサギ】。
僕は今、人口二00人にも満たない小さな島、ウサギ島こと【奥野島】へと来ていた。
経緯は単純だ。
旅館からバスで港まで来ていた僕ら五色神社組。
目の前には二隻のフェリー。
『先に乗っておいて下さい』
と僕の為に酔い止めを買いに場を離れる糸さん。船に乗る僕と鋏。
だが乗ったフェリーはウサギ島行きでしたとさ、ちゃんちゃん☆
……当然、島に着いた後、携帯で糸さんからグチグチお叱りを受け……一通り吐き出した辺りで彼女は『ふぅ』と息を吐き、
『考えるに、モノさんと沙羅さんの赤い縁糸の力に巻き込まれた可能性もあります。彼女らの親愛度が増すイベントのキャストに、蜜さんが含まれているのかも』
「それは傍迷惑な話だ」
と呟きつつ、僕は視線を動かす。場所は港だが、既に何匹かのウサギが観光客から餌(百円)を貰う為に集まって来ていて……それらと戯れるモノさんと【樒さん】、あと、写真を撮る沙羅さん。
『やはり、私も今からそちらに向かいます』
「いや、だからそれは賢い選択じゃないって」
既に竜宮城に居る糸さんが今から此方に向かったとしても、到着時間は約三時間後だ。今は昼前後。明るい内には合流出来るが、中途半端過ぎる。それなら……
「そっちはそっちで楽しんだ方が良いよ。こっちの帰りの船は二時間後だけど、行けるなら行くから」
『……、……離れるなと言ったのに(プツン)』
ヒェッ、いきなり切られた! 最後の恨み節怖すぎぃ!
「おわったか?」
と訊ねる鋏に僕は頷く。
「うむ。ならば、うさぎじまをまんきつするか。と、いっても、うさぎだらけのしまで、なにをたのしめばいいのやら」
「そりゃあお前ら、郷土料理だろっ」
答えたのは僕では無く、いつの間にか僕の背後に居た樒さんだ。居る、というか首に抱き付いて来た。
背中に当たる肉の感触……ふむ……意外にある。
「こらめすねこ! なれなれしいぞ! みつにさわるな!」
「おお悪い。いつも弟にやるノリでつい、な」
と素直に離れる樒さん。相変わらずピコピコ動く高性能な謎の猫耳と尻尾だ。
因みに、彼女もオカルト部としてこの島のオカルトな事象の調査に来たらしい。昨日はシロロさんも来ると言っていたのに、当日になって熱を出し、旅館に居るとの事。
『温泉で逆上せたのかもね。僕も残ると言ったら、仕事して来いって追い出されちゃった』
と沙羅さんがさっき笑って話していた。
「そんな訳でお前ら、早速ウサギ料理食える場所探すぞっ」
「流石にそんな郷土料理は無いと思うよ? だってここ『兎信仰』だし」
突っ込みを入れるのは、カメラを持ったまま此方をパシャリと撮る沙羅さんだ。
「んだよ沙羅、ウサギなんかを神聖化してんのかここ? 崇め奉るなら猫を信仰しろ猫をっ」
「僕に言われても。ちゃんと理由があった筈だけど……何だっけ? 説明してよジャーナリスト」
「はぁ? んで私が沙羅っちの頼みなんか……ハァ。まぁ、一般的には兎信仰とも月待信仰ともいうんだけど、昔は農作の都合で太陽信仰より月を信仰する人が多かったらしいのね、日にちをよむ手段が月しかなかったから。だから多分、ここのはその名残かな? ……で、もう察してると思うけど、ほら、月にはウサギが居るっていうじゃん? それでウサギを神使とみなしてるんだと――」
モノさん、ノリノリである。一向に口が止まらない。そんな彼女を微笑ましげに見つめる沙羅さん。確かに、幼馴染特有の仲良さげな空気はあるが、子供と保護者に見えなくもない。
「ウサギと言えば、兎信仰でも無いのに突如ウサギが湧いた五色神社の事も調べたいんだけど」
「分かった分かったモノッ。で、この島では何か食いもん以外に目玉はあんのか?」
「お、まかせて樒っち! 私に良い考えがあるよ!」
言って、モノさんは(船内で手に入れた)地図を見ながら僕らを何処かへ誘導する。
僕と鋏は彼女に従う義理は無いのだけれど、暇だったので無言でついて行った(鋏は不満気だったが)。
――強い日差し、雲一つない毒々しい青い空、湿っぽい海風……一0月だというのに歩くだけで汗をかく。自生するヤシの木やソテツなどの南洋植物も、暑苦しさに一躍かっていた。
そんな僕達の後ろを、ついてくるのら『ウサギ達』。
餌目当て……かと初めは思ったが、僕等に固執する程ここは飢える環境でも、興味をそそられる程他所の人間が珍しい観光地でも無い……筈。
じゃあ、ウサギは何と無くついて来てる? それならまだ分かるけど……
一見微笑ましい光景。だが僕には、まるでウサギ達が、僕らを――。




