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『コポポポポ……』
テーブルの上に置いた湯呑みに、糸さんが熱々のお茶を淹れてくれる。
部屋に戻った僕らは冷えた体を温める為、お茶を飲んで一服する事に。鋏は相変わらずのおねむ。今は僕の膝枕でスースーいってる。
ズズッ……んまい、お茶請けの饅頭と良く合う。流石は糸さん、伊達に寺生まれじゃない。
まぁ、これに限らず――ママさんの教育の賜物か――全ての所作に気品さが滲み出ているワケだが。僕はよく分からないけど、和室での作法も完璧なのだろう。
失われし大和撫子はここにいた(ただしギャルゲーマー)。
「しかし……相変わらず覇気の無い顔ですね、蜜さんは」
唐突なディスが僕を襲う。しかしその台詞はブーメランとなり彼女にも刺さる。
糸さんが見ているのは、テーブルに置かれた一枚の写真。沙羅さんがポラロイドカメラで撮ってくれた、僕達三人が映る写真だ。
「糸さんも随分時化た面してるじゃない」
「私はいつも通りですよ」
「それは僕も同じで……って、ん? なんかコレ……僕らの背後に……変なの写ってない?」
まるで落ち武者のような、鎧を着たおっさん。あの時、周囲にそんな格好の人は――
「ああ、有名なんですよ、沙羅さんの撮った写真には『必ず写り込む』と」
「怖ぇよ。糸さん落ち着き過ぎじゃない?」
「害は無いらしいので心配は不要かと。私には理解出来ませんが、その特異な点も含め、彼は世間で高評価を受けてる様子で。『この世ならざる者が入り込みたくなる程の撮影の腕』、と」
「成る程なぁ。しかし、可哀想だねモノさんも。職業上相性はバッチリなのに、沙羅さんにはシロロさん含め多くの愛人が居るんでしょ? 割り込む隙なんて」
「貴方が気にしないでも、あの二人は大丈夫です」
「と、いうと?」
「モノさん、沙羅さん。両者の間には〈赤い糸〉があります」
赤――それは確か『運命の相手』同士に繋がる縁糸だったか。
「何があろうとあの二人はくっつきます。恋愛漫画を読んだ際、こう思った事はありませんか? 『主人公とヒロインが劇中で仲違いしようが、どうせ雨降って地固まるんだろ? 茶番茶番』と。それと同じ様に、運命のように呪いのように……悪い出来事も二人にとっては心が近付くイベントにしかなりません。蜜さんもいずれ知る事になるでしょう、『赤い糸のどうしようもない脅威』を」
「そんな風に脅されても」
目の前にある心霊写真より怖くなって来るじゃないか。
「当面、巻き込まれぬよう注意して下さい」
と言って糸さんはスックと腰を上げ、
「そろそろ布団を敷きましょうか」
とテーブルの片方を持つよう目配せして来た。部屋の隅に置くのだろう。
こういのは普通旅館の人がやりに来るイメージだが、流石に全クラス分を回るのは大変だろうという事で、生徒自身が敷くよう前以て校長から伝えられている。
「二組しかないですね」
「いんじゃない? 僕はいつも通り鋏と寝るから」
ぱっぱと作業を終え、歯を磨こうと洗面所に向かおうとして……『ドンドン』と、少し荒めに戸を叩く音。
『おい開けろぉ〜、教師チェックの時間だおらぁ〜』
戸越しにヤンキー担任尾裂狐先生の声。見回りをする時間なのだろう。
「(ガラッ)……おぉ〜、青春してるか五色家ぇ〜」
戸を引いた途端、ムワッとアルコール臭。教師同士で反省会という名の宴会でもしてたのか。
「おらぁ、部屋に男連れ込んだりしてねぇかぁ〜? 押し入れに隠してねぇだろうなぁ?」
「『そんな場所』に居る筈がありません」
そうだね糸さん、堂々と居るもんね。
「んだよ五色家ぇ、それでも一0代の若もんかぁ〜? 男子の部屋に遊びに行くとかエロチャンネル見るとかしろよぉ〜」
「興味が無いです」
「枯れてんなぁ。もっと甘酸っぱくほろ苦い青春しろょ〜火遊びしろょ〜。数年前の高校時代のあたしだったらなぁ〜」
「聞いてません。そんなに男女に喝を入れたければ、白錆さんらの部屋に行かれては?」
「……あいつらは『甘酸っぱさ』がなくてちょっとなぁ。ブラコン過ぎる樒と愛が重過ぎるシロロ、その中で堂々としてる沙羅。怖くて見に行きたくねぇよ」
「職務放棄しないで下さい」
と呆れ顔な糸さん。確か、沙羅さん樒さんシロロさんの三人部屋だっけか。男一に女二の部屋。普通なら認められない組み合わせだけど、今更か。
「い、何れにせよ、何事も後悔が無い様にな〜。ホラ、これでも食ってテンション上げろよ〜」
どこからか取り出したか【それ】を僕らに放り投げるなり、尾裂狐先生は出て行った。
渡されたそれは……ウィスキーボンボン。
「仕方ありませんね。それを食べたら歯磨きですよ。明日は竜宮城もありますし、早く寝ましょう」
「そうだね。思えばコレ、食べた事なかったなぁ。まぁ所詮、子供のお菓子」
――その先の――意識は曖昧――




