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髪を乾かした後は、三人で箱根の温泉街を浴衣姿で探索。


お土産屋や屋台、スマートボール(子供向けピンボール)のお店が至る所にある。

以前まで、有名な観光地のわりに小綺麗なお土産売り場が連なるのみの場所だったが、最近になって昔ながらのレトロな温泉街――伊香保温泉のような――を再現しようという動きがあって、この形になったのだと糸さんが教えてくれた。


というわけで、僕らも、僕も、『普通の人達』と同じ様に遊びを楽しむ。


「みつ! あの【くしかまぼこ】と【まんじゅう】たべたい!」

「はいはい」

「みつ! あの【しゃてき】とかいうのがきになる!」

「はいはい」


鋏からあっちこっちと振りまわされる僕。それを何も言わずに後ろから着いて来て見守る糸さん。

この温かくて、同時に寂しくなってくるような感覚はなんだろう。


安心感……寂寥感……ノスタルジック……


様々な感情が入り乱れる。初めての感覚で……だけど、嫌な気分では決してない。

夜の紫と月の光のレモン色、浴衣の青と赤、提灯の温もりのある橙……

今まで気付かなかった。世界に、こんなにも『色』が満ちてるだなんて。


「なにをたそがれてるんじゃみつ! それよりあの【げーせん】であそびたい!」

「はいはい」


アーケードゲームの筐体が並ぶ店内に入り、鋏と二台の筐体を挟んで向かい合うように座る。選んだのはレトロな格闘ゲーム。ゲームには(他に遊ぶ物も友人も居なかったので)自信のある僕だが、適当にガチャガチャ動かしてる鋏も中々に強い。


「楽しいですか?」


と僕の隣に座る糸さんが訊いて来る。


「勿論、楽しいよ。それこそ毎日ね」ガチャガチャ

「そうですか。……折角、蜜さんは自由になったのです。何か、欲しい物やしたい事などないのですか?」


本当に。糸さんはいつも僕の事を考えてくれている。過保護なくらい、それこそ家族のように、お姉ちゃんのように。


「欲しいものならもう手に入ったよ」ガチャガチャ


十分な位に、溢れる位に。


「はぁ。では、やりたい事は?」

「う〜ん」ガチャガチャ


やりたい事、か。あるにはある。例えば、現状を変えてくれた五色家に恩返しとか。

五色家に拾われなければ、僕はきっと今も誰とも絡めず、一人で延々と地の文の物語を展開してただろう。

具体的にどう恩を返すのかは決めてないけど……先に糸さんにでも感謝の言葉を伝えれば良いのかしら?

でもそれは、まだ、こっ恥ずかしい。


「あるにはあるけど、まだ内緒で」

「曖昧で秘密ばかりですね」


と、濁してばかりの僕に糸さんは不満げだ。

悪いが、もう少しだけ追加で待ってて欲しい。自分の中で纏まったら言うから。


「……ん? あ、あ〜! おい鋏今のハメでしょ! ノーカンなノーカン!」


クソ! 同じ五色家でも鋏には感謝なんてしないからな!

糸さんは呆れ顔を横から感じ取った。



一0月の夜の肌寒さを再認識し、加えて、外出の門限が近づいたのでそろそろ旅館に、という頃合い。長く人化を続けた代償として普段より早めにダウンしてしまった鋏を背負いながら糸さんと歩いていると、正面から『カシャカシャ』とシャッター音。

ライトアップされた椛の木の下で、沙羅さんが一人、カメラを手に風景を撮っていた。


「……お? やぁ、こんばんは」


カメラを下ろし、僕らに柔らかな笑みを向けて来る。幾つもの女子を堕としたらしいスマイルだが、そこは糸さん、顔色を変えず頷くのみ。


「お仕事ですか? 学園側からも色々と撮影の依頼を受けてると聞きましたが」

「いや、調整を兼ねての趣味活動だよ。温泉地というのは賑やかな素材が豊富だからね。全く、こっちは趣味でやってるのに、学園側も横暴だよね……って、個人的な話は置いといて……君達は戻る所? ああ、もうこんな時間か。あと数枚撮ったら、僕も切り上げようかな」

「そうですか。では、私達はこれで」


と先をいく糸さん。


「ん、あ、そうだ。これも何かの縁だし、三人の写真、撮ったげよっか?」


振り返る糸さん。その瞳はキラリと輝いていた。


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