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浴場から露天風呂へ続く扉を開くと、隙間からヒンヤリとした風が抜けて行く。

通路を進むと、間も無く『ジョボボ』と湯口の音が聴こえてきた。


「成長はこれからだよモノさん」

「うるさい黙れ」

「……あら、またお客さん?」

「お客さんは僕らもだろうに……って……噂をすればニャンとやらだ」


楓の木に囲まれた造りの露天風呂には先客が居た。

一人は沙羅さん、一人は気まずそうな顔のモノさん、もう一人は『白銀髪色クォーター天才科学者オカルト部部長大手重工お嬢様』であるシロロさん。その肩書きの多さに負けを劣らず、溢れるメインヒロインオーラは半端じゃない。


糸さんに引けを取らない我儘ボディだし、学校では基本沙羅さんの近くに居るし。その所為でブラコンな樒さんとの対立が多い様だが、そんな部分もヒロインとしての風格を感じさせる。

そんな二人の空間に迷い込んでしまったモノさん、クリスマスの街を単身で居るような居心地の悪さを感じている事だろう。明日もそんな事に、と考えると、いたたまれない。正直、勝ち目も見えない。やはり幼馴染は負けヒロインだった……?


「お邪魔でしたか?」


と訊ねる糸さんに、


「気にしないで」


とシロロさんは肩を竦める。


「寧ろ話がしたかった所よ、貴方達と」


言って、シロロさんは僕を見た。凛とした美人というのもあるけど、妙な威圧感があるなこの人。怖い。


「それではお邪魔して」


遠慮無しに湯船へ入る糸さんに僕も続く。外なのもあってか、湯は室内より少し熱めだ。


「……、樒さんは一緒では無いのですね」

「うん、しき姉は後で入るってさ。今は風呂覗きを画策する男子連中を千切っては投げしてる頃だと思う。僕もはじめは男子側につく予定だったんだけどねぇ」

「まだ言ってるしこの子は。そんな努力をしなくとも、どちらにせよ貴方は女子風呂よ」

最早、誰も沙羅さんの性別に疑問を持たないんだな。確かに、こうして間近で見ても女の子にしか見えないが。

「そういや、樒っちといえば入学から今日までの半年近く、色々あったねぇ。途中『死んじゃったり』もしてたし」


モノさんの言葉に苦笑する沙羅さんとシロロさん。何だよ死んだって、穏やかじゃないな。


「蜜ちゃんは知らないよねぇ? あのね、夏休みが終わってすぐ、樒っちが死んだっていう衝撃ニュースが学校中に広がってね。それと同時期だったよね? 半年行方不明だった沙羅っちが『姉の意思を引き継ぐ為』って編入して来たの」

「ああ、まぁ、うん、そうだったかなぁ」


曖昧に頷く沙羅さん。明らかにこの話を続けたくなさそうな態度。


「けど、沙羅っちが来て一週間後ぐらいだったかな、樒っちが『生き返って』普通に学校に来たのは。でも微妙に前とキャラが違ってて……噂になったんだよ? 実は前の樒っちは『沙羅っちの変装』で、何らかの事情で高校に来れなかった樒っちの代わりを勤めてたんじゃないかって」


「いや〜無いわ〜、そんな典型的な『双子入れ替えトリック』ないわ〜」


目が泳いでる沙羅さん、そんな彼に呆れ顔なシロロさん。


「ま、そうだよねぇ、メリットが何もないしねぇ。ジャーナリストとしては、生き返った樒っちについてもっと踏み込みたい所だけど……尻尾すら掴ませないし、掴めないんだよねぇ」

「だからその先は私ら【オカルト部】に任せなさいって。操觚さんは表舞台で頑張ってればいいのよ。好奇心で『こちら側』に踏み込んではいけないわ」

「かっけぇ」


と目を輝かせるモノさん。胡散臭い部活が、真面目そうなシロロさんが所属する事によって、真っ当な部活動に見えて来るマジック。

……にしても、モノさんは二人を前にして、よく普通にしてられるな。心中複雑だろうに。

先程のモノさんの過去話の中には、少し沙羅さんに触れた部分もあった。出会いは小学校の時で、彼がモノさん宅近くに越して来たらしい。

すぐに打ち解けた二人であったが、蜜さんは殆ど自分の事は語らなかったようで……シロロさんが彼の生まれ故郷のファースト幼馴染である事も、姉である樒さんの存在も、最近になって分かった事なのだと


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