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「ん? お、ウチの学校の奴らバスに乗り出したぞっ。もう旅館に行くのか」
樒さんの言う通り、正気を取り戻した皆が既に移動を始めていた。クラス担任のヤンキー教師――今更だが名は尾裂狐――も『早く乗れー』と叫んでいるから、僕らも急がなきゃだ。
「アタシは沙羅達と合流してくるわ、じゃあな。……っと、ホラよ蜜っ」
デジャヴ。昨日と同じように、樒さんは僕にコーラグミを放り投げ、去って行った。
「――、それ、樒さんからの頂き物だったのですね」
何故糸さんから粘っこいジト目を受けねばならんのか。
「お? 何やらネタの匂いがするよ? これは泥沼痴情のもつれスメ〜ルだッ」
モノさんがうるさい。
『ドンッ』
と。モノさんがうるさい所為で注意力散漫になった僕は、男の人とぶつかってしまう。
「すいません」
と顔を上げる。……イケメンだ。見た目は同い年ぐらいか。しかし、なんというか、目が死んでて負のオーラが凄い。
ぶつかった相手は、ギロリ――と僕を睨め付け、
「お、お前もぼくの邪魔をするのか!」
いきなり、意味不明な台詞を叫びながら襲い掛かって来た。
が……
「あ」
……ガッと、避け際の僕の足に引っ掛かり、相手は地面へヘッドスライディング。こ、これって事故だよな?
「かかかっ、やるのぅみつ。――ふむ、こやつおもしろいぞ。もつ【えんし】のほとんどが『くろい』」
芋虫のように蠢く彼を「ゆかいゆかい」とつま先で突つく鋏。
今の言葉が本当なら、さぞや辛い人生だったろう。ちょっとしたきっかけで爆発するのも止むなし、不幸ぶってた自分が恥ずかしい。
「ぼ、ぼくに楯突く事の意味を教えてやる! ママー! 助けてママー!」
どれ、鋏に黒いのを切って貰おうと思ったが……やめた。イラっとしたんで。
「どうしたの蓮ちゃん!?」
どこからともなく現れた、スーツ姿の品のある女性。転んだ蓮ちゃんの膝をさすりながら
「痛いの痛いの飛んでけ〜」
と励ましている。
「あちゃ〜、面倒臭い事になりそうだよ蜜ちゃん」
と耳元で囁くモノさん。
「あの女の人、【椿建設】の社長さんだよぉ。総資産額世界トップテンに入ってる大企業のねぇ。親バカでも有名で、息子【椿 蓮華(つばき れんげ)】の為ならどんな手段も辞さないとか」
はぇ〜、これがジャーナリストの情報網。しかし、確かにそれは面倒臭い事になりそうだ。
「しかたないのぅ」
と鋏は今にも僕の為に無茶する気満々だし。お前が頑張ったら赤レンガ倉庫が【別の赤】で染まっちゃいそうだし。どうしたものかと燻っていると、蓮ちゃんママが此方を『キッ』と睨み出し、
「貴方達、ウチの蓮ちゃんに――――え?」
だが、すぐ驚愕の表情に。
「そ、その制服って」
「おやおや? どうしたんだい蜜ちゃん達?」
おっ、良いタイミングで校長が現れた。地に伏せる蓮ちゃんを見た校長はすぐに状況を察した様子で。
「奇遇ですね椿さん。それより、ウ チ の 子 達 が な に か ?」
「い、いえ……乙女校長……ま、また、ウチの蓮華が人様に迷惑を掛けたようで……」
蓮ちゃんママが校長に虐められてる。大人の世界って怖い。というか校長の名字? って乙女かい。
「はぁ。息子さんを甘やかし過ぎですよ椿さん」
「お恥ずかしい限りです……ついつい、良くない事続きな我が子に甘くなってしまって」
「お気持ちは察します。ですがご安心を。蓮華君も来月から我が校の生徒、今の腐った性根も叩き上げられ立派な男になるでしょう」
「どうか……お願いします」
「ママが頭を下げるなんて!? ママ! この人何者なの!?」
「……帝釈学園の校長よ」
「あ、あの悪名だかい……?」
と身震いする蓮ちゃん。何をやったんだ乙女ちゃんは。
「ママ! やっぱりぼく学校行くのやだ! 今まで通り仕事の手伝いするから何とかしギャフン!?」
蓮ちゃんが面白い声を出した原因は、【糸さん】が彼の髪を掴んで地面に叩きつけた所為だ。レスラーか。
糸さんはグイッと蓮ちゃんの髪を引き上げ、自らの瞳と鼻血を垂らす彼の怯えた瞳とを合わせる。
――ん? 気の所為か、今一瞬、糸さんの瞳と髪が『黄色く』光った?
「男がピーピー泣き喚かないで下さい。……私は縁を扱う神社の巫女です。不本意ですが、貴方に今、『良縁』の願を掛けて上げました。どう活かすかは貴方次第です。コレでダメならばもう諦めなさい」
掴んだ髪を離し腰を上げた糸さんは、そのまま僕の所まで来て、
「行きましょうか」
と僕の手首を掴み、バスの方へと引っ張る。
チラリ……振り返ると、蓮ちゃんは呆然と糸さんだけを見つめ、僕の視線に気付いた蓮ちゃんママは此方に一度お辞儀をし、校長に至ってはヤレヤレと肩を竦めていた。
「ひとがよすぎるのぅ、おまえは」
と意地の悪い顔の鋏に、糸さんは
「フン」
としか反応しない。
「ほっ。何はともあれ、糸っちに願掛けされた彼はもう安心だねぇ。蜜ちゃん知ってる? 糸っちの手に掛かればさ、どんな相手にもすぐに【欲しいもの】か訪れるんだよぉ。それは友達だったり、限定品だったり、物や概念を問わずにね。縁切り神社で生まれた縁結びの巫女……興味は尽きないなぁ」
「ふぅん」
――糸さんの顔を見る。
ムスッと苛立ってる様子。コーラグミをあげてみた。
一瞬柔和になるも、すぐ、さっきより苛立った顔を向けられた。
何故だ。




