【三章】20
―― 三章 ―― 兎 ―― ――
〈一〉
翌日。新幹線で二時間強の移動を経て、研修(二泊三日)先、横浜に到着。桜木町駅から徒歩数分の【赤レンガ倉庫前】に集まる帝釈学園高等部一年生ら。
研修先はその名から水族館をイメージする場所だ。因みにだが僕、前日まで何処で何を研修するのかも知らず、先程新幹線内で糸さんに教えて貰ったという体たらく。なるようになるさ精神はいつか痛い目を見そうである。
「はい! じゃあ一日目に【竜宮城】に行く子はこっち集まって〜」
校長の呼び掛けに集まる生徒達。
竜宮城とは、校長の経営する――本来なら各界の名士やら政治家のみが入店を許可されるという――娯楽施設だと。
御伽噺に忠実に、この世の理想郷とまで囁かれる程の中毒性ある楽園、らしい。
今回の研修は校長曰く、『ビックになって次は自力で来てみろ』と活を入れる目的があるのだとか。まぁ、帝釈学園卒業生でビッグになれなかった者は一人も居ないらしいが……一体どんな手を使ってるのやら。この学園の闇は深い。
閑話休題。竜宮城研修、僕は明日の予定だ。従業員として働く時間もあれば、遊べる時間もあるのだと。帰りに玉手箱、貰えるのかしらん?
「貰えるよ。お菓子詰め合わせのレプリカだけどね」
ビクってなった。真横からいきなり声を掛けられてビクってなった。
「蜜ちゃんには明日、特別に見せてあげよう。我が家に伝わる〈乙姫〉の秘宝をさ」
カッカッカッと笑って去る校長。勝手に人の心を読んだりと、本当に自由な人だ。
「ククク……待ちに待った竜宮城への潜入だ。未だかつてその詳細が世間に公表されていない桃源郷……ジャーナリストの血が騒ぐ! 良い記事書かなきゃだね! それじゃ三人とも、また後で!」
意気揚々とモノさんも去って行った。痛い目見なきゃいいけど。
「一日目組は皆大型客船に乗って行きましたね。……では蜜さん、私達も参りましょう、鎌倉に」
「かまくらぁ? そんなほこりくさいばしょになぞいけるか! むかうは【かっぷぬーどるみゅーじあむ】じゃ!」
「遊びに来たのでは無いのです。自由時間とはいえ、『歴史的な場所に足を運べ』という条件もあります」
「あるいみれきしてきなばしょじゃろ!」
睨み合う糸さんと鋏。ところで、鋏の台詞が平仮名だらけ、もとい舌足らずな感じなのにはワケがある。
彼女は今、見た目が少女から〈幼女〉へと変わっていた。
理由を話せば長く……はならないのだが……
「蜜さんがこの〈疫病神〉を神社に残るようしっかり説得しておけばこんな事には。そもそもウチの神は神無月なのに何故島根に行かないのかと」
「ふんっ、むだじゃむだじゃ。『ほんぎょう』なぞ、わが【はんしん】ていどでじゅうぶん! あとしまねなぞきょうみないわ」
と、まぁ説明があった通り、現在五色神社には鋏の半分――ペーパーナイフのようなモノが――祀られている。機能的には問題無いらしいが、デメリット? としてこのように『ちんまい』幼女の姿に(服装は初期アバターである甚平)。周りからはさぞ五月蝿い連中に見えてる事だろう。
「落ち着いて二人とも。別にどっちもまわればいいじゃない。ここから近いのはミュージアムだからそっちからね」
「やったぜ」
「……はぁ。全く、相変わらず甘い」
そんなワケで今日一日、三人で観光……もとい校外活動を楽しむ。
ミュージアムでオリジナルカプメンを作ったり――
鎌倉のオシャレカフェでお茶したり、申し訳程度に寺巡りをしたりして――
気付けばもう〈夕方〉。
まるで一瞬だぁ。殆どが移動時間(横浜――鎌倉間往復二時間)だったんで、そこを省けばこんな描写になるのもやむなしだが。
何か厄介ごとの一つもあるかなと警戒していたが全くの杞憂で、普通に三人で楽しんで来た。僕の見えない所で鋏が『悪い縁糸』を切ってくれてたのかもね。
再び、集合場所である赤レンガ倉庫前に行くと……
「なんじゃあやつら? きもちわるい」
ポケーッと、まるで魂を抜かれたような表情の集団がいた。怖い。というか我が校の生徒らだ。
「よぅお前らっ、帰ってたかっ」
フラリと元気に現れる樒さん。彼女も竜宮城組の筈だが、廃人化してる様子は無い。同じく竜宮城組の弟の沙羅さんは……うん、あっちで普通にクラスメイトのシロロさんとイチャついてるな。
あ、こら鋏、僕にしがみついて相手を威嚇しないのっ。
「皆さんどうなされたんです? まさか本当に、竜宮城に骨抜きにされる程の魅力が?」
「あるみたいだな。アタシとか沙羅は『ワケあって』初めてじゃねぇから耐性あったが」
苦笑する樒さん。次々に意味深な設定が足されるなこの人。
「ったくよぉ、校長は加減ってもんを……ん? おいっ」
夢遊病患者のようにフラついていたクラスメイトの肩を掴む樒さん。その人物は――モノさん。
「う〜」
とヨダレを垂らしてるわ目の焦点が合ってないわで酷ぇ顔だ。
「目ぇ醒ませモノ〜(パンパン)」
「にゃ〜……っハッ!?!? ここは!? 頬がヒリヒリする!?」
「醒めたか。今の状況解るか?」
「ああ――うん、うん! い、やぁ――凄い所だったね竜宮城は! あっという間に時間が過ぎちゃった! ウラシマ効果ってヤツ? ホントッ、何が凄かったか思い出せない程のクオリティだよ! 記事なんて書けねぇ! ガハハ!」
ハイになってるなぁ。
あれだけ『竜宮城なんかに負けない!』と息巻いてた癖に、結局『やっぱり勝てなかったよ』と即堕ちしちゃってさ。




