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第一話 「魔法少女」


一四歳になったある日。

学校の帰りに、虹色に光る石を見付けた。

見付けた時は、太陽の光を浴びて光っているだけだと思っていた。

だけど、拾い上げた時に、それは違うと確信した。

どんなに暗い所に持って行っても、光り続けていた。

その不思議さに興味を持ち、家に持ち帰って、飾っていた。

その日の夜に、私の身に異変が生じた。

虹色の石の光が強くなっていて、それに触れたら、パブロフスク要塞にいた。

意味が分からなかった。

周りを見渡すと、人は動きを止めていて、聞こえるのはズシン、ズシンという、まるで怪獣の足音のような重い音。

それが聞こえる方を向くと、目の前には、白い毛を生やした、大きなゴリラが立っていた。

それが怖くて、逃げようとしたら、その石から声がした。

あいつを倒して。 君が魔法少女に変身して、あいつを倒して、と。

これのせいで、混乱に陥ったが、そのすぐ後に、いきなり心が落ち着いた。

石が、君の心を落ち着かせた、と語っていた。

その後の事は、細かくは記憶に無いけど、ずっと落ち着いていたのは覚えている。

石に言われた事を全てやった。

服をイメージをしろと言われたから、イメージしたし、呪文を唱えろと言われたから、唱えた。


「天よ。 遥か遠き天よ。

どうか、私に力を与えたまえ。

愚かな者を正しき道に戻し、天に還す力を。

地よ。 足下の広大な地よ。

地を汚す邪悪を天に戻し、綺麗な地を残す事を、ここに誓おう。

雪娘、ここに舞います」


呪文を唱えた時までの事は、まだ明確に覚えていた。

そこから先だ。

気付けば、私の身長と同じくらいの鎌を手に持ち、そのゴリラを切っていた。

溢れる血を被り、それでも鎌を振り回していた。

そして、気付いたら、警察に囲まれていた。

小さな部屋に連れて行かれ、今まで聞いた事が無いくらいの乱暴な言葉を浴びせられ、怯える生活を少しした時に、やっと解放された。

そう、思っていた。

次に連れて行かれたのは、軍だった。

-二○二六年-


資料が綺麗に積み重ねられている、木を模した色のデスク。

目の前のパソコン用と見られるモニタは、埃一つ被っていなかった。

それを目の前にしている男は、その整ったデスクを使わず、黒いデスクチェアにもたれ掛かり、タブレット端末に触れていた。


「状態異常、なし。 訓練の様子も良好……と」


何かブツブツと喋りながら、端末を弄る男を、周りの者は気にする事なく、各自の作業をしている。

そんな中、一人の女性が立ち上がり、男の元まで行った。

緑の迷彩で、デジタルフローラの分厚い服の上に、白衣を着て、身嗜みを整える表現のように、眼鏡を掛けたその女性は、紙を五枚程束ねた資料を片手に持っていた。


「フェーリクス室長」

「どうしましたか、アリフィヤ中尉」

「ユーリヤ大尉についてですが」


フェーリクスと呼ばれた男は、アリフィヤという女性の口から放たれたその言葉を聞き、すぐに、あぁ、と一言呟いた。


「言いたい事は何となく分かります。 戦闘機の搭乗訓練の事でしょう?」

「ご名答です、室長。 あまりにも訓練の実施回数が少ないとの事で、遠隔地における敵の出現への対応時に支障が出るのではないか? と、上の方から心配……に近い、説教を喰らいました」

「どうせ、あのお堅い爺さんからでしょう。 確かに、遠隔地の出現時に上手く事が運べなくなるのは問題ですが、ユーリヤ自身、あの訓練が苦手なようなので、強いる訳にもいかないんですよ、これが」


やれやれ、と言いたそうな仕草に、アリフィヤは溜め息をつく。


「お言葉ですが、フェーリクス室長。 ユーリヤ大尉はまだ子供ですが、立派な兵士です。 そんな彼女に、訓練が嫌、という我儘が罷り通る訳がありません。 しかも、我々も彼女の親ではなく、上官です。 いつまでも彼女の我儘に付き合わずに、しろと命じるべきです」

「はい、仰る通りです。 では、今から彼女に会って、命じてきます」

「命じるだけなら、ここからでも、」


そう、彼女が言いかけた時には、フェーリクスは既に部屋から出て行っていた。

フェーリクスが部屋から去った後に、机に置かれたタブレットに映されている書類を見た。

そこには、ユーリヤと呼ばれた少女の情報が、事細かに載っていた。

その画面をもっと詳しく見ようと、タブレットに手を近付けた時に、画面が暗くなった。

それを確認した時に、その行為を止め、靴音を鳴らしながら、自席に戻っていった。

その様子を見ていた、席に座る他の研究者達は、顔を合わせ、身振り手振りで静かな会話をしていた。

アリフィヤは、頬杖を突き、書類をパラパラと捲りながら、溜め息をついた。


「女の子、なのよね」


その呟きは、誰にも聞こえない程小さく、すぐに部屋の音に溶けてしまった。




フェーリクスは、扉の前に立っていた。

鉄かアルミで作られたような、無骨な扉。

その扉を手で軽く叩き、中に向けて呼び掛ける。


「ユーリヤ、入っていいかい?」

「フェーリクスね、いいわよ」


その冷たい扉からは、想像できないような高い声が返ってきた。

それは、明らかに女性の、それも幼さも感じる声だった。

フェーリクスが、少し重量を感じる扉を開けると、目の前には軍のそれとは思えない光景が広がっていた。

美容系の雑誌が何冊も棚に仕舞われていて、壁にかかっているハンガーには、可愛らしい色の私服が飾ってある。 銀色の二段ベッドには、上段にはぬいぐるみが、下段には淡いピンクの布団がかかっていた。


「君の部屋に来ると、ここが軍である事を忘れてしまうよ」

「それ、何回目よ」

「覚えてないかな」


ベッドから起き上がった少女は、顔に流れた長い、銀色の髪を後ろに回した。

アリフィヤと同じ柄の上着を羽織ってはいるが、その下には空色のベビードール一枚しか着ていなかった。

上着が無ければ、歳頃の女の子の部屋と言っても、何も疑問は出ないだろう。

この、違和感の纏まった光景を見慣れているフェーリクスは、今更どうこうと言うつもりは無かった。


「いくら保温魔法を使ってるからって、そんな格好をしてたら風邪を引くよ、ユーリヤ」

「引いた試しなんて、二回しかないじゃない。 しかも、その二回共がこの薄着のせいじゃなくて、長時間に渡る戦闘による過労のせいだったし」

「……そんな姿を他の兵にでも見られたら、何をされるか分からないよ。 精神が不安定な状態じゃ、魔法も上手く使えないだろう?」

「私の部屋を訪ねる人なんて、フェーリクスくらいじゃない。 それに、もし無理にでも押し倒してきたら、これの出番だし」

「……それもそうだね」


薄い布に覆われている左の太腿に付いたホルスターから、ナイフをチラつかされると、フェーリクスは折れるしかなかった。

この少女は一見、無防備に見えるが、そこらの屈強な男を退ける程の力の持ち主である、と。

その事を思い出し、軽く息を吐くと、ユーリヤが「それで」、と口を開いた。


「何の用、フェーリクス。 流石に、他愛のない話をしに来ただけじゃないでしょ?」

「他愛のない話だけをしに来る事だってあるじゃないか」

「フェーリクス」


ユーリヤの目から、無言の圧力を感じると、一泊置いて「分かってるよ」、と返す。


「あの爺さんから、戦闘機の搭乗訓練の実施回数が少ないと、苦情が入ったよ」

「……やりたくない」

「気持ちは尊重したいけど、あの人に忠告されるっていうのは、イコールやれって意味だって事くらい、流石に分かってるだろう?」

「…………」


苦虫を噛み潰したような表情で黙り込むユーリヤを見下ろすフェーリクス。

沈黙したまま、時は進む。

この空気に困り果て、苦笑いの表情をしたフェーリクスは、指で頭を掻き、声を発しようとする。

だが、その時に、ユーリヤがビクンと、大きく痙攣する。


「……結界の存在が確認されたわ」

「本当か! 場所は、規模は!」

「場所はヴォログダ州、規模は成長中」

「……行ってくれるか?」

「嫌だ、なんて言ってる場合じゃないでしょ」


そう言って、ユーリヤはベビードールを脱ぎ出す。

それを見て、フェーリクスは部屋を飛び出し、扉が閉まるのを確認した後に、管制塔に向けて連絡を発信をしながら、走り出した。

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