表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

秋風と秋桜

作者: 花道時代


秋雨が降り止み、まだ雨の湿った重い空気が辺りを包んでいる中。


僕は、彼女と共に公園のベンチに並んで腰を下ろしていた。


横目で俯く彼女を見た後、顔を上げ近くに咲く一輪の秋桜コスモスを見つめた。


この公園は秋になると、様々な色の秋桜が咲く。


この時期にはよく秋桜を見る為に、散歩がてらやってくる人が多い。


と、言っても雨の後と言う事もあり人は僕ら以外は誰もいなかった。


秋風が吹き、秋桜を揺らす。


それと共に俯く彼女の長い髪が揺れ、シャンプーの匂いが僕の元までやってきて薄れていった。


今日、彼女と共にここに来たのは秋桜を見る為ではない。


実は今、彼女は付き合っている彼氏との事で悩んでいた。


悩んでいると言っても彼氏が浮気をした、と言う理由ではない。


彼氏とのほんの些細な揉め事だった。


しかし、日に日に彼の口から発せられる言葉に彼女は突き離されているような感覚に陥っていた。


僕は、そんな彼女らの揉め事に呆れながらも相談に乗っていた。


そして、彼女は今日も恐らくこう言うのだろう。



「あの人は、本当に私の事が好きなのかな…。私は、どうすればいいんだろう。」



そう予測を立てた後、この長い沈黙を破ったのはこの通りの彼女の言葉だった。


その声は、震えていて悲しみの色を帯びていた。


僕は彼女とは中学2年生の頃からの仲だ。


約2年間の友情は強く、彼女の相談に乗る事は多かった。


元々、精神面の弱い彼女は前々からよく泣いていた。


本当に些細なことでも、それらが積み重なって彼女を苦しめていたのだ。


しかし、それは中学2年生の間だけであり3年に上がると全くと言っていい程泣かなくなった。


だが、彼女は彼と付き合ってからよく泣くようになった。


しかも、彼の方は彼女が泣いていることなど知らないのだ。


しかし何故だか、彼女は『○○君の前では泣けない。』と言った。


彼氏には見せたくない、面倒がられるだろうと言うことらしい。


彼女が泣いているのを、面倒がる彼氏なんているんだろうか。


そう、内心疑問に思ったが口には出さなかった。



「ねぇ…**君。」



「何?」



彼女が、口を開いた。



「あの人は、私の事が好きなのかな?」



「そんな事を、僕に聞かれても困るよ。でも、好きじゃなかったら今頃別れてると思う。」



僕の回答にそうだよね、と頷く彼女。


その姿がむしょうに辛くて切なかった。



…ねぇ…。



僕を選んでよ。


君の事を悲しませる彼じゃなくて僕にして。


僕の方が、あんな奴より君の事を知ってるよ。


君が辛い時も、悲しんでいる時も喜んでいる時もずっと側にいるよ。


その華奢な君の手を繋ぐのは、彼じゃなくて僕にしてよ。


その愛おしい君の瞳にいつも映るのは、僕がいいよ。


僕なら、君を幸せに出来る。


僕の方が、彼なんかより何倍も君が好きなのに。





「…**君?」



「あ、いや…何でもないんだ。」



僕が急に黙った事を不思議がって、顔を覗き込んでくる彼女。


その可愛らしい顔に、心臓が跳ねた。


そして、思わずこう言ってしまった。




「ねぇ、やっぱり彼じゃなきゃダメなの?」



僕の問いに、彼女は顔色を変えた。



「…別れるべきだと思う。そんなに、君を悲しませる奴とはダメだよ。」



僕なら…そう言いかけた時、急に彼女はベンチから立ち上がった。


秋桜が風に揺れ、それと共にまた彼女の髪も揺れる。


そして、目尻に涙を溜め微笑を浮かべながらこちらを見た。


その姿がとても綺麗で仕方がなかった。


それから彼女は言った。



「…でもね、私は彼が好きで好きで仕方ないの。どんなに辛い思いをしたって、やっぱり私にはあの人しかいないよ。」



そう言い切って、また秋桜の方に顔を戻す。


ザァァっと、さっきより強い風が吹いた時。


あぁ僕は振られたんだ、と自覚した。


直接言われた訳でも無いのに、そう思ってしまった。


きっと、僕が思っている以上にあの子は彼の事が好きなんだろうな。


結局、初めから勝ち目なんて無かったんだ。


なんだ、そうなのか。


僕は自分で言おうとしていた発言を思い出し、溜息をついてその彼女の後ろ姿を眺めていた。


そして、先程まで見つめていた黒い秋桜を見ながら短い恋の終わりを迎えた事を改めて実感した。


僕は、ベンチから立ち上がった。


そして、赤い秋桜を一輪摘んでから彼女の前に行き長い髪に挿す。


驚いた顔をしながらも、嬉しそうな顔をする君。


強い風が吹き、彼女が髪を抑える。


僕はその横で、聞こえないように小さな声で言った。



「どうか、愛おしい貴方が幸せでありますように。」









皆さま、初めまして!


花道時代です。

カドウジダイじゃないですよ!

ハナミチトキヨです!!


読んで頂きありがとうございます!!


ちなみに、コスモスの色を書いたのは花言葉がそれぞれ違うからです!

是非、調べてみて下さい。


それでは、彼への少しの皮肉とこの小説に気づいてくれないかなぁと言う期待を込めて、あとがきにしたいと思います。


本当に、読んでいただきありがとうございました!!

他の小説もよろしくお願いいたします。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 登場人物それぞれから出ている矢印がはっきり見えて、良い作品だと思いました。 温かさと切なさが同時に見えるところが好きです。 みんな、いつか幸せになれたら良いですね。 [一言] とても良かっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ