ふたりだけ
二人の間で春と秋は繰り返した。夏と冬も繰り返した。
「そういえば、いつだったか言うようになったよね」
「……こんな時に、どうしたの」
ずっと見ていた小窓にはさっき私が触れたからだろう、血が付いていた。
「ん?何があっても好きってことさ」
「言ってた」
「今も変わらない?」
私は脚が痺れて壁に手をついたままの彼に、手の平を見せた。
「腹が立ったから、ちょっと開いて握っといた。はい、アンタのお母さんの心臓を握った手」
「変わらないよ」
即答した彼は、じっと私の目を見つめた。続いた沈黙の間にも、目を逸らすことはなかった。
「一番、君が私を愛してるんだよね」
「そうだよ」
包丁とスコップをリュックに入れる。ついでにリビングにあった財布をカバンごと頂戴して、それもリュックに突っ込んでおく。
かなり大きな悲鳴を出させてしまったから、そのうち警察が来るかもしれない。こんな夜中だ、隣人は飛び起きてしまったらそのまま通報するだろう。
「そのうち、結婚式をあげたい」
「何?誓いの言葉でもやりたいの?」
「僕のこと、どう思ってるの。ずっと聞いてなかったけど」
今更、そんなことを聞く彼の脳みそも開いて覗けば理解できるだろうか。
「私、君とイチャイチャするような恋愛ごっこはしないよ」
「しないの?」
ユラユラと揺れる私が解き放った彼は、私が産んだ赤子のように見えた。
「大丈夫」
遅くなってごめん。私が母親じゃなくてごめん。毎日、泣きわめくのを見てるだけしかできなくてごめん。ずっと小窓から覗いてた、触れたかったその手を掴む。
「それでも、二人でできないことはないよ」
Twitterに先にUPしたものをこっちにもと思ってUPしました。
いつもの走り書き短編です。友達と話していて思いつきました。
こういう恋がしたい、いやしたくないです。
まだ君が僕を呼んでいる、という現代恋愛に少しだけファンタジーを足したようなお話を書いています。もしよければ。
https://ncode.syosetu.com/n1702ew/