プロローグ
かけがえない時間。休み時間、下校時、彼女と話をする。単純にただどうしようもない雑談し、笑う。ただそれだけで幸せだった。けれど幸せは有限だ。気付いた時にはもう遅い。ただ虚しさが、悲しみが残るだけ。…今度は何が悪かったのだろうか。わからない。ただ今度はもう傷つきたくない。
☆
宿題が終わり一息、ベットに腰掛ける。いつの間にか零時を過ぎており半になろうかとしていた。一時間ほど机に噛り付いてたからか目頭が重い。手で目頭を押さえ目を閉じる。
固まった背中を和らげようと背筋を伸ばししていると、不意な悪寒にパチリと目を開ける。色がなかった。世界から色が消え、声すら出ない。そんな日常とはかけ離れた現実がただ恐い。
するとどこからともなく現れた紙がひらひらと中で舞いぽとりとベットに落ちた。と、同時にいつものの現実に戻る。心臓が思い出したかのように鼓動を始め、どっと冷や汗をかく。まるで何事もなかったかのように世界は時を刻み始める。僕もこれさえなきゃそう錯覚してしまうほど。
「…封印、ね。洒落てるな」
それは封筒だ。封印で閉じられた封筒で、触ると本物の蝋でできていた。到底無視できるものではなく、封筒をためらいながらも開ける。中身は手紙で、これまた映画やアニメで出て来そうな焦げ茶色の古びた紙でできていた。
「招待状、貴方に深淵への旅にお誘いします。その世界であなたは待ち焦がれていた夢が叶うでしょう。そしてあなたは変わる。強制はしません。だけど叶わないはずの願いを持ち、代わりのいない自分になりたい。もしそうならば、こちらへ…どういうこと?」
瞬間、眩暈。視界が揺れ意識が消えゆく感覚が残り、陰に飲み込まれる。
暗い闇の中にいる。目を開けられない、ただ落ちていく感覚があり、気持ち悪い。
「がはっ」
瞬間、頭を殴られるような鈍痛が後頭部に響く。その痛みに驚き開けることを拒んでいた目が開く。暗い、とても暗い。その薄暗い中でもかすかな光はあるが遠近感が狂い、自分がどうなっているのか分からない。ただ重力に引かれている感覚があり、自分は落ちているんだとわかる。
突如、暗闇が吹き飛び、眩い光が飛び込んでくる。目を細めながら上を見上げると…綺麗な星が至近距離に浮かんでいた。その星には見覚えがあり
「…地球」
そうそれはとても綺麗だった地上からは想像できないほど。見たことはあったテレビや本といった情報媒体で、でもこんなに違うのか。少し感動した。ただ不思議だ、どうして地球が見えるのだろう。周りを見渡す。建物が自分を囲むようにしてぐるりと一周していてその円形の建物が幾たびにも上に連なっていて終わりが見えない。何かに例えるとすると、まるでコロッセオの壁が永遠に上へと続いてるよう。
落ちる先を見る。
…何かいた。怪物とした形容しがたい何かがいた。それに本能が不快感を表し、びくりと体が震える。その怪物はこちらを見上げて、にやりと笑った。瞬間、どこかからともなく現れた数匹の蝶が自分の周りを羽ばたきそして、檻に変わる。檻は空中で静止し慣性が自分を檻に打ち付ける。
「うぐっ」
衝撃が肺から空気を押し出す。うまく、空気が吸え、ない。突然の痛みそれにパニックを起こし過呼吸になる。酸素が足りず更に混乱が判断力そして理性を著しく低下させる。
分からない。理解が及ばない。どうしてこんな事になっているのか。そもそもここはなんなのか。あの怪物は何のか。だけど、これは悪夢だということだけは分かる。だってあんな怪物、現実にいるはずない。それに気付いたら空中に放り投げだされているなんて事ある訳ない。なのに、怖い、辛い、現実から逃げたい。それがとてもリアルにとても身近に感じて、本物だと錯覚してしまいそうになる。
冷たい檻を這い、どうにか逃げられないかと下を見る。下は檻がいくつか同じように浮いていて怪物がある一つの檻のそばにいてそこからナニカを取り食べた。赤いナニカが飛び散り怪物の口を赤く染めた。眩む視界の端に。この距離で怪物はこちらに気付き僕を見上げて笑った。薄気味悪い笑みを顔に張り付けて、嗤っていた。…あれは人間だったのだろうか。分からないでもその悪魔の笑いは心に根ずく、逃げられないと。残虐味を帯びた笑顔にぽきりと心が折れた。
「これは、本物だ」
怪物は、宙にぶら下がている檻に近づくために壁に触手を張り巡らせ顔を近づける。単眼の瞳が僕の姿を射抜き、愚かな姿だと口元を歪ませて思う。檻にちょうど怪物の顔が入る大きさの穴が開く。そしてその大きな口元を広げる。多分丸のみにするつもりだろう。僕はそんな姿を光の失った目でただじっと何の感慨も思わないで見つめた。そしてそっと目を閉じる。
ふと、頭の中に文字が思い浮かぶ「これでいいの」かと。
「…いいわけ無い。僕はまた見つけていないんだ。絶対と思えるそんな幸せを。もう傷つかない永遠な幸福を」
怪物は突然喋ったことに少し驚き。動作を止める。
「僕は幸福な明日が欲しい!」
瞬間、自分の胸から白い剣が飛び出す。そしてそれは怪物と自分の間で浮遊すると怪物、檻そして僕もろとも衝撃波で吹き飛ばした。僕は運よく壁の間にある観覧席のような所に飛ばされたためダメージが少なく立ち上れる。怪物は壁面にでかい図体が陥没し身動きが取れないようだ。僕の隣には先ほどの白い剣が突き刺さっている。それを右手で抜く。
本当に何もかもわからない。これが何なのか、あの衝撃でどうして生きてられるのか。分からないけれどそれでも、醜く生きる。
何故か尾骨がうずく。めきめきという音を立てむずがゆい。まるで肉体が再構築されている感覚。痛みはない。どころかどこか気持ち良く。力強いエネルギーを感じる。それがなぜか僕に勇気を与える。怪物を見下ろす。僕は少し下がる。助走をつけて大きくジャンプして右手に持った剣で怪物の単眼をどこか冷酷に突き刺した