1-2『牢獄にて』
木月とグラが町であたふたしていた頃、遠い遠い暗闇でとある2人が揉めていた。
「あー!もう!こんな所居たくないっ!居たくない!居たくない!」
「おいっ!うるさいな!気が散るだろ!」
大きな声で喧嘩していたのは、如何にもお嬢様な風貌なレンと、
眉をしかめて苦い顔を浮かべている理系眼鏡のシャマだった。
2人が居るのは暗い暗い鉄の牢獄。
窓はなく、椅子も机も無い、質素な空間であった。
足元は泥水で湿っており、空気も淀んでいる。
そんな劣悪な環境に対してレンは腕を組みながら地団太を踏んだ。
「わたくし!画期的なゲーム体験ができるって聞いたからこのイベントに参加したのですわよ!
なのに何なのこの仕打ち!目を覚ましたらこんな汚らしい牢獄に寝そべって!お父様から貰ったドレスが台無しですわ!」
レンの言う通り、寝そべっていたせいか、ドレスは半身泥水に塗れていた。
当然、カールで綺麗に整えていた金色の髪もグシャグシャである。
「最悪!最悪最悪!早くこのゲームやめたい!」
「おいっ!だからうるさいって!
集中力が途切れて何も考えられなくなる!」
癇癪を起こすレンに対して、鋭い目つきのシャマは至って冷静だった。
牢屋の外にいる監視役の得体のしれない生き物をマジマジと見つめて思考を巡らせる。
その生物は俗にいうゴブリンであった。
緑色の肌に尖った鼻と耳、ボコリと出っ張ったお腹が印象的である。
「あなた!見た所わたくしより年下よね!
少しは年上に対して礼儀を慎んでくれないかしら!?
わたくし、そういう礼儀知らずな方、好きじゃありませんの!」
「あっそ、だったらアンタこそ礼儀を慎めよ。
うるさくするとあのゴブリンみたいな監視役がぐっすり眠れないだろ」
「ぐっ……ムキー!何なのかしら!?もう何でこんなのと一緒の牢屋に何か……!」
「はぁ……少し冷静になれよ。
これもゲームの一環だと思って考えれば楽しくなるはずなのに。
これじゃあ先が思いやられる……」
「何ですの!?じゃあ何かこの状況で出来ることがあるとでも!?」
シャマはレンの問いに対して眼鏡を吊り上げた。
「あるよ。きっとこれは僕達に与えられた謎解きなんだ」
「な、謎解き?何を言ってるのかしら……」
「気付かないか?こんだけアンタが騒いでいるのにあのゴブリンは目を覚ますどころか反応もしない。
これはよくある鍵を盗んで脱出するミッションなのさ。
ゴブリンが起きたら元も子もない。だから起きないんだ」
シャマは冷静な推理をレンに対してかました。
しかしレンは腑に落ちておらず、むしろシャマの言動が理解できなかったかのように首を傾げる。
「そのー……あれなのかしら?
所謂あなたはゲーム脳って奴?
そんな都合の良い事よく考えられますわね」
「ゲーム脳だよ。そしてこれもゲームだろ。
だったらそういう考えで良いんじゃないの?」
「はぁ……わたくしには分かりませんわ。
もう、このゲームとはこれっきりにしたいですわね。
怒りや苛つきもどっかにすっ飛んでしまいました……」
レンはその場で屈んでため息をついた。
やる気を無くすレンを見つめてシャマは口を尖らせる。
シャマはシャマ自身が言うように完全なゲーム脳であった。
イベントに参加する前から彼は各ジャンルのゲームというゲームをプレイし尽くす。
まさにゲーマーと言っても過言ではなかった。
一方、レンはゲームの世界とは遠く離れた場所で育っていた。
小さい頃からピアノやバレエなど習い事に明け暮れる。
到底、ゲームをする思考すらなかった。
その2人の思考が噛み合うはずもなく、だからこそゲーム開始前から会話する機会もなかったのである。
この条件が揃えば、2人が仲違いすることは誰にでも分かりきっていた。
そしてそれはシャマも十分理解していた。
シャマはそんな状況から脱却する為、何とか脱出方法を考える。思考を巡らせる。
しかし、手元には武器も道具も無い。
彼は攻略の手段が思い浮かばず、途方に暮れた。
小さな舌打ちをしてついにその場へ垂れ込む……。
「わたくし……何でこんなゲームに参加したのかしら……。
こんな思いするならピアノのレッスンキャンセルするんじゃなかったわ……」
「頼むからネガティブな事言わないでくれ。
こっちも一緒にテンション落ちるからさ」
「……そんな事言われましても、こんな状況じゃ落ち込むのも仕方ないですわ……。
殿方ならこういう時こそレディに優しい言葉を投げかけて欲しいですわね」
「ゲーム脳だからな。そりゃ無理だ」
「……あっそ!ですわ!」
レンは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
打って変わってシャマはさらに強く眉をしかめる。
彼の眼光は嫌に鋭い。表情も苦い。
しかし、彼は諦めていなかった。
この状況でも何か打開するチャンスがある、そう信じていた。
そこまで彼が今の自分を信じられたのは、今いる世界がゲームの世界だからこそだった。
ゲームは誰かが作り、そして打開策があって先へ進めるもの。
彼はその理屈を知っていた。
だからこそ諦めていなかったのだ。
「こうしていても何も変わらない。
アンタも最後まで諦めずに打開策考えてくれ。
俺も諦めない、制限時間ギリギリまでな」
「そ、そう言われましても私には何も思いつきませんわ……」
「何か……何か1つでも良い。
アイディアがあればそれを言ってくれ」
「そ、そうですわね……。
んー……、あっ……。
そういえば昔見た西洋の映画で看守が寝ている隙に、鍵を奪って牢から脱出するシーンがありましたわね。
今の状況と何か似ていますわ。
でも、あれは映画の世界ですものね……」
「いや、その発想は正しいと思う。
それにこれは映画の世界じゃないが、ゲームの世界だ。
そういう展開はベターだしあり得る」
「そ、そうなのかしら!あら!ちょっと嬉しいですわね!」
「だけど、それをどうやって実行するかだ。
俺達には武器も無ければ道具も無い。
こんな状況で出来る事なんか……」
その時、シャマに1つのアイディアが思い浮かぶ。
「そうだ……これはゲームだ……そのことをすっかり忘れていた」
「えっ?さっきゲームの世界だってハッキリ言っていたじゃありませんか」
「いや……確かに言っていたが考え方が硬かった。
俺達には歴とした職業設定がある。それだ……」
「職業……?」
レンは聞き慣れない言葉に再度首を傾げる。
「覚えてないのか?ゲームが始まる前、俺達は各々職業の説明を受けた。
何故か一人ひとり個別の説明だったが、俺はハッキリ覚えている。
俺はシャーマン、だからシャマ。
アンタはなんだっけ?」
「わた、わたくしは……レンですわ」
「で、職業は?」
「アルケミストですわね」
「アルケミスト……ん?
どうでも良いんだが、レンって名前はどっから出てきたんだ?
俺はてっきり職業と名前が覚えやすいように、あだ名が職業からもじった物だとばかり思っていたんだが」
レンは額の汗をハンカチで拭った。
しかし赤らめた表情は隠し切れない。
その仕草や動揺がシャマは理解できなかった。
今度は初めてシャマが首を傾げる。
「いや……その……私もそう思いましたわ!
私の本当の名前はアルですの!そう!アルですわ!」
「あ、ああ……そうかアルか。
よく分からないがじゃあアルって呼ぶ……」
「待って下さらない!?アルって男の子の名前ですわよ!?」
「……?
だからどうした?」
アル、別名レンは首を傾げるシャマの眼前に近づき彼の鼻を指差した。
そのレンの必死な行動にシャマも思わず後退る。
「嫌ですの……!お、男の子の名前!
だからレン!レンって呼んで下さらない!?
ほら!アルケミストって錬金術師ですわよね!
だからレン!レンですわ!」
「あ……いい、けど……」
瞬きを繰り返して動揺するシャマを見て、ふと我に返ったレンは
シャマに対して差した指を引っ込ませ、部屋の隅へ猛スピードで移動した。
「ご、ごめんなさい……人に指を差すなんて礼儀知らずでしたわ……」
「い、いや別に……良いけどさ……」
「…………」
一瞬、お互いの間に無言の時間が生まれたが、
その空気が気まずかったのかシャマはすぐさま切り替えるように首を振る。
「じゃ、じゃあとりあえずレン……作戦をたてよう」
「そ、そうですわね……」
レンも冷静さを取り戻すために顔を横に振った。
お互いにどうすれば良いのか分からない状況で半ばけん制していたが、
ぎこちない動きで近寄り一息つく。
状況はどうやら何とか落ち着いたようだ。
「まず、アンタの使えるスキルを教えてくれ」
「レンって呼んで下さらない!?私はシャマって呼びますから!」
「わ、分かった……じゃあレンの使えるスキルを教えてくれ」
「あの、すきるって……?」
「わ、忘れたのか……?ゲームを始める前に使えるスキルをサイトに教えてもらっただろ」
「あ、あー……言っている事があんまり理解できず、聞き流していましたわ……ははは」
シャマは頭を抱えた。
「おいおい……俺のスキルはこの状況でまったく役に立たない……。
頼れるのはレンだけなんだよ……頼むから思い出してくれ……」
「と言われましても……何か召喚が出来るとか、そういう話はしていたことぐらいしか……」
「召喚か……」
「シャマの"すきる"は何がありますの?
シャーマンといったら日本語で呪術師、祈祷師……ですわよね?」
「俺も召喚だよ。トーテムを召喚できる。
今のところ、神経毒を広範囲にばら撒く奴と、煙幕をばら撒く奴だけだな。
でも、どちらも今の状況じゃ意味が無い」
「トーテム!それは凄いですわね。
試しにそのスキル見せて下さらない?」
「無理だろ!どっちも俺らに影響を及ぼすんだ!
こんな密室で使ったら自殺行為だ!」
「そ、そうですわね……」
「くっ……どうしよう……」
シャマは再度途方に暮れた。
これで何度目だろう。
この短時間で彼は何度も挫折を繰り返すこととなる。
しかしその中でやっと見つけた脱出の糸口。
確実に正答の道へ歩んでいたはずだが、その志半ばで希望が途絶える。
今まで地面に尻をつかなかったシャマが遂にその場へ座り込んだ。
その光景を見てレンもシャマの心が折れるのを細やかながら理解した。
先程まで眼光を鋭くし先を見つめていたシャマが俯いている。
その光景だけでレンは何処か心が張り裂けそうな気分になった。
「ご、ごめんなさい……役に立てなくて……」
「……いや、仕方ない。
そういう時もあるんだろうし……」
レンの問いにシャマはあっけない返答を返した。
しかしその反応は何処となく冷たい。
今までもシャマは十分レンに対して冷たかった。
しかし、レンは今までで一番冷たい反応であることを悟った。
それはシャマがレンに失望したという感覚ではない。
自分の力が足りなかったという自責の念であることが、感覚で何となくわかった。
その瞬間、レンの心に何処からともなく火が付いた。
いつもなら、先程までのレンなら、落ち込むシャマを見て一緒に絶望するだろう。
しかし、今のレンはシャマの分まで頑張りたい、頑張る、という気持ちでいっぱいだったのだ。
「シャマ!"すきる"の使い方、教えて下さらない?
あなたなら知っているんでしょう?」
「それは……スキル名を叫べば良い、が……。
スキルを覚えていないと意味が無い……」
「なら……意地でも思い出しますわ!」
「い、意地でもって無茶な……」
「できますもの!あなたが頑張っていた分、私も頑張らないと……。
頑張った人が報われるのは当然の結果ですから!」
「レ、レン……」
レンは大きく息を吸った。
微かだが、スキルの説明は覚えている。
職業はアルケミスト、スキルは召喚、特性はゴーレム。
ほんの少し、これしか情報が無い。
しかし、情報がある限り諦めてはいけない、彼女はそう感じた。
そして恥ずかしいと思いつつ、レンは大声で叫ぶのである。
「ゴーレム召喚!青!
ゴーレム召喚!赤!
ゴーレム召喚!緑!
ゴーレム召喚!白!
ゴーレム召喚!黒!
ゴーレム召喚!茶!
ゴーレム召喚!紫!
ゴーレム召喚!橙!」
シャマはそのレンの行動に心の底から驚いた。
レンはプライドが高く、大声でスキルの名前何て絶対に叫ばない。
そう思っていた。
だが、目の前にいるその少女は声高らかにスキル名を言い放っているのである。
その光景はシャマにとってゲームの世界に来る衝撃よりも凄まじかった。
「な、何か起きたかしら!?」
「い、いや……まだ何も……。
だけどそのまま続ければ絶対に成功する!行ける!」
「よ、よし……!行きますわよ!」
気付けばシャマの俯き加減のどんよりとした雰囲気は何処かへ吹き飛び、
先程までの眼光冴え渡る鋭い目つきに戻っていた。
不思議とシャマがレンを支える立場ではなく、
レンがシャマを支える立場となっていたのだ。
「あ、でもレパートリーが私あまり無くて……何かアイディアないかしら?」
「そ、そうだな……色ではない……としたら。
ゲームにありがちなのは……そう!属性とか!」
「ぞくせい……?」
「ゲームにはよくあるんだよ。
例えば炎、水、氷、風、雷……みたいな元素に似たそういう属性って奴が」
「わ、分かりましたわ!分からないけどとにかく叫んでみますわ!」
レンは再度大きく息を吸った。
小さい可能性にかけて精一杯声を張り上げる。
「ゴーレム召喚!炎!
ゴーレム召喚!水!
ゴーレム召喚!氷!
ゴーレム召喚!風!
ゴーレム召喚!雷!
え、えーと……」
「……光!闇!無!あとは……これ以外であるとしたら……。
そうだ!火!虫!獣!幻!霊!妖!えっと……土!」
「わ、分かりましたわ!
ゴーレム召喚!ひ、光!
ゴーレム召喚!闇!
ゴーレム召喚!無!
ゴーレム召喚!火!
ゴーレム召喚!虫!
ゴーレム召喚!獣!
ゴーレム召喚!幻!
ゴーレム召喚!霊!
ゴーレム召喚!妖!
はぁはぁ……」
レンは大声を張り上げる中で疲れを感じていた。
しかし、彼女は諦めなかった。
息を整え、そして……。
「ゴーレム召喚!土!」
その瞬間である、彼女の足元に大きな閃光が弾け飛んだ。
「きゃああ!」
「なんだ!?」
2人はその閃光に思わず目を瞑る。
しかし微かに開いた眼で足元を見たレンはその状況に驚愕した。
レンの周りに自然と閃光を帯びた魔法陣が浮かび上がってくるのである。
驚愕と同時にレンはその光景に感動していた。
「これもしかして成功なのかしら!?」
「あぁ!絶対に成功だ!やった!」
そして、魔法陣が出来上がり閃光の輝きはさらに加速する。
魔法陣の閃光の中から砂が舞い上がり、空中に円を巻いたと思ったら周囲に人の形を作り上げた。
その砂の塊はさらに増え、気付けばレンの周りには4体の砂人形が召喚されていたのだ。
砂が収束にするにあたって細かな部分が再現されていく。
兜に盾、小さな槍に可愛げのある丸々とした目玉、そして鼻と口。
魔法陣の閃光が落ち着き、収束が終わるとそこには親指程度の大きさだが立派な砂の兵士がレンを囲んでいた。
「か、可愛い……これ私が召喚したの?」
「凄い……本当にこんな芸当が出来るなんて……」
砂の兵士達は静かにレンの元へ駆け寄り、兜を外してお辞儀する。
その兵士の中で1人だけ旗持ちがいた。
旗持ちは1人、さらにレンへと近づき、再度深々とお辞儀する。
「召喚ニ応ジ、参上シマシタ。
我ガ主君、アル様!ゴ命令ヲ!」
旗持ちは顔を上げてニコリと笑う。
レンは嬉しそうに口を紡ぐと旗持ちの笑顔に合わせて微笑みを見せた。
「宜しくね……!可愛い兵士さん……!
あ、でもこれからはレンって呼んで下さらない?お願いしますわ!」
「カシコマリマシタ!」
シャマはゴーレムとレンの戯れを傍らで見つめながら、静かに頷いていた。
「やっぱり……やっぱり僕達のスキルが鍵だったんだ。
この小さな兵士達なら牢屋の隙間を潜って鍵を取りに行ける……」
レンもそのシャマの確信的な言葉を聞いて一緒に頷く。
「そうですわね!頑張った甲斐がありましたわ!
よしっ!じゃあ早速!旗持ちさん!
……とその前に、兵士さん達には名前ってあるのかしら?」
兵士4人はそれぞれ顔を見合わせて同時に頷いた。
「デハ、ヒトリヒトリ自己紹介致シマス。
私ハ旗持チ、所謂リーダーノ、"アン"デス!」
「私ハ槍持チ、近接戦闘係ノ"ドゥ"デス!」
「私ハ弓持チ、遠距離戦闘係ノ"トロワ"デス!」
「私ハ盾持チ、防御係ノ"カトル"デス!」
それぞれ自己紹介が終わると、各自が持つ武器を空に掲げてポーズを決めた。
「わあ!かっこいい!フランス語ですわね!分かりやすい!」
レンは嬉し気に拍手するが、シャマは腑に落ちない様子である。
「えっ……フランス語分かるのか」
「簡単なフランス語ですわ!数字で一、二、三、四、ですわね!」
「へえ、そうなんだ……知らなかった」
シャマは口を尖らせて分かりきったように何回も頷く。
「よし!じゃあ気を取り直して!アン!
あなたが先導して、あのお昼寝ゴブリンの傍らにある牢屋の鍵を取ってきてくださいまし!」
「承知致シマシタ!」
土ゴーレム達はレンの命令に従い、牢屋の隙間を器用にすり抜け、ゴブリンに駆け寄る。
その様子を牢屋内のレンとシャマはまじまじと見つめていた。
アンがゴブリンの首元に掛かっている鍵を静かに触る。
流石にゴブリンもその気配に気づいたのか、寝ながら眉をしかめたが、難なく鍵の奪還に成功した。
ゴーレム達はハイタッチをして嬉しそうに鍵を持って帰る。
「よ、よくやりましたわ!ありがとう!」
「これで脱出できる……!」
レンはゴーレムから受け取った鍵を使用し、牢屋の鍵を開けた。
やっとの思いで開く扉に2人は安堵の表情を浮かべる。
しかし安心したのも束の間、何と、目の前で寝ていたゴブリンが突如目を覚ましたのである。
「ン?アッ!何ヤッテル!?貴様ラ!逃ゲタナ!俺怒ル!」
ゴブリンは近くに転がっていたこん棒を手に取って鬼の形相でレンとシャマの前に立ちはだかった。
土ゴーレム達はすぐさま2人の前に守るように仁王立ちする。
「クッ!サッキマデグッスリ寝テイタノニ!?」
「いや、きっと扉を開けたら目が覚めるシナリオなんだ!
気をつけろ!僕達は戦闘スキルが無い!
ゴーレムとゴブリンの体格差も考えると勝負は目に見えてる!」
シャマは逃げの姿勢に入るが、その前にゴブリンがこん棒をレンに向かって振り上げた。
シャマとゴーレムはレンを守る為、今にも振り下ろされようとしているこん棒の前に立とうとする。
しかし、それでも間に合わない。
それほど、ゴブリンの俊敏性がゴーレム達とシャマを上回っていた。
「しまった!間に合わない!レンー!」
シャマの叫びと同時に鈍い衝突音が辺りに響く。
しかし呆気に取られていたのはシャマでも、ゴーレムでも、そしてレンでもなかった。
なんと、ゴブリン自身があり得ないという驚愕の表情を浮かばせていたのである。
それも仕方がない、何とレンはこん棒をかわしてゴブリンへカウンターキックをかましていたのだ。
ゴブリンは理解できない状況に呆気にとられながら吹き飛んだ。
「寝テイタノニ!じゃないですわ!散々こんな場所に幽閉しておいて!
許さないんですから!」
レンもゴブリンに負けない位の鬼の形相に変貌していた。
その光景を見てゴーレムもシャマも唖然とする。
ゴブリンも激しい蹴りを受け、すっかり伸びていた。
「さっ!行きますわよ!シャマ!ほら早く!」
「い、いや……何それ……」
「えっ?何が!?」
「いや……その蹴り……」
「……確かに言われてみれば……何で私こんなこと……。
とりあえず恐怖より怒りの感情が強かったですから……その……つい」
「ついって……」
その時、牢屋の扉が何者かに蹴破られた。
次から次へと起こる怒涛の展開にシャマは混乱寸前だったが、
扉から出てきたのは白銀の鎧に整った顔立ちの明らかに味方のような騎士であった。
金髪に長身と、完璧なその姿に思わずレンは見惚れていたのである。
「大丈夫か!?君達!?
ここらにゴブリンに囚われた市民がいると聞いて駆け付けた!」
「だ、大丈夫ですわ……。
か、かっこいい……」
「それは良かった!君達!早くここから脱出したまえ!良いね!」
レンは騎士の姿を見て今までピンチだったことも忘れて満足げだったがシャマは腑に落ちていない。
「あ、アンタ何者だ!?いきなり出てきて……あっ!
そうか、味方NPC……」
「えぬぴーしー……?」
聞き慣れない言葉にまた首を傾げるレン。
「きっとここまでが今回のシナリオだったんだ。
鍵を開け、起きたゴブリンに襲撃を受けるが、騎士が助けに来る。
あ、アンタさては扉の前でずっと俺らが襲われるの待ってただろ!?
そういうシナリオだから!」
騎士はシャマの問いに軽く首を傾げた。
「はて、何の事だろう。
とにかく私は急いでいる!まだ囚われた市民がいるかもしれない!
では君達は早くここから逃げたまえ!良いね!」
「あっ!待て!」
シャマの呼び止めを無視し、騎士は颯爽と去ってしまった。
「あぁ……あれこそ正真正銘の王子様ですわ……」
「いや、普通に手助け、間に合ってなかったけどな!
まぁいい!とにかく逃げ出せたんだ!とりあえず1つ目の関門はクリア!」
「ひ、1つ目ってまだ何かあるのかしら……?」
「当たり前だろ。このチャプターのクリア条件、覚えてないのか」
シャマは冷静な眼光に様変わりする。
そして眼鏡を吊り上げながら、レンの方へ振り向いた。
「ゴブリンキングの撃破だ」
続く。
(参加者パラメータ)
◆???/シャーマン
[パラメータ]
体力:D
筋力:D
精神:B
俊敏:C
防御:E
成長:B
[所持パッシブ]
・集中++:1人の時、勘が鋭くなる。
[所持スキル]
・Lv1:トキシックトーテム:神経毒を拡散するトーテムを召喚。
・Lv1:ブラックトーテム :煙幕を拡散するトーテムを召喚。
・Lv2:???
・Lv3:???
・Lv4:???
[使用可能武器]
杖/短剣
◆???/アルケミスト
[パラメータ]
体力:E
筋力:E
精神:A
俊敏:D
防御:E
成長:A
[所持パッシブ]
・激昂:怒りの感情によって能力が上昇する。
[所持スキル]
・Lv1:ゴーレム召喚[土]:土製の兵士ゴーレムを召喚。大きさは親指程度。
・Lv1:???
・Lv2:???
・Lv3:???
・Lv4:???
[使用可能武器]
魔導書
<<<<<用語について>>>>>
●パラメータ :能力値。A~Eでランク分けされており、ゲーム内のあらゆる事象に作用する。
●体力 :生きる力。尽きるとゲームオーバー。
●筋力 :力の強さ。物理攻撃のダメージに作用する。
●精神 :心の強さ。魔法攻撃のダメージ、魔法ダメージ軽減に作用する。
●俊敏 :動作の速さ。反応速度、回避率、攻撃命中率等に作用。
●防御 :守る力。物理攻撃のダメージ軽減に作用する。
●成長 :育つ素質。能力上昇、スキル取得に作用する。
●所持パッシブ:プレイヤーが持つ固有能力。参加プレイヤーの素質で変わる。
●所持スキル :職業別のスキル。最大5つのスキルが設定されている。成長によって覚える。
●使用可能武器:プレイヤーがゲーム内で扱える武器。使用不可の武器は所持しても攻撃に使用できない。