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1-1『別世界』

「おい……!おいって……!しっかりしろ!」


何だろう、誰かの声が聞こえる。


俺は朦朧とした意識の中でふと目を覚ました。

重い瞼を開くとそこには見知らぬ男。

見慣れない風貌だ。

革の鎧を羽織り、背中には大きな剣と槍を背負っている。

誰が見てもふざけたコスプレだが、男は至って真面目に倒れる俺を心配していた。


「おっ!目、覚ましたぞ!おい!大丈夫か?ほら、起きろ」


男は倒れる俺の肩を掴み、支えるように体を持ち上げた。

それに合わせて俺も立ち上がる。

しかし足はもたつき、意識も朦朧としたままだ。


「うぅ…………」


「大丈夫か?俺の指、何本か分かるか?」


「……3本」


「おっけ!おっけ!大丈夫みたいだな!」


状況はよく分からないが、目の前の男は俺を助けてくれたようだ。

爽快な笑顔で高らかに笑っている。

身長、体格から見るに俺と同じくらいの年齢だろうか。

茶髪で耳ピアスで少し気取っているようにも見えるが、同年代だと分かればそこまで物怖じはしなかった。

気付けば意識もはっきりしてきた。

俺は頭を横に振り改めて男を見つめる。


「あの、俺は今何処に?ここは?」


「ん?分かってないのか?というかまぁ、分からないのも無理はないか。

 此処はゲームの中だよ」


「は?」


「は?って……説明、受けなかったのか?」


俺は男の不可解な言葉に首を傾げた。

状況を整理する為にふと、目を覚ます前の出来事を頭に思い浮かべる。

確か俺は幽霊のような少女に導かれて"新しい世界?"へと来たんだったか。

正直期待なんてしていなかったけど、まさかまさかこの世界がその、"新しい世界"なのか?

だが、ゲームの中というのは些か腑に落ちない。

少女が言っていた新しい世界っていうのは、ゲームの世界……?

そんなことがあり得るのか……。


「まぁいいや!とりあえず君は20人目の参加者なんだろ?だったら皆を探すの手伝ってくれよ」


「20人?皆?いや、全然分からないんだが、一から説明してほしい」


「えっ?本当に何も聞いてないのか?」


「あぁ……というかあんたは一体何者だ?」


「あ、そうか!じゃあ最初に自己紹介でもしようぜ。

 ゲームの説明はその後してやるよ。

 俺はグラ!見ての通り職業はグラディエーター!宜しく!」


「は、はぁ……宜しく」


グラディエーター?見ても全然分からないぞ……。

防具と背中に背負っている武器で判別しろってことか。

え、ということは俺も武器とかあるのだろうか。


俺はふと辺りを見渡して自分の武器や道具が無いか確認した。

しかしいくら探してもそれらしき物は何も無い。

どういうことだ。

やはりゲームだから、最初は武器屋とか行って買わなくちゃいけないのか?

もう分からないことばかりだ……。


「あの、グラって本名?」


「いやいや違う違う!ゲームの中のあだ名みたいなもん!皆それぞれ持ってるんだぜ!

 で、君の名前は?」


「……峠木月」


「へぇ……木月な!って、本名じゃなくてあだ名教えてくれよ!

 折角ゲームの中だっていうのに雰囲気壊れるだろう?」


「いや、それがあだ名とか持ってないんだ……説明とか何も受けてないし」


「まじか……俺たちがゲームの世界に入った時は丁寧に説明してくれたんだけどな」


「あの、幽霊みたいな少女か?」


「そうそう!サイトちゃんね!可愛いよなー!」


あの子、ちゃんとした名前があったのか……珍しい名前だな。


「なぁ、その背負っている武器、どっかで買ったのか?

 俺、武器持ってないんだけど……」


「えっ?いや……最初から持ってたぜ。

 そういわれてみれば、君の武器無いな。

 防具から見てもどういう職業かちょっと判断付かないし……。

 きっと戦闘系じゃないんだろうな」


防具か。

言われてみれば着ている服も様変わりしている。

緑色のローブに、緑色のサークレット……。

なんだ、靴もズボンも全部緑一色じゃないか!


「まぁ!ゲームを進めていく内に何か分かってくるだろう!

 とりあえず外行こうぜ!俺、丁度町の探索でこの宿に来てたんだ!一緒に回ろう?」


「あ、あぁ……」


グラに腕を引かれて宿を後にした。

そして、外に出た瞬間、俺は驚愕する。


目に映る世界が本当に想像していた通りの"ゲーム"なのだ。

何を言っているのか分からないと思う。

しかし、その世界はまさにゲームと言っても過言ではない。


見たことも無い大きな鳥が空を飛び、杖に乗った人間が宙に舞う。

猛獣を仕留めたハンターが大きな弓を番えて高らかに武勇伝を話している。

お店には色とりどりの薬品が並び、武器屋には剣や盾、槍に魔導書など普通では考えられない品々が揃っている。


まるで映画を見ているかのようだった。


正直外に出るまで不安でいっぱいだった。

これからどうなるのだろう、俺はどうしたら……。

そんな気持ちしか心に浮かび上がらなかった。

だけど、この景色、この世界を見た途端、その不安が全て吹き飛んだ。


「なんだこれ……!」


「凄いよな!俺たち、本当にゲームの世界に入り込んでいるんだぜ!

 サイトちゃんの言っていた世界が本当にあったんだ!」


俺は、自分の選択に後悔しか感じたことがなかった。

いつもいつも、選択しては悪い方向に進み、選択しては失敗し、

そんなことが続いて続いて、今に至った。

だけど、この選択は間違いなく成功なんだ!


「な、なぁ!あの道具屋!見てみようぜ!」


「おいおい!待て!ははは、何だよ……めちゃくちゃ元気じゃん!」


「すげぇ!何だこの薬!全部飲んでみたい!」


道具屋には見たことも無い薬品がずらりと並んでいる。

青白い回復薬、真緑の解毒剤、真っ白な精神薬、どれもこれもゲームで見たことのあるようなものばかり。

ますます心が高揚した。


「やべぇ、なんだろう……美味しそうだよな!全部!飲んでみてー!」


「いやいや!絶対苦いでしょ!?特に真緑の解毒剤とか逆に毒になりそうだぜ?

 っと、こんなことしてる場合じゃなかった!他の奴を探そう!はぐれちまったんだ」


「はぐれた?確かグラは俺の事を20人目って言ってたから、残り18人がこの世界に?

 そしてその18人が全員はぐれてるって事?」


「そう!ゲームを始める前、俺ら19人はミーティングルームに集まって自己紹介をしたんだ。

 その時にゲームの説明と各々の職業を教えられたって訳。

 だけどゲームが始まって目を覚ましたら俺はこの町に1人だった。

 んで、この世界で見つけたのはまだ1人だけさ。

 その1人もどっか行っちまったけどな。

 あ、君を含めたら2人か」


「えっ?折角合流したのに、はぐれたのかよ……」


「しょうがねぇよ……ヒロって奴だがこの世界にウキウキし過ぎて飛び出していったんだ。

 今頃町を出てモンスター狩りでもしてるんじゃないの?」


「そうか……」


モンスター狩り……。

RPGのゲームの世界では当たり前の言葉だな。

俺も早く敵を倒してレベル上げて、強くなってっていう経験がしたいけど、

如何せん武器が無いからな……。

一体俺は何が出来るんだ……俺の職業って何なんだ……。


「グラはこの町を一通り探索できたのか?」


「ん?あぁ!全部回ったぜ!だから他の奴らがこの町にいることはほぼあり得ないね」


「分かった、じゃあ町を出よう。

 っとその前に、武器を買いたいんだが、良いかな?

 素手のままじゃ流石に町を出て何も出来ないし……」


「おお、良いぜ!武器屋はそこだ」


俺らは武器屋へ向かった。

武器屋には強そうな得物が揃っている。

剣、槍、手裏剣、短剣、メリケン……沢山あるけどどれが一番強いんだろう……。


「グラ、どれが良いと思う?」


「え?俺じゃあ分かんねぇなあ……そもそも装備できんのか?

 それが問題だぜ」


「装備?持てば全部使えるだろう?」


「それがそうもいかないんだな。

 俺、魔法とか使ってみたかったから杖を買おうとしたのよ。

 だけど、持った瞬間、その杖が半透明になったんだ」


「はぁ?半透明?魔法なんだし、そういう杖だったんだろ?」


「いや違う、ヒロは名の通りヒーローって職業なんだが、剣しか扱えないんだ。

 試しに俺の槍を持たせたら槍が半透明化した。

 半透明化した武器は持てるには持てるが、生物や障害物を貫通するんだよ。

 武器には出来ない。

 どうやら、職業毎に使える武器が決まっているらしいぜ」


「そ、そうなのか!じゃあ俺が使えるのはなんだ……?」


「一通り全部手に持ってみれば良いんじゃないか?

 その中で半透明化しなかった奴が使える奴だよ、きっと」


俺は武器屋に売られているものを一通り握ってみた。

しかし、どれもこれも半透明化して使えそうな武器が無い。


「どういうことだ!?俺が使える武器……無いのか!?」


「少なくとも此処には使える武器が売っていないらしいな……」


「まじか……モンスターに襲われたらどうしよう……。

 てか!一つ聞いていいか!?」


「ん?なんだ?」


俺は一番重要なことを聞き忘れていた。


「この世界で死んだらどうなる?」


「あぁ……それはリタイアになる」


「リタイア?それは、ゲームから抜けるってだけ?死ぬ訳じゃない?」


「そうだな、死ぬ訳じゃないらしいが、ゲームクリアまで待機になるんだって」


ゲームクリア……このゲームにはクリアという概念がある……?


「クリアって……この世界にずっと居られる訳じゃないのか……!?」


「そうだよ!当たり前だろ!

 このゲームは全15ステージ制で1ステージずつクリアしていくルールなんだ。

 1ステージ毎に終わったら現実に戻るって流れらしいよ。

 まさか、ずっとこの世界に?これは単なるゲームなんだからさ、ありえないでしょ」


「そう、なのか……」


俺はずっとこの夢みたいな世界に居られるものだと思っていた……。

また一から新しい人生を送れるものだと……。

だけど……それが叶わないなんて……。


「一時の……夢なのか……」


ゲーム世界の現実に今まで過ごしてきた世界がチラつき、俺は絶望した。

世の中そんなものだよな……。

いつもいつも、思い描く理想は遠く離れていくのが現実。

現実から逃げたくて、学校を休んだり、やるべき事から逃げたり……。

そんなことをしても結局必ず来る明日という現実に、俺はまた逃げるか戻るかの選択を強いられる。

このリアルな時の経過は絶対に変えられない。

それは絶対だ……。


この世界はそんな絶対を破壊してくれる唯一無二の存在だと一時は思った。

でも……違った。


"本当にそう思う?"


「えっ?」


"ある条件を満たせばこの世界に……ずっと居られる"


「えっ……え……」


俺は心に直接語り掛けてくるその言葉に思わず困惑した。

額の汗を拭い辺りを見渡すが、俺と面しているのは目の前のグラだけだ。


「おい、どうした?キョトンとして……」


「い、いや今何か聞こえたような……」


き、気のせいだったのか……?

いや、でも確実に聞こえたはずだ、絶対に……。


「俺は何も聞こえなかったけどな……。

 てかそんなにガッカリか?今回を含めても後14回も遊べるんだぜ?十分な暇つぶしだろ?」


「いや、俺はこの世界でずっと過ごしていたかったよ。

 現実世界なんてクソ喰らえさ」


「んー……まぁお前の日常生活がどんな感じかは知らないけど……。

 とりあえずさ!暗い雰囲気になるのはよそうぜ!

 折角のゲームが台無しだ!ほら、気を取り直して外に出よう!

 絶対に面白い事が体験できるって!

 体験している内にその悩みや不安は吹き飛ぶ!なっ!」


「あ、あぁ……」


俺はグラに無理やり押される形で町の外へ出る。

しかし、町を後にする中、俺はやはりあの声だけが気掛かりだった。

俺の心に直接問いかけるあの言葉。


"ある条件を満たせばこの世界に……ずっと居られる"


あれは一体何だったのだろう。

気のせい……ではないはずだ……。


この世界に期待を募らせるその片隅で、

俺の心は常に何かの疑問に取り憑かれていた。

この疑問は些細なものなのか……それとも……。


続く。

(参加者パラメータ)


◆峠木月/???

[パラメータ]

体力:?

筋力:?

精神:?

俊敏:?

防御:?

成長:?

[所持パッシブ]

???

[所持スキル]

???

[使用可能武器]

???


◆???/グラディエーター

[パラメータ]

体力:A

筋力:B

精神:E

俊敏:A

防御:B

成長:C

[所持パッシブ]

・武器熟練:武器に慣れやすい。

[所持スキル]

???

[使用可能武器]

剣/槍/斧/弓


◆???/ヒーロー

[パラメータ]

体力:?

筋力:?

精神:?

俊敏:?

防御:?

成長:?

[所持パッシブ]

???

[所持スキル]

???

[使用可能武器]


<<<<<用語について>>>>>

●パラメータ :能力値。A~Eでランク分けされており、ゲーム内のあらゆる事象に作用する。

●体力    :生きる力。尽きるとゲームオーバー。

●筋力    :力の強さ。物理攻撃のダメージに作用する。

●精神    :心の強さ。魔法攻撃のダメージ、魔法ダメージ軽減に作用する。

●俊敏    :動作の速さ。反応速度、回避率、攻撃命中率等に作用。

●防御    :守る力。物理攻撃のダメージ軽減に作用する。

●成長    :育つ素質。能力上昇、スキル取得に作用する。

●所持パッシブ:プレイヤーが持つ固有能力。参加プレイヤーの素質で変わる。

●所持スキル :職業別のスキル。最大5つのスキルが設定されている。成長によって覚える。

●使用可能武器:プレイヤーがゲーム内で扱える武器。使用不可の武器は所持しても攻撃に使用できない。

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