変化
どうやらこの奇怪な棒には、魔力を抑える効果があるらしい。その効果が僕の注ぎ込んだ魔力を周囲に被害が出ない程度に抑えてくれたのだろう。
これこそ神の贈り物なのだろうか。そう思いつつ、燃えてしまった家と人々を思い出す。こんな物があれば、いや、この力を抑えることさえ出来ていれば、こんな事にはならなかっただろう。後悔をしているわけではない。
が、心の中に巣食う彼等の思念は絶えず恨みを込めた言葉を叩きつけてくる。
………ここで座りっぱなしでは何も変わらない!そう思って、腰を上げようとすると…
「す、すごい……」
見られたっ!!?
いや、見られて疚しい事をしていたわけではないが、考えていたことが考えていたことなだけに…このような反応をせざるを得なかった。
「誰だ!?」
やはり、男のものではない高い声がそう言う。個人的には物語の中の悪党や魔王などがするような、ドスの効いた声のつもりだったのだが……
「わ、私!シーアって言います!あ、えと!魔法剣士志望なんです!!」
現れたのは長身痩駆……今の僕の身長が小さいのもあるだろうが、それでも、見上げるようにしないと彼女の顔が見えない。腰まで届きそうな銀髪や凛とした顔立ちが合わさり、何というか、こう……「大人の女性」感が溢れ出ている。
今は、少し焦り気味な表情をしているので、それは少し和らいでいる。可愛い。
「えと……その、シーアさんは僕に何の用ですか?」
「はいっ!私を、弟子にしてください!!」
………なるほど。なんでだろう。
さっきの対処は、どう甘めに見ても素人の太刀筋だった。ということは……彼女が欲しているのは「魔法」の方だろうか。
「シーアさんは、魔法が習いたいんですか?魔法剣士なのに…どうして?」
「…………えっと、魔法が……使えないんです」
呆然としてしまった。魔法剣士とは、自らが振るう剣や引いては自身の肉体に魔法を用いり戦う剣士の事である。魔力の大きさは人それぞれのため、全員に適性があるわけではない。そもそも剣士になる人間は、基本的に魔力量が小さい者が大半である。それ故に、魔法剣士は非常に使用者が少ない少ない職業だった………と、本には書いてあった。
それを自称する彼女が、まさか、魔法を全く使えない?らしいというのに驚きが隠せない。その驚愕に気付いたのか、端整な顔を少し赤らめながら「お願いします!」と頭を下げる彼女。
………可愛い。そう思うと同時に、放っておけない気持ちになった。先程あんな事をした人間にすれば、あまりに身勝手ではあるが。
「任せてください!必ずや貴女を立派な魔法剣士に仕立て上げて差し上げます!」
「ありがとうございます!では早速師匠。師匠の名前をお聞かせください」
と聞いてくる彼女。師匠という呼び方は少しムズムズする……名前は、どうしよう…。
少し考えてから、パッと口を開く。
「マジカと申します」
魔法を使うならこの名前だろう。自慢気に言ってみた。