邂逅
目を覚ます。………何故、僕は生きているのだろう。割と力を込めた魔法ではあったし、炭のように黒くなった身体には毛の一本すらも生えていない。
ならば、何故…?そう考えを巡らせていると――
「物を考え、行動に移せることは人間の美徳じゃろう。だけどな、今は考えんでもいいじゃろ。キミはもう死んどるんだし」
「貴方は、誰ですか」
思考が追い付かなかった。自らの意思で肢体は動くし、僕の頭はさっきから物を考えすぎている。だがしかし、分からない…どれだけ考えても、炭化した僕に彼方まで広がる虚無の空間、そして光り輝く老夫の謎が―――
「ほれ、またキミは思考の世界に沈み込むのだ。それがキミの強みであり、弱みでもある。どうか、この老いぼれの話を聞いてはくれんかね」
僕は無言で首を縦に振った。それが何よりも最善の策だと思ったし、考える間もなく僕の身体は動いていたのだから。
「そうかそうか。なら、話を始めよう…
キミは自らの魔術の強大さ…それを目の当たりにして、自害を選んだね?それは正しい。キミは優しいから、自らを殺すことで、そこに世界への恨みを注いだのだろう。…………しかし、その選択は世界にとって…これから救われるであろう幾千の民にとっては、間違った選択なのじゃよ」
――――何を言っているんだ、この老人は。
僕の魔術が世界と民を守るとでも言うのか?辺境の村ですら怖れられ、恨まれ…最後には自分をも殺したこの魔術が、何を救えると言うのか?
何も守れないんだ。隣人との些細な交流…初めて異性を意識した甘酸っぱい気持ち…大事な人の心も………
「キミの言い分はもっともだ。キミは悪くない…悪いのは………
その溢れ出てしまうような魔力じゃ。それを抑えれば自ずと道は拓けてゆくじゃろうて。そしてワシは、それに対抗するための力をキミに与えようと思う」
「あはは、面白い冗談を言うお人だ……僕の気持ち知らないで―――――」
思慮を欠き、本能のまま僕は立ち上がる。魔力は溢れ、彼奴を喰い殺さんと魔素が僕の身体を冒した時――――
僕の意識は真っ白な何処かに吸い込まれていった。






