贖罪
短いです。
2
ただ、駆けていた。走れば嫌なことなんて置き去りに出来る。この身を濡らす雨が、人の焼けた臭いもこの恨みも洗い落としてくれる。
―――そう、思っていたのに。
消えない。皆の笑顔、鼓膜に染み付いた愉しそうな笑い声。そして…憤怒に身を任せ、僕を誅殺せんと鉄剣を振り下ろそうとした隣のおじさんの顔。娘を抱き、涙をその顔に伝らせながらも死の恐怖と最期まで闘い抜いた女性の断末魔。
身体から溢れ出た魔素が取らせた行動…他人のツケを払わされた結果のような物が、僕の身を蝕んでいく。
生まれて、よかったのだろうか。
少なくとも、僕が生まれてさえいなければ最初からこんな事は起こり得なかった。喧嘩で魔法を使って大目玉を受けたり、両親が夜中に声を荒げて言い合いをすることも無かったし…
何よりも、この夜の惨劇はもう無かったことになんて出来ない。
やはり、生まれてくるべきではなかったのだろう……口に出せばきっと壊れてしまう―――
そんな言葉を飲み込み、僕は詠唱を始めた。
「この大地に根付く全ての魔素よ、我が身に宿りて燃え盛る業火で何もかもを焼き尽くせ!」
これでいい。周りの木々が燃えていく…息をすれば肺が焼けつくような痛みに襲われる。
これはきっと贖罪なのだろう。この世の法則に逆らい、ただ己の欲の為に周りを顧みず突き進んだ、哀れな「厄災の子」への。
ああ……溶けていく………溶けた僕が、天に昇る煙に混ざってゆく。
………なんて、幸せな気分なんだろう…
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