2章 (1)
不思議な麻雀だった。
どこがどう不思議なのか、まず、そこがつかめない。
しかし明らかに、通常とは違っていた。
上家の大柄な男は、卓に着いたときから敵意をむき出しだった。ぼさぼさの髪に、色黒で艶のない顔。何で生活しているのか皆目見当がつかない、得体の知れなさがにじみ出ていた。ユウはできるだけ視線を合わせないよう、いくぶん反対側に体を向けて打っていた。
だから、下家のその男に注目したのかもしれない。齢も背格好もユウとほぼ変わらない。痩せぎすの体にお似合いの、細くしなやかな指をしていた。
大柄の男が雑に激しく打つのと対照的に、痩せぎすは音もなくツモり、捨てるときもそっと並べるように置く。
1局目。どこといって不自然な感じのない進行だった。だが、その両側2人は、あがりを抑えているように感じた。
小さなあがりが続き、オーラスを迎えた。点数に開きはない。ユウの沈みは2000点ほどで、満貫をあがればトップとなる。大柄の男が煙草の灰を落としたときを狙い、時間を止めた。
欲しい牌が痩せぎすの山の端にあった。それをいただき、要らない牌をそこに置いた。イーシャンテンが、テンパイに変わった。ホンイツで4面チャンなことから、当たり牌はあえて置かなかった。誰から出ても、トップを取れるのだ。ユウは態勢を整えて、時間を始動させた。
大柄の男が煙草をもみ消し、ツモるために手を伸ばした。ところが、男は中空で手を止めた。
「ん?」
聞こえるか聞こえないかの声だが、男が短く発した。その顔を見たユウは、ガッと心臓をつかまれたように息が止まった。バレたのか。いや、そんなはずがある訳ない。自分で自分の疑問を強く打ち消した。
大柄の男の視線は、ユウが牌を取り換えた場所に向けられていた。それはほんの一瞬のことだったが、たしかにその場所に、視線が向けられていた。男は眉間に深くしわを寄せながら、ツモった牌を手牌に入れ、『西』を切った。ユウは『中』をツモ切り、そして今度は痩せぎすが手牌から『中』を出して捨てた。
これにもユウは落ち着かない気持ちになった。この中盤で、何故『西』や『中』など完全な安牌を捨ててくるのか。たまたま持っていただけなのか。それとも、なにかの気配を感じて暗刻を崩してきたのか。ユウは直感で、暗刻崩しだと思った。
大柄と痩せぎすの次の捨て牌を見たいところだったが、対面のサラリーマン風から当たり牌が出て、ユウは手牌を倒した。
「ホンイツ、白、ドラ一つで満貫です」
大柄の男はユウの手牌ではなく、まじまじと顔を見ていた。