1章 (4)
翌日は一日中眠っていた。
そうしようと思ったわけではなく、疲労で起きられなかったのだ。
家を持たないユウは、ホテルを転々としている。金はかかるが、麻雀で稼ぎ出しているので問題ない。それよりも、落ち着かないことの方がいやだった。
ネットカフェと違ってふかふかで寝心地のいい寝具だが、日中はベッドメイキングや部屋の掃除などでせわしない。起きて部屋を空けることも強いられる。
ほんとうはどこかに部屋を借りたいのだが、逃げ回っている状況では身分証を提出することもできず、保証人も立てられない。
一日眠りっぱなしで体力の戻ったユウは、翌日、雀荘に繰り出した。
レートの高い店でメンバーはきつかったが、勝負所で時間を止めて高い手をあがり、4戦中3戦でトップを取った。最後に2位で終わったのは、目立たなくするためだ。この雀荘は客層がいいのでまだまだ通いたかった。
場代を払い、上着を着て外に出ると、一人の男が追いかけてきた。
ユウは呼び止められ、振り向いた。
サラリーマン風の若い男が、すまなそうにお辞儀をした。ユウはいつもの如く、警戒心から表情を強張らせた。
「ごめんなさい。ちょっと君と話したくて、追いかけてきちゃいました」
にこやかに男が言った。
そして名刺を出す。
『雀鋭伝説』
名刺には、朱の文字が浮きあがっていた。その下に、出版社と書かれている。
「わたくし、麻雀ライターをしている者で、あの店のオーナーとは親しくしてもらっている関係で、よく出入りしているんですよ」
インタビュー慣れしているのか、よどみのない言葉だとユウは思う。書き手ということで、より警戒心のレベルを上げた。
「ここではなんだから、ちょっと店に入りませんか。酒でもコーヒーでもお好きな方へ」
背中を軽く押される。
「すみません。ちょっと急ぎの用があるもので」
押されて数歩動いたものの、ユウはそこで強い拒否の姿勢を見せた。
「そうですか。申し訳ないです」
そこで、では今度会ったときに、とでも言われるのかとユウは思っていた。しかし男の言葉は違った。
「それでは手短に一つだけ聞きたいんだけど、さっきの最終局のオーラス、なんであがりだったのにあがらなかったの? なんで、みすみすトップを捨てたの?」
ユウは体が固まり、背中に汗が伝った。