1章 (1)
ユウは、とても疲れていた。
その雀荘は地下だった。雑居ビルでエレベーターなどない。いや、あるにはあるが、扉の前に荷物が積まれ、使用不可となっている。
階段はたったの十数段。しかしそれがつらい。折り返しの踊り場まですら、とても長く感じる。
それでも、上がらなければ仕方がない。手すりを両手で持ち、一段ずつ、体を引き上げるように上っていく。
マラソンのあとのような、あるいは風邪で高熱が出ているときのような、疲労に包まれた重い体。引き上げ、引き上げ、進んでいく。
3時間ほどの間、ほぼトップを取り続け。負けた連中がどういう思いでいるのか、手に取るように分かる。顔を合わせたくなかった。早く立ち去りたい。自分を敵視している人間から離れたい。気持ちだけが、急いていた。
地上まで出て、ユウは、花壇の端に座り込んだ。
息が苦しく、俯いてじっと目を閉じていた。
体力が極端に落ちていることを認識していた。自身で、はっきりと感じられるのだ。とても息苦しい。実際の疲れでそうなっていることもあるし、体力低下の恐怖から来る圧迫感からも来ていた。まだ、つい最近二十歳を超えたばかりなのだ。それなのに、この疲労。こんな体で、自分はあとどれだけ生きられるのかと考えることが、怖くて仕方なかった。
しゃがむこと約10分。ようやく息が通常に戻ったユウは、ゆっくりと立ち上がって雑踏を歩き出した。
疲れが空腹感を増していた。なにか贅沢に、栄養のあるものを食べたかった。
一軒の河豚料理屋の前で立ち止まった。
――― 河豚、かぁ。
魚料理など面倒なだけで、滅多に口になどしない。せいぜいがコンビニ弁当に入るフライくらいだ。しかしこの日は何故か食指が動いた。
店構えが真新しく、専門店にしては入りやすそうだ。入ってみようか。こういう店は値段が張るだろうが、勝ち金がたんまりポケットにあるので問題ない。
しかしユウは、しばらく悩んだ末に歩き出した。
こんな店に未成年に見える人間が1人で入れば、胡散くさそうにじろじろ見られるだけだ。ユウは酒を呑まないのでそれに関して注意を受けることはないが、それでも場違いな客への対応はぞんざいになることだろう。疲れで気も立っているので、店の態度如何で妙なことにならないとも限らない。
今日は落ち着いて食べたかった。
――― カネはあるのに高価なもん食べらんないってのもなぁ。
皮肉に苦笑を浮かべながら、ユウはその近くで電飾を派手にする牛丼屋に入っていった。