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「サムライー日本海兵隊史」(外伝等)

桃太郎の舞台裏

作者: 山家

 私、土方鈴は、目の前の3人を、さすがに睨まずには済ませられなかった。

 私は低い声で、3人に半ば問いただした。

「私、そんなに怖い女?どうみても、桃子は私じゃない」


「ええ、だってねえ。1人、別の歴史世界に行って。悪気は無かったとはいえ、私を孤独死させたし」

 村山愛が、他の2人に同意を求めた。

「私に至っては、自業自得とは言え、ギロチンで死刑になったし。フランスが滅茶苦茶になったし」

 ジャンヌ・ダヴーが言った。

「私は、いい人生だったと言えるかもしれないけど。最期に子どもに先立たれたのはねえ」

 岸澪が言った。


「そういうことから考えていくと、鈴をモデルにして桃太郎を女にした、桃子の鬼退治とその結末は、こうなるのが自然かな、と」

「私もそう思う」

「私も同じ」

 3人は口々に言った。


 はあ、これくらいの報復は赦さざるを得ないか。

 私は内心でため息をついて観念した。


 あの異世界というか、彼、篠田雄が、海兵隊ではなく陸軍に入った世界、私と彼が無事に結婚できた世界での話を、私は主に村山愛の口車に乗せられた末、最終的に全部話す羽目になっていた。

 さすがに村山キクとしての100年以上の客商売、大女将としての生活は伊達ではなかったという訳だ。

 そして、3人共がそれを聞いた末に色々と考えるところがあったらしい。


「もし、彼と出会っていなかったら、土方歳一と結婚していたか。あり得たわね。土方歳一と私、岸忠子は同じ学年で、お互いによく知っていた。両親も2人が結婚すればいい、と考えていたみたいだし」

 岸忠子ではなかった岸澪は言った。


「彼と出会っていなかったら、芸妓として人生を終えたか。私もありえたと思う。幸恵を妊娠したから、私は芸妓を辞める決心をした。これという人を追い求める余り、ずっと芸妓を続けてしまったかも」

 村山キクではなかった村山愛も言った。


「彼と出会わずにマルセイユにそのままいたら。レイモン・コティの愛人になって、ユニオン・コルスの大幹部の一人になっていたか。マリー姐さんのことを想えば、充分あり得る話ね。それにしても、最期は死刑になるなんて。私、どれだけ悪いことをしたのよ。更に、フランスは第三共和政が崩壊して、ヴィシーフランス政府が樹立されるなんて。彼と私が出会ったから、フランスは救われたか。一人の街娼と軍人が出逢うか出逢わないかで、一国の歴史が変わるなんて、そんなの性質の悪い冗談よ」

 ジャンヌ・ダヴーに至っては、思わず泣いてしまっていた。


 ちなみに、お返しとして他の3人から聞かされた「彼」が第一次世界大戦で戦死せず、「ユーグ・ダヴー」として生き延びていた世界での私の人生は、私が最初の人生で経験したものと、やはり違っていたが、私の想像程には大きな違いが無かった。


 あちらの世界では、ユーグ・ダヴーは、千恵子と総司が生まれたことを知ると、すぐに自筆の手紙を何通も送り、私と岸忠子の争いを鎮めようとしたらしい。

 更に会津の同級生にも、自分の非を素直に認め、認知して養育費を支払うと書いた手紙を送る等した。

 そのために、彼の実家は会津に住み続けることができ、千恵子は彼の実家からも可愛がられた。

 とは言え、やはり故郷、実家と「彼」の関係は微妙になってしまい、それに他のこともあって、ジャンヌ・ダヴーと駆け落ちするという決断を下したのではないか、と他の3人は推測していた。


「ここまで生きてきて想うのだけど、自分が悪者になって、フランスに遺れば、日本にいる子ども達は仲良くなるし、日本にいる女性同士もそれなりに付き合える、と「彼」は悩んだ末に考えた気がするの。日本に帰ったら、女同士の喧嘩になるのが目に見えているしね」

 村山キクではなかった村山愛は言った。


「そう言われれば、「彼」が言ったことがある。本当は日本、故郷に帰りたい、でも、喧嘩になるから日本には帰れない、自分がフランスにいるのが一番いいのだと」

 ジャンヌ・ダヴーが補足した。


「確かにねえ。「彼」が日本に帰ってきたら、大喧嘩を「彼」とも、りつともやっていた気がする。それを想えば、「彼」なりの優しさだったのかも。実際、50年に渡って私、岸忠子に生活費を送ってきたし」

 岸澪も肯定した。


 そして、彼はフランス外人部隊に入隊し、フランス人になって、フランス軍の将軍になり、「ユーグ・ダヴー」として人生を最終的には終えた。

 個々の人生は、大きく変わり、例えば、村山幸恵、篠田千恵子、岸総司は仲の良い異母姉弟として育ったし、アラン・ダヴーには11人の同父母弟妹ができた。

 第二次世界大戦までの歴史の流れは、ほとんど変わらなかったが、敢えて言えば、アラン・ダヴーが、スペイン内戦に義勇兵として行くことが無かったことが変わったことだった。


「アランは、お父さん子に育ったから、お父さんと離れたくなかったの」

「こっちでも、千恵子は、お父さん子に育ったわ」

「「はい、はい、ごちそうさま。私の子は不憫なままね」」

 ジャンヌがそう言ったことから、私はそう言い返し、澪と愛は複雑な顔をして言った。


 私達4人の人生は、ジャンヌ以外はそう大枠は変わらなかった。

 村山キクは村山幸恵に、私は千恵子に、岸忠子は岸総司に最期を看取ってもらえた。

 ジャンヌは、「ユーグ・ダヴー」の最期を看取り、アラン達が囲んで最期を看取った。

 第二次世界大戦後の歴史の流れも大きくは違わなかったらしい。


 私は、それら全てを考え合わせると、今回の桃子の話については仕方ないか、と割り切った。


 マダム・サラは、彼女達の会話を聞き合わせて陰で思った。

「彼」、「祖父」が生き延びて、「祖母」ジャンヌと暮らした世界では、ジャンヌは明確に言わないが、父アランは、カサンドラ義母さんと逢わずに人生を終えたようだ。

 ということは、アラナ姉さんは産まれなかったということになる。

 ピエール兄さんは、どうなっているのだろうか?

 私の兄に、やはりなっているのだろうか?

 そもそもカテリーナ母さんとアラン父さんは知り合っていないかもしれない。

 ピエール兄さんの実父ピエールが、アラン父さんのスペイン時代の上官だったことから、私の両親は知り合ったのだ。

 マダム・サラは物思いに耽った。

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