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君に再会するまでのX X年間  作者: ふくろう亭
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8 研究所が出来た

 楽器の方だがなかなか上達はしなかった。何といっても経験がまったくないことだから俺の能力があまり活かせない。音が出せるようになっても楽譜通りにはなかなか鳴らせない。それでもまったくいやにはならなかった。純粋に楽しかったのだ。毎日少しづつうまくいくようになるのが分かるようになるとより楽しくなって、またのめりこむ。これは俺と僕は完全に一致していた。共同作業としては一番うまく行っていたと思う。周りのの先輩達も優しかったしね。貴重な男子部員ということで、大事に扱ってもらっていたのだと思う。パートリーダーの先輩なんかには、文字通り指一本の動かし方から手取り足取り教えてもらった。俺的にはほほえましく感じていたのだが、僕的には恥ずかしいところもあったりしたのだが。

 ただ楽器演奏を練習するなかで、身体のコントロール方法は格段に進歩した。それまでのどちらかがその時その時主導権を取って動いていたものが、うまく互いに折り合いがついていくようになったのだ。

 こういったことは、ほうっておいてもいずれはうまくいくようになったのだろうが、早いうちに出来るようになったことで、私の中学生生活はスムーズに進む事となった。家族もこれで安心したと思う。なにしろ一時的とはいえ家の中でさえ転んだり、ぶつかったりと明らかに行動がおかしかったのだから。

 まあこうやって私達の共同生活は軌道に乗って行った。

 家のほうでいえば大きな変化があった。

 一つは電話がついたことだ。俺の記憶でも高校にはいるころには電話があったから、少し早くなったぐらいだとは思うが、発明がらみのやり取りの必要上契約をした。記憶にはなかったことだが、高額だった。手続きが色々あって債券がどうのこうので〆て十万以上した。大卒の初任給って今いくらぐらいだ、三万円ぐらいだと思うのだが。よくこんな値段をとるよな、電電公社さん。姉は大変喜んでいた。余談だが、しばらくたって電話帳に名前が記載されたときに、大阪方面から電話がかかってきたことがある。同じ苗字ですね、ということだけでだ。うちの名字はちょっと珍しく当時の神戸ではわが家一軒しかなかったようだ。全国的にもそこそこ珍しい部類ではあったから、電話帳を見て同族だと思って掛けてきたらしい。親父がでてそれなりに盛り上がって話していたが、特に親類筋ではなかったようでそれっきりになったようだ。まあそんな時代です。

 もう一つは、自宅の他に小さな作業場を確保できたことだ。倉庫だった物件のようでトイレと流し台がついた十坪ほどの木造平屋だった。床は板張り、扉はシャッターではなく隙間風の入る木製の開き戸だった。人口密度の高いこのあたりでは掘り出し物といってよいと思う。机と簡単な工具を持ち込んで「発明研究所」が稼働出来たのだ。名義名目は親父の内職作業場なんだが。

 俺はここで「発明品」を試作し、大阪の発明クラブ会長と相談して企業へ持ち込んだ。会長は顧問格で協力してくれていたのだ。

 試作品はどんどん増えていく。そのうち親父が制作を手伝うようになる。作業道具が増え一年もしないうちに引っ越すことになるのだが、俺はこの作業場が気に入っていた。海が近くて風向きによっては潮の香がすることもある。資金に余裕ができたところで、まだ土地代も安かったから購入してそのまま置いておくことにした。せっかくだから自分の名義にしてもらった。

 税金対策にもなるとか税理士に言われたんだが、そのあたりは任せきりだった。なにせ急成長していたんだ。うちの研究所は。

 

電話というのは電電公社の債券を購入するという形式で本体が届けられることになっていました。そしてこの債券は将来的に現金化されて購入者に帰ってくるはずだったのですが、ついに実施されることなく電電公社は民営化されていくことになります。

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