20 高校入学
やっと高校の入学式の日を迎えることが出来た。退院してからも随分と身辺には気をつけた。なぜ入院する羽目になったのか、それは進学先を変えたからではないかと思ったからだ。散々俺の経験とは違うことばかりやってきて今更だが、それまでは自身の命にかかわるようなトラブルはなかったのだ。N高校への進学を決めた途端に事件が起こった。日常で俺が行ってきた事などとは違う決定的なことだったに違いない。そう考えたのだ。そして今日の入学式に無事参加することが出来た、と思うのだ。俺にとっては懐かしの母校であるK高校に。
実は高校進学自体を止めるという選択も考えた。大検資格試験を使えば大学入試は受けることが出来る。入院中に、リハビリだけでなく高校の教科も一通り学習することが出来ていたので、高卒程度の資格試験なら十分クリアできる。体力も入院前よりも良くなっている。何しろリハビリ中から師匠が参加してきて、よってたかってトレーニングを指導されたのだ。リハビリのプログラムに合気道のエッセンスを付け加えるとどうなるか、とか言ってリハビリのトレーナー達も妙に気合が入っていた。学会の発表に使えるとか使えないとか、もう実験台かよ。あげく退院後は師匠とのマンツーマンの稽古の日々だった。そりゃあこちらは浪人生ですからね、時間はたっぷりあります。
まあ心身ともに入院前よりパワーアップして帰ってきたわけだ。
入院は最初に担ぎ込まれた大阪の病院だったので、半年ぶりに神戸に帰ってきた時は、素直に嬉しかった。あらためて大阪と神戸を移動してみると、結構な距離だよなと思う。家族も師匠もしょっちゅう病院に来ていたのであまり意識はしていなかったのだ。中学の関係者は春がすぎる頃から見舞いが減っていたので、まあそんなものかと僕などは少々拗ねていたのだが、これは仕方がないよね。大阪なんかに入院するほうが悪いよ。第一もう卒業しているんだから、在校生ならともかくね。
同級生達だってそれぞれ進学して新しい環境で日々忙しいだろうし。日頃から深い付き合いをしてきてはいなかったしな。おかげでリハビリと自習に集中できました。
それでも先輩や後輩が退院ちかくまで何回か来てくれたものね。それで十分です。
で、聞かれました。「高校はどうするの」「高校はどうされるんですか」
資格試験の事を言うと反対されました。「高校生活は楽しいわよ」「そんなこと言わないで下さい」
まあね、それは知ってますけどね。どうせ大学入試を受けるには年齢も足りてないしね。行きます行きますったら、泣かないで下さい。と言うようなこともあって、それだけじゃもちろんないけれど、進学はすることにしたのだ。ただしN高ではなくK高にだ。これで履歴書的には俺の知っているものと同じだ。その先はガラッと変わる予定だから怖いけれど、まあ三年間先延ばしだ、と思うことにした。それにあいつらとも会いたいしな、やっぱり。高校を出てからも長い付き合いになった友人達にやっぱり会いたいよ、俺は。
入試の手続きで中学に寄った時に、かつての担任に会って進学先の事を言うと少し悲しげな顔をされた。
「思うところあって」と言ったのできっと学力が落ちたと思われたのかもしれない。妙に励まされた、まあいいや。
入試自体は何の問題もなかった。拍子抜けしたぐらいだ。たぶん全教科満点じゃないか、と思ってはいたんだ。
入学手続きに行った時に声をかけられて、職員室に連れ込まれて色々と質問されたんだがやはりそうだったようだ。新入生代表で入学式で挨拶をと要請されたがそれは断った。「現役生にすべきです」と言って納得してもらった。
式の後クラスの教室に行く。俺としてはさすがに懐かしすぎてあちこちをながめてしまう。たぶん俺の通ったのとは違う教室だし、もちろん担任も違う。見覚えがないな、それくらいは仕方がないか。などと思っていると隣の席から声がかかった。
「先輩なんでこんなところにいるんですか」こんなところにって、そりゃ入試を受けて合格したからなんだが。
「ちがいますよ、N高じゃなかったんですか」
「どうして?」
「だって皆んな思ってたんです、先輩はN高だって」
「いいじゃないか、ここの校風が気に入ったんだよ」
「あああ、可哀想なXXちゃん。頑張ってN高受けたのに」
「それって誰のこと?」そう聞くと睨まれた。「キッ」という擬音がピッタリな様子で。
「病院で約束したんじゃないんですか」
どうも見舞いに来てくれていた後輩のことらしい。
ここらで出てくるNとかKとかのは実は適当にやっています。モデルはありますけど特定は出来ないくらいには変えております。




