第5話「俺が選ばれしものって言われたのはたったの10分でした」
「なに、俺っすか? 俺が選ばれしもの? 」
いや待ってこの子なに本気でなに言ってんの?
俺ここに派遣されたの、ただの運じゃないの?
姫はさっきまでの態度とはまるで違い、目を輝かせニヤニヤしながら俺を顔を見ている。
なんだろう、凄く胡散臭い顔をしている。そんなことを考えてる俺に
「そうです、あなた様はこの世界の伝説に登場する選ばれしもの」
「ただ運で来ただけですけど」
「あなた様は何者にも負けない最強の武器を使い、見事な剣さばきで邪神軍をなぎ倒し」
「あ、中学の時剣道部でしたよ、毎日、めーんって奴言ってました」
「最強の防具を使い数万という敵の攻撃から身を守り····」
「今、学ランなんですけど」
「また、最上級の魔法を使い····」
「魔法かぁ、俺ろくにマジックもできなかったな」
「もうそういう冗談いいですって」
ニコニコして俺の肩を叩いてくる。
なんなんだこいつ······
「ま、とにかく村を助けに行きましょう! あ、自己紹介がまだでした。 私は第13代ラティーン王国の娘、セラ=ヴィアンヌでございます。 気軽にセラって呼んでくださいねぇ」
「俺は如月 駈だ」
「カケルって言うんですか、いい名前ですねぇ」
やはりこの娘、今の顔といい態度といいすごく胡散臭い。
この時、俺は絶対に裏があると確信した。
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「うわぁぁぁ」
俺たちはセラの魔法で廊下から一気に村まで瞬間移動した。
「セラ? ってお前!?」
「え、何ですか?」
気がつくと、さっきまでドレス姿のがいつの間にか兜はつけてないものの上半身下半身は鎧をつけ完全武装になっている。
「お前。 早着替えチャンピオンなのか? 着替えるのはっえなお前! 」
そう言うと、ちょっと不機嫌そうに
「はぁ、あの魔法使ったら私はフル装備できるように設定してるの、もしかして魔法の設定の仕方も知らないの? カケルってもしかしてバ·····常人さんより頭の作りが少々、軟弱なのですね。 ごめんなさい」
おいこいつ、ついに本音入ったぞ。 バリバリ嫌味突っ込んできたぞ····
「おい、やっぱり今までの演技·····」
「さぁ行こう! すぐ行きましょう!! 」
話変えやがった····
だが、あの瞬間移動魔法····
ほんとに異世界に来たと再度確認した。
前方を見ると、明らかに不自然な煙が上がり家が潰れている間違いない襲われているようだ。
よく見ると敵は2体のようだ。
骨の角がはえ、いかにも魔法を使うような杖を持ち真っ黒なローブを被った骸骨姿のアンデッドの年寄りと骸骨の後ろに隠れているツノが生え、柔らかな紫色の髪の毛がある小さな女の子の2人だ。
この少女にはちゃんと皮も肉もある。
「ぐぅははは、ちょろいちょろいぞ人間どもこんな雑魚なのか?」
周りには数多くの兵士が倒れているが、村人の死体がないところを見ると無事に逃げ出せたらしい。
「まちなさい、邪神軍ども」
兵士の上をズカズカと踏みつけながら走っていき、セラがアンデッドジジイの前に立ちふさがる。
······味方踏みつけるとか容赦ねー
「さぁ、カケルさんあの骸骨を止めてください!」
て、俺かよ、無責任すぎるだろ!
まぁ、いい。
「しかたない、じゃあ手始めに····」
ちょっと敵の近くまでダッシュしてみるか、もしかするとここの重量が地球より弱いとかで早く走れるとか····
俺はアンデッドジジイの近くまで走ってみる。
うん! 遅い! いつもどうり! 絶好調! こらぁ9秒台だわ。
では、ジャンプ! 宇宙まで! うん! 飛べねぇ! そんな甘くねぇ! 知ってた!
俺は開き直り、質問する。
「どうやって? 」
セラは、何言ってんのと言いたそうな顔で
「またまた、あなた様は最強の剣持ってるんでしょ、あんな骨ぐらい一発で······」
セラは俺の全身を凝視し、真っ青になりながら言った。
「まさか、あ··あんたただの」
「一般人ですけど······」
「え······」
いや、そんな顔されてもなにもできないんだが
「バッカじゃないのぉぉ」
セラが怒鳴った。
「私1人であんなのどうやって倒すのよ! バカなの、わかったあんたバカなんでしょ」
「さっき言ったじゃねーか! 俺はただの一般人で、ここにも運で連れてこられただけだって」
そう、確かに俺は言った運だけでここに派遣されただけと
「はぁ? そんなの────」
「あのーそろそろいいか」
俺たちの口喧嘩を止めるかのように、骸骨が話に入ってきた。
「今はそれどころじゃない、10分待ってろ」
「そうよ、もう3分の1村壊滅させたんだから満足して帰りなさいよ、私はこの詐欺勇者を一発ボコらないと気が済まないわ」
骸骨がいいんすかとでも言いたそうな顔でこっちを見ている。
····普通はそうなるか
3分の1とはいえ、壊されてんのに口喧嘩ごときで見逃すって言ってるからな。
「ありがたい話だが、村全部壊滅させないと上がうるさいんのだ、あと王国最強の娘と王と女王を倒せって言われて····だから····」
そう言うとさっきまでとは明らかに違う口調に変化した。
「全力で行くぞ、人間」
アンデッドジジイが、杖を振り上げこちらの方へ駆け出した。
とてもジジイの出していい速さではない··
何あれ? 〇カチュウのでんこうせっかレベルだよ。
狙いは俺ではなく、横にいるセラの方だ。セラはすかさず剣を抜き、ジジイのつえを受け止める。
「ほう、素早い反応だ。唯一骨がありそうなのはやはりお前だけだな」
「うぅ、重い·····あんたなんで骨だけなのになんでそんな力あるのよ 」
そんなことを言われ、ジジイは意表を突かれたようにキョトンとしている。
触れないほうがよさそうだが。
「そ、そんなことはどうでもいい、早くケリをつけてやるぞ」
さっきセラに言われたとこを引きずっているのか、きまりが悪そうになっている。
「私が仮に死んでも今まで戦っていた戦士が仇を打ってくれるわ、あんたももう終わりよ」
フラグ、姫それフラグ!!
「ふん、なにをバカなことを言っている娘よ、戦士なんぞもうお前達が来た直後に帰っていったではないか」
え······まじで
振り返るとそこにはアンデッドジジイの言う通り誰1人として残っておらず───
辺りは静寂に包まれていた····