第35話 夜営
ブクマ有難うございます。
「ヴァルザス起きてください」
エルナに身体を揺すられて目が覚める。疲れてるのか?誰か近づけばいつもは直ぐに気が付くのだが……
「すまない。交代の時間か?」
「はい」と返事を返すも何か言いたげだ。
「何か異常があったか?」
「異常はあったと言えばありましたよ」
エルナが上を指さす。雷鎖網の魔力の網に引っかかり硬直している赤肌鬼やら牙兎などだった。すでに息の根は止められている。
「こんな事態です。止めは瑞穂にお願いしました。拒絶反応も出ませんでしたし躊躇もほぼなかったです。あの歳の娘にしては良くやったと思います。出来れば褒めてあげてください」
そう言うエルナが座り込んでいる瑞穂の方を見る。
「エルナもアリアも朝まで寝てていいぞ。3刻近くは寝れるはずだ」
座り込んでいる瑞穂の元へ向かい膝を付き目線を出来るだけ下げる。
目が合うと「大丈夫です。なんとかなるものですね。女は度胸です」と言ったが少し声が震えている。
今までの生活環境や倫理観とか考えるなら頑張ったなと褒めるべきだろうか。
「無理しなくてもいいぞ。無理なら無理と言わないと潰れるてしまう。別に無理だったとしても見捨てはしないからよく考える事だ。今回はよく頑張ったな」
そういって頭を撫でてやる。暫くすると寝息が聞こえてきた。やっぱりきついんだろうか?
冒険者としてやっていく中で最も重要というか必須なのが命を絶つという行為だが、これは慣れる以外にない。俺みたいに割り切れたら楽なんだろうけど、必要なときは躊躇しないくらいにはなってもらわないとな。酷かもしれないがどうか潰れないで頑張って欲しい。
「待たせたな」
「いえ、貴方の魔法のお陰で実際にはやることなんてありませんしね」
「ドンは今回の依頼が終わったらどうするんだ?奴隷でなくなったし行く当てがないならうちに来ないか?」
「僕みたいな半豚鬼と一緒に居ると貴方たちに迷惑が掛かります。どこかでひっそり畑でもやりながら暮らしますよ」
まだ計画段階ではあるがある計画をここで話すことにする。
「ラグー河の河口近くに中洲があるのは知っているか?」
「勿論です。河賊のアジト化してるとか。それが何か?」
「細かい話は省くが、河賊は討伐され今は俺が借りている。そこでいくつかやりたいことがあってドンの知識を生かして欲しい」
自分が頼られるという事に慣れていないのか、かなりオーバーに驚いている。
「僕なんて中途半端な力しか取柄のない半豚鬼ですよ?」
「謙遜も度を過ぎれば嫌味でしかないぞ。もっとも自分は凄いとアピールする奴が2流以上だった例もないが」
「気をつけます」
「水薬の材料に使う植物などを栽培したい。ドンにはそれらの知識と技術がある。それに豊穣の女神の司祭でもあることを生かして欲しい。半豚鬼が人族の世界でどんな目で見られているかは理解している。なんなら中洲から出なくても構わない。衣食住は約束するし必要なものなら誰かに買いに行かせる」
「そこまで評価して貰って即答できない事を許してください。依頼完遂までに答えを出します」
そう言ってルクス達の側に移動する。座り込んだドンの視線を辿ると魔術師のカーシャに注がれている。迷う理由はソコか…..。だがカーシャはルクスの愛人枠だろ。
メフィリアに袖を引っ張られて考えを打ち切る。
「すまない。何かあったか?」
少し頬を膨らませてる。機嫌が悪い?
「折角ドンさんが気を利かせてくれたのだからお話しましょうよ」
「一応俺ら見張りだからな」
無駄だとは思うが注意しておく。焚き火の前で座り込み敷物を取り出し、そこにメフィリアを座らせる。
周囲に気を配りつつメフィリアの話に耳を傾ける。
色気のある話かと思いきや訓練の話や真語魔術の話ばかりでしかも講義に近い。質問はほぼメフィリアだ。真語魔術は実践と検証を経ないと意味のないモノもあり、メフィリアは魔法強度こそ神がかっているが実践と検証に関してはあまりなく、同じ魔法を使っても俺の方が優れた成果のモノが幾つかある。儀式を伴う魔法などがそうだ。
お嬢さん方の装備の魔力付与を見て自分でも試したそうだが、下級品ばかりしか出来なかったので気にしていたらしい。
特にメフィリアに贈呈した装備は俺の本気の一品で、それぞれが伝説級を超える品で興味本位で術式解析したら全く意味が解らず悶々としていたらしい。
ここ数日大人しかったのはその事で頭が一杯だったとの事だ。変なところで負けず嫌いなんだよな….。俺からすれば、その汲めども尽きぬ魔法力こそ羨ましいのだがな。お互いにないものねだりしてるだけなんだろうけど。
魔法講義で2刻ほど時間が過ぎた。説明した魔法理論がまだ理解し切れていないようで思考の迷路に迷い込んだようだ。あれは当分戻ってこないなと判断し火を消しその痕跡も消しておく。ルクスの正妻気取りのアデリンに見つかると煩いからな。
片付けも終わり、周囲に気配を感じないので雷鎖網の魔法を解除する。日は昇り始めているのでそろそろルクス達も起きるはずだ。時空収納か小瓶を4本取り出しルクス達に振り掛ける。
「ヴァルザスさん。それは?」
「体力水薬だ。内緒だぞ」
ドンは無言で頷く。進むにしても戻るにしても体力がないと困るしな。もっともコイツらの事だから奥へ行きそうだが。
メフィリアの元に戻ると寝ていたお嬢さん方も起き出して来た所だ。水作成で顔を洗う用の水を呼び出し、洗濯で身体と装備の汚れを除去する。この魔法があるだけで結構冒険者生活は変わる。
「ねぇ?ドンさんはやっぱりカーシャさんの事が好きなのかな?」
メフィリアのそんな呟きに他の三人が食いついた。あとは姦しいだけである。
4半刻ほどしてルクス達も起き始めた。
「なんだか身体が軽いし疲労感を感じない」とか言っているが、そりゃ特製の体力水薬を使ってやったからな。
手早く支度を整えアデリンの先導で本日も赤肌鬼追跡行が始まる。




