第28話 エゴなんだろうか?
転移し再会を喜び合う竜人族を眺めつつ嫌な予感がしていた。
ここは竜人族達が身を潜めていたラグー河沿いの森の中だ。森に潜んでいたのも居たので当初20人ほどと思っていた竜人族は50人ほどいる。幼生が多く、戦えるものは15人ほどだ。
「メフィリア。準備……というか覚悟は出来てるか?」
「やっぱり聖戦士の追撃部隊が向かってきてるの?」
「まだ予想の範疇だがこういうときの俺の勘は残念だが外れない」
「人に魔法を向けるのは気が引けるなぁ」
「ん?俺には平気で魔法使うだろ」
「だって、ヴァルザス死なないもの」
そういう問題なのか?そこは突っ込んでもいいのだろうか?俺だって死ぬときは死ぬぞ。
「気が引けるなら帰って寝ててもいいぞ」
メフィリアは少し考え込んでこう答えた。
「見過ごす事は出来ないから最後まで付き合うわ」
「そうか」
思わず頭を撫でてしまう。それにたいして瞳を閉じ嬉しそうにされるに任せる。
「色々ト助カッタ。コノ恩ハ何レ返ス」
クードが俺たちのところに一体の竜人族を伴ってやってくる。
「我ラガ族長ダ」
クードを救ってここまで連れてきた事に対する礼をしたいとの事だが、そんな時間はないようだ。
「礼はいい。それより聖戦士の追撃部隊が近くまで来ている」
族長が急ぎ若い戦士たちに迎撃の用意を指示してるのを横目にメフィリアに疑問を口にする。
「あいつらどうやってここを見つけたと思う?」
きょろきょろと周囲を見回す。
「確認するけど、竜人族って真語魔法は使えない……よね?」
「人型の制約を受けるから声帯と指先の不器用さで竜人族には奇跡が起きても真語魔法は使えないがそれがどうした?」
「そうよね……それなら……」
群れの外れで挙動不審な細身の竜人族を指差し、
「あの竜人族だけど何らかの呪が掛かっている。たぶん魔刻印じゃないかな?」
「聖戦士の他に魔術師が同伴してるわけか」
「たぶんだけどね」
その挙動不審な細身の竜人族が射殺された。
「邪悪なる竜人族を皆殺しにせよ!神もご照覧であるぞ!」
指揮官らしき男の声に応と応じて聖戦士達が抜剣して襲い掛かってくる。それに対してクードと若い竜人族の戦士たちが応戦する。
「我は綴る。付与。第6階梯。衰の位。鈍化、弱体、鈍刃、強化、拡大、発動。高位威力減衰」
メフィリアの魔法が聖戦士達の武器に及ぼす。
聖戦士達は急に威力の落ちた武器に戸惑いを感じている。その隙に若い竜人族の戦士たちが攻勢を掛ける。
「我は綴る。付与。第7階梯。守の位。守備、防御、硬質、緩衝、強化、発動。高位防御膜」
クードと若い竜人族の戦士たちを防御膜が覆う。竜鱗と竜肌によって強固な防御力が更に強化される。
こうしてあらためて目にするとメフィリアが積極的に攻撃魔法を使う意志があれば楽出来るんだが……。そうは言ってもメフィリアには殺しはさせたくないなと思うのは俺のエゴだろうな。
そんな俺の意志が伝わってしまったのか
「大丈夫よ。使うときは躊躇はしないから」
「そうか」
何時ぞやの時みたいに無理されても困るしアレを渡しておくか。
時空収納から一振りの若芽の枝を取り出し、メフィリアに差し出す。
「これは?」
「世界樹の棒杖だ。たまたま以前居た系列世界で世界樹の若芽の枝が手に入ったので作ってみた。会心の出来と言ってもいい」
「私の為に?」
「そうだ。この間のような無理を少しでもさせない為だ」
使い手の魔法強度を飛躍的に上昇させる効果と、魔法を使う際の精神的負荷を軽減する効果がある。会心の出来で間違いなく伝説級品に相当するはずだ。
「ありがとう……」
何か言いかけたが結局口にはしなかった。どうせ心配しすぎですとか思ったんだろう。そう思って何が悪い!
メフィリアは棒杖を一振りして詠唱に入る。
「我は綴る。創成。第4階梯。幻の位。囁き、誘眠、空気、深淵、熟睡、変質、強化、拡大、発動。深き眠りの雲」
聖戦士達がバタバタと倒れていく。かなり強く叩き起こさない限りは直ぐには起き上がることはあるまい。そしてそんな真似はさせないがな。時空収納から三日月斧を取り出し駆け出す。
倒れた聖戦士を起そうとしている奴に三日月斧を一振りし聖戦士の首を刎ねる。
こいつらは神語魔法の使い手でもあるから中途半端な攻撃は回復されてしまうので躊躇せずに殺る!
倒れている聖戦士は深き眠りの雲の効果で簡単には目が覚めないので奴等は放置する。メフィリアの支援魔法があるとはいえ数の暴力は侮れない。聖戦士の数は想定だがまだ100人以上は残っている。
周囲を見回し竜人族達の状況を確認するがメフィリアの支援魔法の恩恵で脱落者は出ていない。
近くで倒れていた聖戦士に太矢が突き刺さる。飛来してきた方を見ると40メートルほど先に重弩を構える一団が居る。
「風の精霊よ。風の守りを」
精霊魔法の風の守りを張る。第2射の太矢が風の防壁で逸れていく。先ほど太矢が突き刺さった聖戦士が痙攣し始めたと思ったらバタリと動きが止まる。
「暗殺者がよく使う致死毒か!」
こいつら見境ないな。
「先にあっちを潰すか」
重弩を構える一団へ向けて走り出す。重弩はかなり威力があるが連射が利かないのが難点だ。40メートル程度なら次の射撃の前にこちらの攻撃が届く。
俺の最初の横薙ぎの一振りが再装填を終え膝立ちで射撃体勢に入ろうとしていた聖戦士3人の頭上半分が飛ぶ。無謀にも射撃したやつが居たようで致死毒の塗られた太矢が風の防壁で逸れて別の聖戦士の突き刺さる。
「撃つな!味方に当たる!」
馬鹿め対応が遅い。重弩を投げ捨てて抜剣し始める。聖戦士を1人また1人と切り捨てていく。こいつら剣にも致死毒を塗布してるのか。いちいち切り捨ててるのが面倒になってきた。
指揮官から潰すか。大振りで近くの聖戦士を斬り捨て距離を開ける。
「我は綴る。八大。第10階梯。攻の位。冷気、氷礫、吹雪、嵐風、猛雪、発動。氷嵐」
俺の唱えた真語魔法の氷嵐が発動し、聖戦士の指揮官を中心に吹雪と氷礫が吹き荒れる。冷気と氷礫に打ちつけられて倒れていくが、魔力の練りが甘かったのか予想以上に奴等がタフだったのか倒しきれなかった。
そのとき後ろから、
「我は綴る。八大。第4階梯。攻の位。閃光、電撃、紫電、稲妻、拡大、発動。電撃」
メフィリアの唱えた電撃の3本の紫電が走り倒しきれなかった聖戦士達を打ち倒した。
振り返るとメフィリアと目が合う。
「大丈夫。気にしないで」
攻撃魔法を使わせてしまった。メフィリアも魔法強度なら死亡は確実だろう。無駄な殺生はさせたくなかったんだが……。攻撃魔法にはこういうダメージのムラがあるから必殺を期するなら確実性を上げなかればならなかったのに慢心していた。
敵に情けは不要。
「我は綴る。付与。第15階梯。奥義。攻の位、空気、致死、変質、呪詛、死雲、拡大、発動。致死の雲」
魔法の完成と共に苦悶の声と共にバタバタと倒れて動かなくなる。効果範囲の拡大と確実性を上げた事もあり抵抗も虚しく神の御許へと旅立っていった。残りは竜人族の戦士たちと刃を交えている5人の聖戦士のみだが、瞬時に多くの仲間を失い僅かに動揺した隙をつかれ神の御許へと旅立っていった。
後は残敵処理だけだ。メフィリアの深き眠りの雲で高いびきの聖戦士達に止めを刺した周る簡単なお仕事だ。捕虜として一人だけ華美な装飾の装備を身に着けていた聖戦士を縄で縛り上げ転がす。
「さて、情報収集の時間だ」
周囲を確認する。よし!メフィリアは手当てでこっちを見ていない。
「我は綴る。精神。第9階梯。心の位。精神、記憶、捜査、検索、表層、深層、深淵、発動。精神捜査」
魔法の完成と共に光り輝く右手を憐れな聖戦士の頭部に水鉢型兜越しだが問題ない。表層の記憶は大して価値のあるモノではない。彼の性癖が分かった程度だ。彼が無辜の農民を魔族に与する邪悪な人族と言いがかりをつけて村を焼き払ったり、女子供を強姦したりといった記憶だ。彼自身はそれが紙の御心に適うと信じているから質が悪い。深層の方へ魔力の探査を伸ばしていくと苦悶の声を上げるが俺に何も聞こえない。聞こえない。
ここより5キロほど上流に、残り150名ほどの部隊が休息中である事が判った。戦利品でお祭り騒ぎのようだ。
「我は綴る。基本。第6階梯。感の位。星海、衛星、共感、視野、俯瞰、発動。衛星視力」
小声でこっそりと魔法を唱える。星海に浮かぶ衛星魔像の視野を借りて目的の場所を俯瞰する。結構遅い時間にも拘わらずどんちゃん騒ぎのようだ。
「神の名を騙ればすべてが許されると思い込むゴミ共め」
「我は綴る。召喚。第16階梯。秘奥。攻の位。召喚、衝撃、爆砕、破砕、破壊、隕石、流星、招来、隕石孔、強化、発動。魔流星」
その夜、一筋の流星が地に落ちた。
何とか間に合った。
次回29話は5月8日の予定です。
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