第22話 底辺冒険者の仕事と言えば
長くなりそうで2話に分割します。23話は明日の夕方辺りにでも投稿します。
翌朝何事もなかったように起きて、食堂で朝食を食べつつ日刊の情報紙に目を通す。
[レナード伯爵、銅塊を金塊と偽り換金して逮捕]
そんな記事が一面だった。記事を読み進めていくと幼人族の奴隷を所有していたりと複数の重大な犯罪を犯しており、財産没収のうえに爵位剥奪は確実ではと言われているそうだ。
あの幼人族の奴隷もなんとかしてやるべきだったろうか?
まだあの赤毛の少女の事は記事になってないのか…..。普通の炎霊族だったってことか?情報紙を流し読みしているとうちのお嬢さん方が食堂に降りてきた。挨拶もそこそこ本日の予定を伝える。
「本日から冒険者としての仕事を始める。最も第1階梯の仕事とか禄なのがないけどそこは我慢だ」
「ボクらの装備とかは?」
アリアの質問は最もだが、第1階梯の仕事なら適当な装備で問題ない。マネイナ会頭の指名依頼と合わせれば普通よりは楽に当初の目標の第3階梯に到達するだろうし、その後は相談だな。
「この街を出るような仕事はないし適当に既製品でいいだろう」
どうせゴミ掃除とか下水掃除が大半だ。
朝食も終わり、そのまま冒険者ギルドの西区出張所へと徒歩で向かう。乗り合い魔導客車もあるが節約である。軍資金には困っていないがこのお嬢さん方結構お金の使い方が荒い。良い物を身につけたい、良い物を使いたいと言う気持ちは理解しているが、それ他人の財布で言われてもな。という柄にもないお説教を道中しつつ四半刻ほどで出張所に到着した。
冒険者ギルドの出張所は受付カウンターと依頼掲示板の他に待ち合わせや時間潰し用に軽食を取れる円卓が7卓ほどある。ちなみに酒は出ない。トラブルの元になることも多いからだ。
受付でアリアとエルナを冒険者として登録させる。その後パーティ登録を申請しておく。ちなみにパーティ名を決めるものはほとんどいない。有名になると勝手にふたつ名がつく。うちの場合はリーダーの俺の名を取ってヴァルザスのパーティと呼ばれる事になる。
受付も終わったので早速依頼掲示板を見に行く。
[下水エリアに生息する鼠駆除]
大鼠、巨大鼠、超巨大鼠、変異性超巨大鼠が対象。駆除依頼扱いだが、ギルドの職員が同行するのが条件だ。彼らは不正がないかの確認と討伐の確認が仕事で戦闘はしない。それどころか怪我させると罰則である。駆除+護衛依頼扱い貢献度は高め。
似たような依頼だと
[下水エリアに生息する黒蟲駆除]
大黒蟲、巨大黒蟲、超巨大黒蟲、変異性超巨大黒蟲が対象。
所謂台所とかに出る黒くてカサカサと素早く動くアレだ。
[下水エリアの徘徊する粘性生物の駆除]
魔術師ギルドの研究員がポイ捨てする失敗作などの粘性生物や雲状生物が対象になる。こいつら証拠が残らないからギルドの監視員同伴でないと依頼達成できないのである。そのうえ武器なども破損する。
この三つは常時依頼だが、同伴してくれるギルドの職員に限りがあるので一日で受けられるのは10件だけとなっている。
あとは厄介なのがあった。
[下水エリアに生息する誰かが捨てた愛玩用鰐の駆除]
依頼失敗が続き気が付けば体長20メートルにもなる変異性超巨大鰐化しているとの事だ。普通の第1階梯じゃ鰐の餌にしかならんな…..。
そして妙な依頼を見つけた。
[魔術師ギルドから逃亡した食用豚鬼の確保]
「は?」
思わず声が漏れた。
まさかとは思うが豚顔だから味も豚肉だろうとか言う安易な発想じゃないよな?それとも食人習慣でもあるのか?確かに豚鬼は多産だ。年三回出産できるし、一度に5つ子とか普通に生まれるし成長も早い。ある意味豚そのものなんだが、それなら豚で良いんじゃないかと突っ込みたい。
後は肉体労働やら隊商の警護やら工事現場の誘導員やらが多い。貢献度の高めの街道警備もあるが儲けは少ない。
受付カウンターで依頼の申請をする。受付のおばさんが、
「本当にこの依頼でいいのかい?」
と俺の後ろのお嬢さん方を見て可哀想にと呟く。装備を買い揃える時間もあるので1刻後にここでギルド職員と待ち合わせとなる。
ギルドを出て側の武具を販売している店舗に入る。さて、装備構成はどうしたものか?使い捨て感覚で皮鎧や安い皮手袋と革の靴に皮の帽子を4人分購入する。お嬢さん方には汚れても困らない装備と説明する。アリアにだけは最安値の木製に皮を張っただけの壁楯。武器は短槍と棘付き棍棒を用意。効率優先の装備だ。
「…………」
装備を身につけはしゃいでいる3人を見てアリアは沈黙する。かつて自分も通った悪夢の仕事に……。
「師匠……。本当にやるの?」
恐る恐るアリアが聞いてくる。無言でうなずく。当然だろう。
ギルドに戻り職員と合流し、早速下水の入り口へと向かう。
下水道内に少女達の悲鳴が鳴り響く。ついでに怨嗟の声も聞こえるが気にしない。
俺とギルド職員は風の精霊に守られて下水道独特の臭いは気にならないが、彼女達はそうはいかない。アリアが先頭に立ち安物の壁楯で攻撃を受けるが、敵の数は多い。メフィリアや瑞穂が悲鳴をあげつつ棘付き棍棒を振り下ろす度に体液が飛び散り身体を汚すが彼女達は気にしている余裕すらない。
いま我々は変異性超巨大黒蟲や超巨大黒蟲が混ざる巨大黒蟲の集団に襲われている。体長4メートルにもなる変異性超巨大黒蟲に生理的嫌悪感と恐怖心で動きも鈍い。幅の細い下水道の連絡路でアリアが壁楯で巧みに防いでいるから良いものの普通のパ-ティなら黒蟲の群れに呑まれて一巻の終わりだろう。巨大黒蟲でさえ体長1メートルもあり非力で戦闘訓練もたいして行っていない彼女達の一撃ではなかなか死なない。
数少ない幸運は後ろを気にしなくて良いことと、狭い通路で一気に攻め込めないことだろうか。後ろから襲われない理由だが、単に俺の出した真語魔法の炎の壁に阻まれているだけである。最も退路を絶たれている状態でもある。
遭遇戦からの連続し戦闘も既に八半刻を過ぎ数の多さにアリアも支えきれなくなってきている。冒険者の一回の戦闘はせいぜい長くても5分だ。これだけの大集団に襲われるケースはほぼない。
「師匠!もう無理だよ!」
確かにそろそろ押し潰されそうではあるな。
「その無理の先に新しい世界が待っている。頑張れ」
そう激励してやると
「死んだら呪ってやるんだからぁぁぁぁぁ!!」
押し返し始めた。やればできるじゃないか。
「21匹……巨大黒蟲が22匹、巨大黒蟲が23匹……」
エルナは最初こそわざとらしく悲鳴を上げていたが既に感情をどこかに落としたかのように淡々と短槍で一匹づつ確実に突き殺す。刺突が実に様になっている。これまでどんな武器を使っていたか聞かなかったが、非力な彼女にはこの手の刺突武器か鈍器が一番である。こっちは効率化を図っているのかまだ体力的には問題なさそうだ。
「ごめん。そっち行った!」
アリアの警告は若干遅れた。天井を這ってアリアを避け超巨大黒蟲が瑞穂に覆いかぶさり押し倒す。非力で小柄な瑞穂に体長2メートルはある超巨大黒蟲を押し返すことは無理だ。
そのとき俺の闘気を乗せた石礫、気功闘術初伝の[指弾]が超巨大黒蟲の頭部に命中し爆散する。
体液を浴びた瑞穂と目が合う……もう泣きそうだな。心を鬼にして首を振り顎をしゃくる。そろそろ数も減ってきたし後5分ほどで終わるか?
予想通り5分以内に片付いた。終わった途端に4人とも通路に崩れるように座り込んだ。体液やら粘液やらが撒き散らされてるが気にする気力もないようだ。
ギルド職員で今回の討伐認定を担当してくれるサーマス氏が
「しかしヴァルザスさんはうちの鬼教官並に鬼ですな……」
早期に過酷なことを経験する者は生存率が上がると言うのがその鬼教官の考えらしく、実際に鬼教官の指導を受けた若手冒険者は驚くほど死亡率が低いらしい。
「楽をすると限界点が低くなるしな。物語の主人公ならそこから這い上がるとかあるだろうが、誰も彼もがそうはならない以上は早いうちに篩いに掛けておきたいだけさ」
この悪夢の経験者でもあるアリアが3人の精神的フォローに廻っている。年長者だしな。ただし森霊族は例外だ。
「そうだ。サーマルさん。現在の討伐数と報酬額を教えてくれるか?」
サーマル氏がメモを見ながら
「巨大黒蟲が45匹、超巨大黒蟲が9匹、変異性超巨大黒蟲が1匹ですね。成果としては大成果と言っていいですね」
アリア以外の3人に笑みが浮かぶ。
「合計で365ガルドです」
現実は残酷であった。鬼教官モード中の俺は、
「これだけ苦労してなんと!君らが昨日買ったワンピース一着分にも満たない……これが現実だ」
現実を伝えてやる。4人で割ると底辺冒険者が宿泊費と食費込みで6日ほど生活できる報酬である。無論治療費や風呂代は入っていない。
気落ちしてるところを真語魔法の洗濯で綺麗にしてやる。誰とは言わないが若干名黒蟲共の体液以外で下着を汚したのが居るが黙ってやるのが優しさだろう。
地上に上がらずあと6日これを繰り返す。ここで脱落しても面倒は見てやる……お留守番要員だが。
冒険者の初仕事といえばゴブリンがデフォなんですが、巨大都市でゴブリンは流石にな~と思いこうなりました。




