第13話 結局お前は誰なんだ?
「何か話し込んでいるのかな?まだ場所を移動していないし、いまなら転移門で直ぐだけど?」
メフィリアの問いに準備ができ次第開いてもらうように指示する。
「メフィリアは瑞穂の護衛。|相棒≪フェリウス≫とバルドは薫の身体を乗っ取った奴を牽制。俺は薫の無力化だな。基本は捕縛だが手に負えないようなら殺ってかまわない」
一同頷く。バルドの装備が一番時間がかかる。ミスリル製重甲冑を身に着け鉾槍を持ち準備が終わる。
「準備はいいかな?いくよ~」
「我は綴る。時空。第12階梯。転の位。設置、開門、瞬間、移動、空間、超越、転移、発動。転移門」
メフィリアの詠唱が完成するとともに半径3メートルほどの銀色の円が出現する。飛び込めば目的地だ。だがもう一つ詠唱が始まる。
「我は綴る。八大。第2階梯。動の位。重力、落下、加減、発動。落下制御」
「いってらっしゃ~い」
目の前だと魔力の収束と転移門の銀色の円の出現でバレるから上空から降下しろってことか。
バルドが真っ先に飛び込む。続いて相棒そして俺が飛び込む。
ここ何処だよと叫びそうになった。かなりの高高度のようで空気が薄い。
ある程度近づくまで落下制御の効果を利用し自由落下以上の速度降下しタイミングを見て減速させ着地しよう。
真っ先に飛び込んだバルドの鉾槍の振り降ろしが薫を引き裂いた…………ように見えたが平然としている。
「バルド!屈折の魔法だ!」
光の屈折によって対象の位置をズラして見せる魔法である。此方の気配を察した感じはなかったから、事前に不意打ちを警戒して屈折の外套を身に着けていたんだろう。
中の人が薫の豚鬼王種が杖を掲げ魔法の詠唱に入る。しかし詠唱が拙い。魔力の練りも甘い。着地に合わせて愛剣を振り下ろす。
抵抗もなく豚鬼王種の右肘から先が落ちる。詠唱が止み自分の腕を確認して……豚鬼王種は絶叫し転げまわる。やはりと言うか痛みに対しての耐性はなかったか。彼らの生活様式から撃たれるとか斬られるという話はあまりないからな。
蹲って震え始めた豚鬼王種を警戒しつつ、宝玉の嵌った魔術師の長杖を拾い、薫の身体を乗っ取っている方を確認する。
心配するまでもなく終わっていた。バルドの大振りの横薙ぎを避けてバランスを崩したところを相棒の長剣による神速の踏み込みからの刺突が咽喉を貫いていた。
「いやはや、何者か知りませんがこの私に攻撃を当てられる者がいるとか驚きました」
しかし刺突の影響が全くないかのように喋りだす。よく見れば出血すらしていない。その答えは相棒の口からでた。
「真語魔法の第12階梯にある耐性ですか….差し詰め武器による負傷への耐性を得ましたね…ですが殴り合いならどうですかね?」
相棒が長剣を鞘に納める。そのタイミングで薫を乗っ取った奴はバックステップで距離を開けつつ右手で何かを撒く。
「それ以外の打撃には弱体化したはずです!」
相棒が殴り掛かる。屈折の効果で相棒の手撃を避けながら詠唱を始める。
「我は綴る。付与。第14階梯。触媒、変質、磁性、付与、拘束、発動。磁力結界」
「まずい!」
魔法の内容に気が付いた俺と相棒は即座に散開したがバルドは間に合わなかった。
そのバルドが地面に押し付けられるように倒れ伏す。あらゆる金属に強制的に磁性を帯びさせ地面に撒いた魔化された金属粉が強力な磁石となって範囲内を金属物を持った者を地面に引きずり倒し拘束する魔法だ。効果範囲がやや大きな磁力結界を挟んで睨み合う。
「私はこの世界の行く末を愁いて活動する者です。それを邪魔するあなた方は世界の敵ですか?」
世界の敵ときたもんだ……。
「我々はただの冒険者で襲われたからお返ししに来ただけですよ」
相棒の言う事は最もだ。
「なるほど…..では、私に仕えませんか?悪いようにしないどころか貴方たちにも力を授けましょう」
相棒が鼻で笑う。
「名前すら名乗らない者に仕えるとかお断りですね。それにそこの豚のように身に過ぎた玩具を貰ってはしゃぐ気にもなれませんし」
本来の姿であれば上級神すら屠る銀鱗の龍王に力を授けるとか無知は罪だな…。
豚呼ばわりは酷いなぁ。いいぞもっと言え。
「そうですか……。ではこうしましょう。調子に乗ったそこの豚は差し上げますから、以後お互い不干渉といきましょう。悪くありませんよね?」
『用意できたよ~』
丁度その時メフィリアから念話が届く。
『合図をしたら頼む』
『了解』
そう言えばメフィリアどこにいるんだ?やっぱ上か?
『いま上見たら怒るからね』
どうやら上空らしい。
ま、それは置いておいてこっちも片づけよう。ズボンのポケットに左手を突っ込む。目的のモノを取り出し気功を注ぐ。高まる闘気に相棒が気付くが表情も態度も変えない。
「うちにはトラブルに首を突っ込みたがるお嬢さんとトラブルが勝手に寄ってくる困った人が居るので不干渉とか無理ですね」
相棒の回答に正体不明の人物は何かを撒いた。牙のようなもの….というか小型の竜の牙だ。あれを使う気か。
「そうですか…..ざんね…ぐはっ」
身体をクの字に曲げ腹部を抱えて苦痛に藻掻く。十分な闘気を纏った礫を親指で弾く。
俺が放った気功闘術の指弾と呼ばれる闘気によって礫や小物を打ち出す技によって放たれた親指の爪程の石礫が腹部に突き刺さった結果だった。本来であれば屈折の効果で外れた可能性もあったが、俺の場合は、自分の目、契約によって共有可能なメフィリアの目、同じくメフィリアが使用している衛星魔像達の目、これらの視野を利用して屈折のズレを補正しながら狙いを定めた結果だ。
外れたらお説教もんだったよ。
上空で金の鈴を鳴らしたような可憐な声音で真語の詠唱が響く。
「我は綴る。基本。第2階梯。破の位。魔力、消去、拡大、発動。魔法解除」
それによって磁力結界が効力を失う。倒れ伏していたバルドが重甲冑を身に着けているとは思えない勢いで立ち上がり走り出した。這いずって逃げようとしていた正体不明の人物は略式で竜牙兵を呼び出す。先ほど撒いたモノが形状が変わっていき完全武装の骸骨戦士となる。数は全部で7体。
「さっき撒いた奴か!邪魔じゃ」
鉾槍を一振りすると一流の戦士と互角と言われる竜牙兵が粉砕される。
「我は綴る。八大。第4階梯。攻の位。閃光、電撃、紫電、稲妻、発動。電撃」
相棒の魔法が正体不明の人物を貫く。止めを刺す為に走り出す。
「フェリウス!殺すな!」
俺の意を汲んで走るの止め、歩きつつ別の魔法を唱えだす。周囲の万能素子が集まり魔力が高まる。
「我は綴る。基本。第4階梯。呪の位。印刻、魔力、知覚、特定、拡大、発動。魔刻印」
魔法が完成し、正体不明の人物に触れる。これで奴の位置を常に特定できるようになる。逃げても問題ないな。
正体不明の人物の顔に絶望が浮かぶ。
俺はと言えば、豚…もとい薫の成れの果ての右腕を接合させる為に暴れないように拘束する。
タイミングを見計らってメフィリアが降りてくる。
金の鈴を鳴らしたような可憐な声音で真語の詠唱が始まり周囲の万能素子が集まり魔力が異常に高まり凝縮していく。
「我は綴る。精神。第8階梯。呪の位。拘束、約束、禁止、封印、呪詛、精神、呪縛、必罰、拡大、極大、発動。禁止命令」
メフィリアの細い指が豚…薫の額に触れる。
「今から貴方は、真語を発音することを禁じます」
豚…薫から魔力を感じ、コツンと何かがぶつかる音がした。
メフィリアの前に防御圏の障壁が現れている。それに何かがぶつかったようだ。
「魔力撃か…..確かに詠唱はいらんが無駄な足掻きだ。大人しく現実を受け入れろ。抵抗しても無駄だ」
拾ってきた右腕をくっつける。最も切り落とした腕が勝手に接合するわけはない。
「頼む」
「うん。任せて」
「我は綴る。拡大。第12階梯。癒の位。機能、復帰、撒戻、発動。再生」
接合部に触れると右腕はくっつく。
「これから徐々に骨や神経などがくっつき機能を取り戻します。時間はかかりますが暫く大人しくしてください」
「ボクヲドウスルキダ」
メフィリアが何かを訴えるような目で俺を見る。俺の答えは…..。
「どうもしない。このまま豚鬼王種として生きろ。それが嫌なら勝手に朽ちるがいい……行こう」
メフィリアの手を取り歩き出す。後ろでは薫の成れ果てが号泣しだしたが無視して相棒とバルドと合流する。
すっかり忘れてた。
「あれ?瑞穂は何処に置いてきた?」
メフィリアが上を指す。上を見れば確かにこっちに向かって手を振っている。結構高いところに放られたわりには元気だ。
打ち込んでた魔法用の資料が全部吹っ飛んで悲しみに暮れている。
私以外に需要は無いだろうから問題は無いのだが。




