第3話 異邦人を助けてみた。
5/2 魔法の矢の呪句にミスを発見修正しました。
日の出前に目が覚め早速ある魔法の準備を始める。相棒は朝食の準備中でバルドはまだ寝ている。最も朝食の準備と言っても出来たてで買ってきた料理を時空収納に放り込んであったのでそれを出しただけである。大変残念な事に我ら三名とも誰も料理が出来なかったのである。いや、言い訳させてもらえるなら作れるには作れるんだ。残飯よりはマシって程度ではあるが。
1メートル四方の白い布を用意する。
「我は綴る。幻覚。第八階梯。幻の位。触媒、親機、子機、中継、蓄積、共有、地形、地図、幻覚、精査、拡大、縮小、反映、増光、発動。幻影地図」
右手の人差し指が宙に真語を綴り、呪句を詠唱し、脳内では魔法処理の演算が行われ白い布の上に立体的な地図が現れる。中央に我々が搭乗する魔導騎士輸送機が表示され、周囲10キロメートルほどが表示範囲に入っている。ほぼリアルタイムの情報である。表示範囲を広げてみる。周囲20キロメートルほどが写し出される。平地が多いが所々に森があり東の端っこに街らしきものが写っている。最初の目標はここかなと思っていると、北北東の端あたりに村があるのだが何かおかしい。範囲を広げてしまっているのでよく見えないが細々としたものが動き回ってる。結構数は多い。
その村を中心に再表示させる。
「人族の街の近くの農村に赤肌鬼の集団だと…………」
夜行性で幼児並の知能に臆病だが残忍で邪悪な赤肌鬼はあまり人口の多い場所には移動してこない。それが日の出前の薄暗い農村を挟み込むように二手に分かれて攻め込んでいる。しかも少なく見積もっても150匹は超えている。間違いなく上位の支配種を頂点に数匹は上位種が混ざっている集団だ。そこそこ統制が取れている。
ゴブリンが襲っているのは寝込みの村人だけでなく、村の広場に固まっていた黒髪に茶色っぽい統一された服装の若い男女50名ほどのようだ。
最も統制は完全に取れてるわけではないので死体を玩具に遊び始めた赤肌鬼も居る。
黒髪の若い男女の集団は10名ほどが応戦している。特定までは出来ないが得物を持っているようだ。だが15名で戦闘に参加してない35名を守るのは流石に無理というものだ。次々と襲われ動かなくなる。
「どうします?」
いつの間にか側から覗き込んでいた相棒が聞いてきた。
「間に合うと思うか?」
相棒は首を振り
「農村の規模から見るに300名ほどでしょうか?戦闘できる者の数も50名前後でしょう。寝込みを襲われてますし急いで行ってもどれだけ生き残っているか…………」
口にはしてないが無駄な労力だから見捨てろと顔に書いてある。
「幻影地図の先ほどの表示状況からすると農村まで20キロメートル以上はあったでしょう。それなりに時間はかかります。農民を助けても感謝どころか、なんでもっと早くに来なかったと罵倒される未来しか見えません。それでも行きますか?」
相棒にバルドを起こすのと魔導騎士輸送機での移動を頼み、俺はといえば格納庫からあるものを引っ張り出す。
魔導速騎という一人用の乗り物だ。馬代わりに利用する事も多い。原理は魔導騎士輸送機と同じで空中に浮遊し高速で疾走する。速力は乗り手と騎体に準じるが、俺の乗騎だと半刻で200キロメートルは移動できる。
農民の生死には興味はない。興味があるのは村の広場に固まっていた黒髪に茶色っぽい統一された服装の若い男女50名のうちの何名かだけでも救出したい。直感だが異邦人だ。最初は貴族の子弟向けの幼年学校の最上位クラスの生徒かとも思ったが、貴族界では黒髪はいまだ忌避対象だ。直感の基本的なところはそんな理由なんだが。
魔導速騎を発進させる。
さて助け甲斐のある奴がいればいいんだがね。
農村が見えてきた。まだ赤肌鬼共の殺戮の饗宴は続いている。ほぼ無音で高速で接近する俺の存在はまだ気が付かれていない。先祖還りである上位個体が指揮を執っているのが見える。面倒なんでそのまま直進し跳ね飛ばした。これが俗にいう轢き逃げ攻撃である。
急制動をかけ車体を横向きに滑らせ3体ほどの赤肌鬼を跳ね飛ばしておく。まだ農村の外囲いのあたりなので一刻も早く広場まで行かないと。
赤肌鬼共は状況が理解できずに混乱している。まずは雑魚を引き離すか。魔導速騎に跨ったまま
「我は綴る。創成。第一階梯。攻の位。光矢、誘導、瞬閃、増矢、発動。魔法の矢」
左手で宙に真語を綴り呪句を詠唱する。完成すると同時に20本の光の矢が空中に出現しそれぞれの目標に向かっていき突き刺さる。赤肌鬼共が地に伏せた。
広場では異邦人と思しき少年達がまだ奮戦していた。そうは言っても戦闘要員は15名居たはずだが既に3名まで討ち減らされ、固まっていた非戦闘要員は5人ほどしか残っていない。取り合えず轢き逃げ攻撃で非戦闘要員を嬲ろうとしていた赤肌鬼共を蹴散らし魔導速騎から降りる。
やはり異邦人らしい何かを叫んでいるがまるっきり意味が理解できない。20メートルほど離れた所にかなり大柄な赤肌鬼がいる。側に体格のいい田舎者赤肌鬼がいるが、それより体格がいいのでほぼ間違いなく支配種だろう。
赤肌鬼は平均的な大人1人と大体同じ程度の戦闘力だが、やっかいなのが数を頼りに攻めてくるところだ、一流の戦士でも瞬時に倒せる数には限りがある。単体の戦闘力が低いからと馬鹿にして無残にも散って逝った冒険者がどれだけ居た事か。
支配種を潰せば後は烏合の衆だ。判り易い魔法で仕留めるか。
「我は綴る。八大。第六階梯。攻の位。投射、火炎、灼熱、爆裂、拡大、発動。火球」
左手で宙に真語を綴り呪句を詠唱する。完成すると宙に火球が出現し所定の地点まで高速で飛んでいき爆発する。回避行動を取っていたようだがそれも見越して効果範囲を拡大済みだ。
煙が晴れると黒焦げの死体が残る。死体の数は5つ。全部田舎者赤肌鬼だ。支配種はというと、回避行動が早く爆発で吹き飛ばされたようで元居た位置から更に10メートルほど後方に倒れていた。背面が炭化しているが辛うじて生きているようだ。
支配種の状態を見て赤肌鬼は浮き足だち、その後追加で簡易式で放った魔法の矢数発が赤肌鬼を仕留めると蜘蛛の子を散らすように逃亡を始めた。
日も昇り始め周囲を見回せば死屍累々といった感じではある。異邦人と思しき少年少女だが8名を除いてみんな死んでいた。襲われていた者達は上着は男女統一されたデザインで下は男子がズボン、女子はスカートだ。何かこちらに話しかけているがまるっきり理解出来ない。
意思疎通を図るために真語魔法の通訳を唱える。
「俺の名はヴァルザスだ。故あって君らを救助した。こちらの要求に応えて貰えるなら、当面の生活の面倒は見よう。誰か代表はいるか?」
1人の少年?もう青年だろうかが挙手し立ち上がる。
「僕がここの面子の代表だと思います。高谷といいます。この意思疎通は魔法か何かでしょうか?貴方の口の動きと自分の耳に入ってくる音に差異を感じます」
「正解だ」
意外に観察力があるな。この状況下でずいぶん冷静だと思う。
「僕らはどんな要求を飲めば助けてもらえるのですか?」
「難しい事じゃない」
そういって時空収納効果のあるベルトポーチから同じ意匠の額冠を3つ取り出す。
「この額冠は魔法の工芸品なんだが、効果は着用者の知識を複写する効果がある。俺は異世界の知識を欲している。副作用はまったくない。問題点を挙げるなら記憶とか性癖も情報として記憶されるくらいか?」
ざわつき始める。
「3つ出した言う事は、三人で良いんですか?タイプの違う三名のほうがいいですよね?」
高谷の問いに頷く。
「協力したら僕らはどのような恩恵がありますか?まず意思の疎通が出来ません。当面の生活はどうなるのか?」
「俺の考えとしては、此処から南に徒歩で1日ほどの距離にそこそこの規模の街がある。そこの冒険者ギルド基本的な教育をお願いしようと思っている。費用は俺が持つので気にしなくていい。その後は冒険者として生活するもよし、違う道を探すもよし、帰還を模索するもよし自由だ。半年分ほどは衣食住に困る事はないようにする。ただ俺らも目的があって移動しているので面倒は見れない」
高谷が残った7名に説明している。
結論はお互いの条件を受け入れる事で決まった。街までは魔導騎士輸送機で移動する。
通訳の魔法は効果時間もあるし、今後の生活もあるので通訳の首飾りという魔法の工芸品を高谷に預けておいた。




