第2話 どうやら帰れないらしい。
書き溜め分を一日一話ずつ予約投稿しました。更新時間は12時です。
気がつけば見知らぬ草原に転がっていた。
気を失ったのはどれほどなのだろう?
起き上がり周囲を見回す。
魔王も親衛隊も見当たらないし自分の所属していた勇者パーティの仲間も相棒とバルド以外は見当たらない。
長い銀髪に剣士として均整の取れたスラリとした肉体、中性的な整った顔立ちの相棒がこっちに歩きながら
「魔王を中心に強制召喚陣が見えました。どうやら巻き込まれてしまったようですね」
北東の方を指さす。距離感が狂うような天まで届く巨塔がそびえていた。
「私の方が先に目が覚めましたので、先ほど物品探知を使ってみました。アリアの勇者装備と魔王の魔剣デスブリンガーです。生死は判りませんが凡その位置は特定できたとも言えます」
むくりとバルドが起き上がった。いつも思うが真銀製の重甲冑を着ているわりには身軽な動きだ。
「それで、我らがリーダー殿はどうするんじゃ?わしはさまざまな世界のうまい酒とうまい料理が食えるならどこまでもついていくぞ。だが、アリアはお主に懐いてるし回収してからでも遅くはあるまい」
辺りを見回しても延々と平原で危険な生物も見当たらなかったので武装を時空収納に収納していく。俺の保有する神話級武具は勝手に異空間にて待機状態となる。旅装に変えベルトに長さ20センチほどの金属の棒を吊り下げる。これは魔法の物品で光剣と言う体内の内包する万能素子を注ぐことで光り輝く刀身を生成する。俺は一本、双剣使いの相棒は2本下げている。バルドはと言えば、重甲冑を脱いで真銀製の鎖帷子に着替える。武器は両刃で片手でも両手でも使える戦斧だ。
もう一つ武器を取り出す。三日月斧と呼ばれる竿状武器に分類される武器である。便利なことに突く、刺す、斬る、払うと出来る事もあり重宝している。石突側にストラップが付いてて地味にありがたい。
俺と相棒は平時は鎧は着用しないが念のために平服には真剛鉱を繊維状にしたものを編みこんである。耐刃に優れ並の剣では刃が通らない。刺突武器と鈍器?気合で避けるさ。
相棒は時空収納から細長い金属製の筒のようなものを幾つも取り出す。
「ここで心配してても仕方ないですし、監視用ゴーレムを星界に飛ばして周辺事情の確認と、知識付与の額冠を被ってこの世界の基礎知識を収集しましょう。1刻ほど頭痛に悩まされるから使いたくはないですが………….」
相棒が次々と命令を発し監視用ゴーレム子機を高度約500キロあたりに打ち上げる。
始祖世界を含む派生世界はごく一部を除いて球形状の世界で上空に行くほど空気が希薄になりある高度から星界と呼ばれる世界となる。そこを監視用ゴーレム子機は延々と周回し続けつつ地上を精査し親機に情報を送る。物好きが実際に行ってみたらしいが星界は重力も空気も存在しないらしい。万能素子は濃密らしいのでゴーレムの稼働には問題ない。
相棒が打ち上げ作業に没頭している合間に俺はというと真語魔法の物品探知を使ってある神話級物品を探っていた。
そして目当てのモノを見つけた。
「おや?お目当てのモノでも見つかりましたか?ならこれで系列世界を渡る旅路も終わりでしょうかね?」
事情を知る相棒は更に続ける。
「貴方が前世の記憶を取り戻してから10年。6つの系列世界を渡り歩いたことになりますが前世で再会を約束した女と無事再会出来たらどうします?」
「迷ってはいるが、たぶん解散はないな。系列世界観光でもいいんじゃないかと思っている。ただ……」
「何か気になる事でも?」
選択転生という秘奥義級魔術は儀式魔法であったから、俺だけが転生に成功したとかはない。実際に彼女を示す神話級の三宝具の反応はあった。術式に何らかの不具合があったか、生き残るために利用されただけなのかとか良くない思考に陥っている事を話した。
「で、貴方がそれでどうします?」
「逢いに行くさ。全てはそれからだな」
相棒に話して考えもまとまった。悪いほうにばかり考えてるが、先方にも事情があるかもしれない。
打ち上げた監視用ゴーレム(子機)が周回を始めて地形などの情報の精査を開始し親機に送られるまで時間が必要なので、とりあえずは巨大な建造物がある方に向けて歩き始める。
「後は軍資金ですね。同じ始祖世界系列のどこかの世界だと思うんですが、言語や文化や風習は結構似通ったりそっくりだったりするのに不思議と貨幣だけは共通してないんですよね」
相棒が真語魔法の呪句を唱えつつ左手で呪印をきり、右手は呪句を空中に綴る。
魔法が完成し正面に高さ10メートル、幅4メートルほどの鏡のようなものが現れる。
「一旦前の世界に戻って冒険者ギルドに預けていた資金を回収して、交易用の宝石に替えてしまいましょう」
鏡のようなそれを潜る。
「次元門の効果が発揮しません。魔法自体は成功してるのにどういう……」
「時空収納などの術者に紐づけされたモノは問題ないから時空魔術そのものが原因ではなさそうだな」
「そうですね」
相棒が少し考え込み
「あ、可能性としては、あの強制召喚に獲物を逃がさないための呪いが付与してたのか、考えにくいですが世界を管理している中級神自体がこの誘拐紛いの強制召喚に一枚噛んでいて世界を覆う結界が張られているから出られない?」
ポンと手を打ち
「私が本来の姿に戻って処理してしまいましょうか?」
「それは最後の手段だ」
相棒の暴挙を止めておく。本来の姿に戻れば上級神すら屠る真龍の王が暴れたらこの程度の世界はあっさり崩壊してしまう。
相棒が何かを思いついたらしい
「ヴァルザス。そういえばこの世界は万能素子がかなり希薄のようですが、始祖世界崩壊後のルールに基づくと万能素子が薄いほど低位の世界って事になりますし、低位の世界ほど混沌界にして虚無界な元始祖世界に飲み込まれやすくなります。過去に多くの世界が飲まれ多くの神や生物が逝きました」
「これは脱出手段を講じなければ最悪また脱出不能のあの世界に堕ちるって事か……」
時空収納の魔法が付与されているベルトポーチを手を突っ込んであるモノを確認する。
「万能素子が薄いと儀式魔法や大規模魔法は使いにくくなるな。万能素子を内包した魔水晶はかなり貯め込んであるから当面は大丈夫だが……」
相棒もベルトポーチに手を突っ込んで確認している。
再び巨大建造物のある東に向かって歩き出す。
「今が6の刻を半刻ほど過ぎたあたりですし、日が沈む前にはどこか村ないし街に遭遇したいですね」
「そうだな」
バルドが欠伸をし
「魔王城突入から一日以上経過してるし、わしは腹も減ったが早く休みたい」
三人して笑い確かにそうだなと思い予定を変更する。時空倉庫から巨大な箱型の物体を引っ張り出す。長さ45メートル、幅12メートル、高さ6メートルあるその物体は魔導騎士輸送機と呼ばれる地面から1メートルほど浮遊して移動する車輌である。この車体は前半分が操縦席と居住区であり、後ろ半分が格納庫である。
魔導騎士とは頭頂長8メートル前後の鋼の鎧を纏った人造の騎士である。ほぼ人と同じ構成の鉄の骨格があり、筋肉や神経、眼球、脳も存在する。内臓はないが代わりに操縦席がある。また筋肉を冷却するための冷却管はまるで人間の血管の様である。流石に毛細血管までは再現されていない。動力炉は操縦席の下。頭部の脳に機体制御の基本教育がされていて、魔導操手の意思を読み取り動く。
我々が所有する魔導騎士輸送機は軍用品を魔改造したもので格納庫に一個中隊の魔導騎士16騎を格納できる。最も今は3騎しか格納していないが。
居住区に入り三人して寛ぐ。明日から行動開始だな。衛星ゴーレムからの情報をまとめのに半日以上かかるし、今後の行動を纏めたりもある。軍資金と拠点の確保、はぐれたアリアの回収、この世界の詳細の調査、脱出手段の確保。そして前世で再会を約束した彼女を見つけること。それが終われば召喚主を探し出してボコるか。




