目に光を灯す 4
ハヤトから支給されたICカードで楽々と改札をくぐった。測ったかのようにホームに滑り込んできた特急の自由席に、僕らはなに食わぬ顔をして乗り込んだ。もちろん特急券は持ってない。
仕事を始めた当初は戸惑いを隠せなかったヒカリも、もはや慣れたものだ。
鹿児島まで飛ぶ、この辺りの主要空港まで、特急で約3時間。ヒカリの肩を枕に寝てもいいのだが、僕はヒカリとたわいもない話をするのが好きだった。
ヒカリは窓際が好きで、放っておけば、子供のように車窓を眺めている。時折、面白いものを見つけては、あ、とか、ええ、とか感嘆の声が漏れてしまう。時には僕に振り返って、あれ見てと言ってくる。
まぁ、たいていは、僕が窓を覗く時には遥か後ろで、わからないことがほとんどだが。
ヒカリは僕にとって大事な人だったが、お互い付き合おうとか、恋人になろう、とか言ったことはない。好きだとか、愛してるだって言ったことはない。そもそも、この気持ちが恋愛感情と呼べるものなのかどうかもわからなかったからだ。
ただ、お互いの心地よさと、現実的なメリットから、ハウスシェアをはじめた。そして、お互いの現実的な欲求から、割り切ったセックスを時折する。
ヒカリはおしゃれではなかったが、もとは美人だし、本人も気づかないようなところで、時折色っぽさを出すこともあった。その上、気心は知れていて、信頼もできる。心の内も、からだが求める性的な欲求も素直に話したところ、ヒカリも時折沸き起こる性欲をどうにかしたい、とのことだったので、もはや、抱かない理由はなかった。
もちろん、ヒカリにも僕にも余計な負担がかからないように、ヒカリはピルを、僕はコンドームを欠かさなかった。
今の関係に満足していた。恋人だと思ったことはなかったが、ヒカリが困ることがあったら、僕が助けたい、ぐらいには思っている。
この気持ちの名前はわからないが、ヒカリが大事で、愛おしく、ずっと笑っていてほしいことに嘘はない。
少しぼんやりしてたのだろうか。
気がつくとヒカリの頭が僕の肩に乗っていた。珍しいこともあるもんだ。
僕はヒカリの頭に自分の頭をあずけて、約3時間弱を仮眠に当てはめることに決めた。