目に光を灯す 3
ピンポーンとインターフォンが鳴る。
ヒカリが僕と目を合わせたあと、ぱっと席を立って応対に行った。
そんなヒカリを見送りながら、ハヤトは尋ねてきた。
「そこから種子島までどれぐらいかかる?」
ここからだと飛行機を三つ乗り継ぐか電車で大きな飛行場まで行く必要がある。
聞いて来たくせにハヤトは答えを知っているらしく、
「今から出れるか?電車のチケットも航空券もこちらで手配しよう。」
と畳み掛けるように言って来た。
「ちょっとまって、ブツはどうするんだよ。まさかホログラムをもっていくわけにはいかないだろ?」
どんどんと進んでいく速すぎる展開に、ちょっと待ってくれと僕が言った時、小包を抱えたヒカリが戻って来て言った。
「ものはここにあるわ。」
ハヤトは大きくうなずいた。
「いつものように、ICカードで電車に乗車しろ。車掌の検札はこっちで来ないようにしておく。」
いつもそうだ。どうやってるのか知らないが、電車でも飛行機でもハヤトの指示で動く限り行けばいつでも乗れてしまう。いつもながらのハヤトマジック。もう、これで行かない理由はなくなった。
そんな僕の思いを悟ったように、レイが僕とヒカリを交互に見て、
「気をつけていって来てね」
と言った。
かくて僕らは急いで準備をすることになる。
まずはPCの電源を切って、簡単に荷造りを済ませた。”仕事”は今晩中には終わるはずだ。ならば、着替えはなくても問題ないだろう。
でも、ヒカリはそうも行かないらしい。寝室に戻るとクローゼットから下着を1セット、リュックに詰めていた。ついで、さっき届いたばかりの小包を大事そうにリュックの中に納めている。
PCの電源を切って、会議室から”退去”してから約20分後、僕らは家の鍵を閉めて種子島へと出発した。
そこからは、ただひたすら向かうだけだ。とりあえず、車に乗り込んだヒカリがエンジンをふかせた。
本人に面と向かっていう気はないが、ヒカリは良い女だ。活動的で車の運転もお手の物。子供っぽいところもあって、特にオシャレに気を使うわけではないが、基本的に顔立ちは整っている。カジュアルなスタイルとくせっ毛にショートの髪型がよく似合っている。少々、優等生気質をもった心の優しい女性だが、また言う時にははっきりとものを言うところも僕は気に入っている。
窓を開けてドライブするのが好きなヒカリの耳のあたりで、カールした髪が風に揺れた。
視線に気がついて、ヒカリがこちらをちらりと気にかける。
「どうしたの?」
「いや…。ちょっと考え事をね。」
「今回の仕事のこと?」
「ん?…まぁ。…いつも思うんだけど、ハヤトって何者なんだろうね。先のことがわかるとか、実は僕らがいつもTV会議システムでつないでいる先は未来だったりしてね。」
あり得ない仮説にヒカリがクスッと笑う。
「まぁ、なんでそんなこと知ってるんだろう?っていっつも不思議だよね。電車だって、飛行機だってあっという間に手配するし、入れないような場所の自動ロックだって解除しちゃう。意外とハルの仮説どおりだったりして。」
楽しそうにヒカリが言った。
「なぁ、僕ら…ハヤトだけじゃなくてレイのことも沼田さんのこともよく知らないよな。」
そうなのだ。一緒に”仕事”をはじめて早1ヶ月。不思議な”仕事”には随分と慣れたが、実は僕らは彼らのことをほとんど知らない。ただ、僕は売れないクリエーター、ヒカリはOLとして働きつつも会社のパワハラで随分と弱っていた時に、救いの手のように仕事を持ちかけられた。給料が思っているよりも高額で…しかも前払いだった。そして僕とヒカリをコンビで雇いたいと言ったのだ。
変な仕事だったらその時考えれば良い。とにかくヒカリに仕事を辞めさせるいい口実になると思った。ヒカリの真面目な気質が彼女を苦しい職場に縛り付けていたのだ。ダメだったら、僕がなんとかすればいい。そう思って、この仕事を引き受けた。
物思いにふけってしまい、ヒカリが「ついたよ」と言われて気がついた。駅に着いたのだ。