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勇者、暁に立ち向かう!

ここは魔王城の謁見の間。魔王様のおわす王座は、この長い、どれくらい長いかというと入り口側にしかない台座の灯が奥には全く届いていないほど遠い、その一番奥にある。それでも魔王様の眼光だけはこちらに届く。別にその威光が鋭すぎて近づけないからではないが、私、ジョビーノ・ガネーメはぎりぎり灯の光が届く範囲に膝をついている。

「しかし、魔王様。このまま勇者を放っておいてもよろしいのですか?」

 響く。大して大きな声を出さないでも石造りのこの部屋で反響し、魔王様まで声は聞こえたようだ。

「大丈夫、大丈夫! 儂、魔王じゃし」

 魔王様は慢心しておられる。おかげで、「魔王を倒すほどの力を持つかもしれない伝説の勇者」の存在をちっとも気に停めてはおられない。

「それにしてもおぬしは心配性じゃのう……」

 魔王様はその危険性をちっとも理解している様子はなく、部屋にストローで飲み物を啜るのんきな音が響いた。

「でしたら、私が勇者を倒してしまっても?」

 第三者の声が木霊した。暗闇の空間から黒マントに身を包んだ、身長だけが嫌に高い男が現れた。

「おお! おぬしは四天王の一人、チャメ・ワヨイではないか!」

「はい、魔王様の覇道をあだなす者が、私の支配する領域に入ったという知らせを聞きましたので、まぁ、魔王様にかなうとは思いませんが、一応、もしものことを考えて、人間どもの希望の芽を摘んだ方がいいかと思いまして。魔王様さえよろしければ、奴の処分を私が一任しても?」

「うむ、構わぬ、構わぬ!」

「ははぁ、ありがたき幸せ。では、魔王様の栄光に幸あれ」

 チャメ・ワヨイはそう言ってまた、闇の中に消えていった。

「これでよい、これでよい。儂が手を下さんでも、優秀な部下が自発的に何とかしようとしてくれるしのう! ガッハッハ! さ、儂はもう少し寝よう。まだ十五時間しか寝ておらんからのう、あと六時間は寝なくては。勇者の監視、まかせたぞ」

 魔王様の眼光が高笑いと一緒に闇の中に消えて行った。しかし、こんなにも自堕落でぐうたらな魔王だというのに……。

「はっ! 見事に成し遂げて見せます」

 なぜこうも付き従おうという気持ちが、命令されてうれしいという思いが湧いて出てくるのだろうか。



『魔王の生態その二。なぜか部下の人望は厚い』



 勇者は故郷の村のある山を下り、野を驀進中。この先にあるのは、城下町ロウエーシ。



『勇者の生態その六。最初の目的地は基本城下町。御上りさんのように、とりあえず人の集まる都会に行っとけばなんとかなるか、というノリなのだろうか』



 とは言ったものの、なかなか順調には進めないのが世の常だ。勇者の行く手を阻むよわっちい魔物たちに時間を取られ、城下町まではさすがに一日ではたどり着けず、最寄りの村に立ち寄ることにしたようだ。

 村に入ると、まず真っ先に村人に声を掛ける。

「ここは、チカクーノの村だよ。ここを南に下れば城下町に着くよ」

 話しかけはしたが、勇者はそんなことしっとるわ! と言わんばかりに返事も返さず宿屋へ直行。意外と冷たい人なのだろうか。

「ああ、困った困った」

 宿屋に入ると店主がカウンターの奥にいるのに忙しなく足踏みしながら、当惑の様子を示している。きっとあれは人間の当惑の舞、もしくは不思議な踊りなのだろう。魔力が吸い取られぬよう、気を付けなければ。

「おや、旅のお方。申し訳ありません。今、部屋は満室で……。ここ毎晩、近くの山賊が大挙して部屋を占領してしまっていて、しかもうるさくってうるさくってかないません。ああ、これじゃあ、悪いうわさが広まってお客様が遠ざかってしまうわ、最悪、近所迷惑でこの宿屋を村の人たちに潰されてしまうかも……。ああ、どうしたらいいのでしょう」

 チラ。店主は、勇者の動向を伺っている。

「あなた、もしや腕に自信がある剣士様か何かですか?」

「いいえ」

「嘘をおっしゃい。その腰につけている剣はなんですか」

 勇者はちゃっかり道中で不自然に置かれている宝箱から剣をくすねていたのだった。これが檜の棒のままだったら……疲れているのに店主に絡まれずに済んだのに。

「良かったら、人助けだと思って奴らを退治してください!」

「いいえ」

 勇者、必死の抵抗。

「そんな殺生な。そこをなんとか」

「いいえ」

「そんな殺生な。そこをなんとか」

「いいえ」

「そんな殺生な、そこを何とか」

「……はい」

 勇者、折れる。無間地獄って、怖いよね。さすがの勇者でも。

「ありがとうございます! では、奴らは二階にいます! お願いします!」

 ぺこぺこと頭を垂れる、なんてこともせず、相変わらず不思議な踊りこと足踏みをしている店主。彼が二階へと上がっている勇者を見送っているときの顔を、私は確かに見た。計画通り、見ず知らずの人に迷惑を押し付けてやったぜ。なんて考えが透けて見えるような、いやぁなニタりとした笑顔だった。

 私は一階の窓から覗くことに限界を感じ、羽を広げて屋根の上に移動。二階建てのこのさびれた宿屋になんとも都合よく、天窓が付いていた。私はそこから部屋を覗き見た。

「く、くそう、覚えていろ!」

 瞬殺だったらしい。私が見たのは、ぼろ雑巾となった山賊たちが一階への階段を下りていく姿だった。

「たかが村を出てすぐの若造に退治できるくらいの相手なら、村人全員でかかれば、退治できたのでは?」

 なんて、呟いたのは内緒です。


「おお、ありがとうございます! お礼に今晩はただでお泊めいたしますよ!」

 勇者はそれを聞いてさっさと寝てしまいました。ちなみに宿代は銅貨二枚。ちっぽけな宿のちっぽけなおごりであるが、勇者はその好意にきちんと預かりました。




『勇者の生態その七。他人の好意にはとことん甘える性質の純朴な青年である』


 朝。勇者が一階に下りてくる。今日こそ城下町に着こうと、意気込んでいるようだ。

「ああ、困った困った」

 勇者が出入り口の受付カウンターを通り過ぎようとしたとき、何やら見覚えのある当惑の舞と聞き覚えのあるフレーズが。

「いや、それがですね。実はあなたの朝食を作る際、井戸に水を汲みに行ったんですが、ついうっかりして指輪を落っことしてしまって」

 注、勇者は話しかけてはいない。急にこの男が話し始めた。

「その指輪、とっても大事なんです。私の死んだ女房の形見の指輪なんですよ。ああ、どなたか親切にとって来ていただけないものですかねぇ?」

「……はい」

 勇者、感じ取った。この、昨日と同じパターンで勇者に頼んで自分は楽しようという魂胆だ。

「おお、本当ですか! いやぁ、ありがとうございます。昨日に続いて今日までも……」

 とびっきり嬉しそうな笑顔で勇者の手を握って振る店主。ちなみに、この店主は昨日の夜、指輪などしていなかった。おそらく、誰かが昔落としたか、今日落としたかの噂を聞きつけて、それをせしめて金にしようという浅知恵だろう。なんともまぁ、汚い人間だ。

「できれば、早めにお願いしますよ」

「……はい」


『勇者の生態その八。勇者は頼み事を断れないため、よくたらい回しにされる』



 勇者は村の中央にある井戸へと果敢にも生えている蔦を伝って降りて行った。ああ、きっと井戸の中は暗くてじめじめしていて、苔も生えていて滑りやすいことだろう。魔王軍的には、ここで滑って転んで頭ぶつけて死んでくれた方がうれしいんだけど。それでも、可哀そうな勇者。

 勇者はわりとすぐに出てきた。

「おお、ありがとう、まさしくこの指輪だ!」

 勇者が渡した指輪は、どう見ても錆びてるし、店主の太った指にははまりそうもない小さな婦人用の指輪だった。ああ、勇者、なんて不憫な子。


『勇者の生態その九。勇者は不憫』


「ありがとよ、少年」

「……」

「……」

 無言、勇者が話しかけると

「いらっしゃい。お泊りですか? お泊りでしたら銅貨二枚で一晩……」

 下種だあああああああ! この店主、人を使っといて、お礼を述べるだけで何もしてやらない。一晩は泊めたけどもそれだけ? 絶対割に合わない。だって銅貨二枚程度の宿に一晩泊まるのが、盗賊退治と指輪を取りに行かせた礼って、おかしいじゃない! 魔物でもおかしいって思うんだから、絶対そうよ!

 私が一人憤慨していると、勇者は泊まるのを丁重に断った。しかし、すぐに出ることはせずに、また、二階へあがって行きました。何をするのだろう、様子を見に行こうか、とも思っていると



ドタン、バタン、パリィン、パリィン! というけたたましい音が二階から聞こえてきました。

「何事!」

「あ、あの野郎、何やってんだ!」

 店主が二階へ上ろうとすると、勇者が下りてきた。

「お、お前、その手に持っている道具と、じゃらじゃら言ってる巾着袋は……。まさか!」

 店主は駆けあがって行った。

「ああ! 俺の大事なへそくりが無い! 棚も机も全部荒らされてやがる! しかも壺も全部割れてるぅうううう!」

 ……どうやら略奪行為を行っていたらしい。勇者とはなんなのか。

「て、テメェよくも!」

 店主が勇者に殴りかかろうとしたのを、勇者はひょい、と避けた。するとどうでしょう、太った店主はごろごろ転がって階段を落ちてしまった。勇者はその肉の塊のような店主を超えて、出口に向かっていきました。

「く、くそぉ、俺の、へそくり、か、返せ……。城下町でお楽しみするための金……」

 そう言って、店主は気を失いました。勇者が一度振り返ったが、それがとてもとても、勇者とは思えない目をしていた。まるで、養豚場の豚でも見るような冷徹な目、とでもいおうか、人を利用し、人を騙していたとはいえ、目であらわせる蔑みの最上級といったような視線を向ける勇者に、私はぞくぞく、と悪寒を感じざるを得なかった。奪い、蔑む勇者の胸の奥にはきっと、鬼のような本性が潜伏しているのだろう。それが、魔王様に向けられないことを切に願いながら、今回の報告はここまでとしよう。






『改訂版 勇者の生態その九。勇者は不憫のようで実は鬼畜の本性を隠し持っている……かもしれない』


どうも、作者です。ここまでご覧になった方、ありがとうございます。今回はRPGあるあるの中のあるあるネタでした。このネタは絶対に過ぎては通れないということでブチ込んでみましたが、いかがだったでしょうか。ちなみにタイトルは糞が付くほどテキトーに付けています。暁になんとか、で全部統一したいという無駄な決意です。今思うと、勇者が魔王を倒す、っていうRPGって意外と少ないような気がしますね。という今日この頃。

では、この辺で、また次回も見てくださると嬉しいです。

そろそろこれと別の短編も書きたいな、と腰を痛めながら思います。

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