主人公は陰険でした
「俺はこの惑星の歴史に名を残す」
この転生によって再び得た有限の命を最大限に活用し、自分の痕跡を歴史として残す。それが、あのクソ生意気な猫に対する最大の復讐だ……。
なんて、この俺が思うだろうか? いや思わないだろう!
なぜなら俺は間宮勝弘。転生後二十二回目の誕生日を迎えた原住民の王女だ。決して、そんなつまらない夢を最大の目標などにはしない。俺の最終目的は、俺が俺に戻ることだ。そう、本来あるべきだった姿。エリート弁護士である間宮勝弘に戻るのだ。
そして、元に戻るついでにあの猫を一発殴る。
何もないこの惑星だが、いくつか気になることがある。
なぜ猫は俺を転生させるにあたって、猫は俺をブサイクで貧乏にするといった。しかし、現実には俺は貧乏にはなったが、ブサイクにはならなかった。女になっただけだ。つまり、猫は俺を転生させるにあたって貧乏にする力はあっても、性別や美醜を設定する力はなかったということだ。
では、なぜか?
それは簡単なことだ。猫にその権利がなかったからだ。
『オレサマの雇い主である女神、つまり魂を管理する女神様が……』
猫の上には、魂を管理する女神という上司がいる。
猫は下っ端であり、俺に偉そうなことをいったところで自分では、俺の性別を変える程度しかできなかったのだ。そこから推測できることは、猫の本来の仕事は、死んだ人間を次の人生まで導くことだ。そして、その人生というのはあらかじめ大体の流れが決まっており、猫にできるのはその決められた人生を選択することだけなのだ。だから、猫は俺を貧乏には出来たがブサイクにはできなかった。その選択肢がなかったからだ。
ならば、この人生は何が決められているのか?
それは女神との再会だ。
魂の女神は俺の顔を気に入って、猫に転生させるようにいった。綺麗なものというのはときどき鑑賞したくなるものだ。自分が見れない場所にお気に入りの絵画を飾ることはしない。よってこの惑星に魂の女神がいる。
俺はそれを見逃さなければいい。
再会と同時に、猫の独断専行を言えば魂の女神は何らかの反応をする。俺はそれを見逃さず、畳み掛ければいい。そうすれば、元の俺自身に戻れるかもしれない。
こんな土人の頂点に立って満足するわけには行かない。高みを目指すのだ。
ここまで考えたとき、俺はあることに気づいた。
『女神様、面食いなんだ……』
と、猫は言った。
つまり、女神は俺を見たことがある。俺は過去に女神と会っている可能性が高いのだ。
いくら、女神が超常的な力を持っていたとしても生きているすべての人間の顔を見て美醜を判断しているはずがない。もし、そんな時間の浪費をしている女神がいるとすれば、魂の循環はどこかで梗塞をおこし、猫のような部下はそれのフォローのために俺に構うような時間はないはずである。
女神が誰なのか?
俺はこれまであったことのある女を幾人かイメージしたが、女神といえるような女を思い出すことはできなかった。俺が思索のなかに沈んでいると、一人の男が俺の前に立った。
レイである。
この俺の最初の家臣は未だに日本語を話すことができない。それゆえに会話をすることはできないが、頭の廻りは悪くない。ゆえに、ヤムヤムやソルソルといった農作物の栽培の利点に気づけば、ほかの村人を動員して畑を作った。俺の顔にヤムヤムを擦りつけてきたときは殺してやろうかと思ったが、十数年使ってみれば、なかなか悪くない。
俺の前に立ったレイはすっと粘土の板を差し出した。
言葉を持たないこの村の者は、俺に意見をするとき粘土板に絵を描く。原始的な方法であるが、言葉を使えない村人と会話するのは、このような方法が一番容易である。絵を見れば、何やら人のような者が縄で縛られている。
「ヤムヤム、ヤムヤム」
レイはヤムヤムを掘り起こす動きを見せたあと、逃げるような仕草をした。どうやら、ヤムヤムを盗んだものが現れたらしい。これは珍しいことだ。俺が畑作を始めて以来、ヤムヤムを盗むことは死罪である。村人には生きるため最低限のヤムヤムを供給している。
――それなのに盗む者がいるのか?
俺は、このヤムヤム泥棒に興味を覚えた。女神に関する思索も行き詰まっていたところだ。気分転換にはちょうどいいかもしれない。
「レイ!」
俺が呼びかけるとレイは、俺を案内するように歩き出した。
村の広場にたどり着くとそこにはヤムヤム泥棒が蔓でできた縄によって縛り付けられていた。それがレイのような色黒い土人であれば俺は驚かなかっただろう。しかし、そこに縛られていたのは金髪碧眼の少女だった。
密林の中を随分と歩き回ったのだろう。靴は破れ、髪や服には泥がこびりついている。だが、この少女は俺がこの惑星に生まれ変わって以来、始めてみる文明の香りを持っていた。この村では靴を履く者はいない。裸足である。だが目の前の少女は靴を履き、見るからにしっかりとした縫製の服を着ている。荒い麻の貫頭衣ではない。ボタンや襟のついた服である。
「お前、どこから来た?」
高圧的に俺が尋ねると、少女は怯えた顔をした。
「お前はどこからきた?」
俺はもう一度、少女に尋ねた。
「こ、殺さないでください。私はナリタから来ました」
ナリタだと? ナリタと言って思いつくのは空港のある成田である。だが、ここは地球と異なる惑星のはずである。俺が調べた限りではこの惑星の公転は四百十七日といったところだ。三百六十五日であった地球とは五十日ほどのズレがある。
「そこはここから近いのか?」
「……いえ、この密林を東に抜けて海を越えなければナリタにはたどり着けません」
「海外か。ではなぜ、この地に来た?」
なぜ、ここよりもはるかに高い文明を持つ者がこんな未開の地にくるのか。それが侵略であれば俺も何か手を考えなければならない。
「この密林にのみ自生するヤムヤムという植物が欲しいのです」
ヤムヤムといえば、俺たちが主食にしているイモのことである。
「ヤムヤムは俺たちの主食であり、そう簡単によそ者にやることはできないな」
俺は少女に冷たく言った。村を上げてヤムヤムを栽培できるようになった今、ヤムヤムを恵んでやることは容易である。だが、それでは何の交渉にもならない。あるものを欲しいと思うものがいるならば、出来るだけ高く買ってもらうというのが筋である。
「……ナリタではモードリという病の感染が止まらないのです。しかし、ヤムヤムがもつ成分が病の進行を遅滞させる効果があるとわかったのです。お願いします。ヤムヤムを分けていただけないでしょうか?」
ヤムヤムにそんな薬効があるとは思わなかった。確かに考えてみれば、ヤムヤムを主食にして以来、風邪やそれ以外の病気になった記憶がない。もしかするとヤムヤムには免疫系を高める力があるのかもしれない。ならば……。
「いいだろう。お前にヤムヤムを分け与える権利をやる! そのかわり……」
俺は、少女にある条件を突きつけた。
この回はコーチャーが担当しました




