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主人公は野心家でした

 俺がこの地でシャベルを発明してから、10年の月日が経った。


 俺は完全にここに住む人間らしき生物の王と呼べる存在になっていた。

 10年というのは俺がいるこの惑星ほしでのことだ。

 俺へヤムヤムを貢ぐことがこの集落の日常になると、俺の生活にゆとりが生まれた。

 空いた時間を使って俺は暦を作った。太陽暦。木の棒を立てて日時計を作り、それを約一年間観測し続けて作り上げた。

 この惑星ほしの一年間は427〜8日。地球よりそれなりに長い。



 俺はリンゴと名付けた果実の芯を放り捨て、椅子から立ち上がった。侍女がそれを拾い上げ、肥料作成場に運んでいくのを尻目に外の様子を眺める。

 外では、50人程度の人間(名前を付けないと色々と面倒くさいので人間と名付けた)が農作を営んでいた。

 俺はこの未開な人間たちに農業というものを教えた。つまり、掘り出したヤムヤムをそのまま食べるのではなく、余りは地面に埋め、ヤムヤムを育てるのだ。

 ここでは二つの作物を主に育てていた。一つはヤムヤム。もう一つはソルソルと名付けた小さな豆だ。

 ソルソルは俺が惨めだった頃からあったが、野生では大して実を付けていなかったし、たくさん生えているわけではなかったので、腹の足しには全くならなかったのだ。

 しかし、大量生産できるようになると話は別だ。今ではヤムヤムと並んで主要な食べ物になっている。

 農業において、俺の作った暦が非常に重要だったのは言うまでもあるまい。

 俺は暦のことを誰にも話さなかった。

 俺は作物の収穫期どころか、これから暖かくなる、寒くなるということ、また雨や嵐が多くなることを予言し、それを的中させた。

 おかげで俺は一種の信仰の対象となり、王政をより盤石なものとすることができた。



 農業を農業と呼べるものにするのにも、気苦労が絶えなかった。

 俺は最初タダでシャベルを渡していたが、誰かが壊れたシャベルを持ってきて新しいものをせがむと、態度を変えた。

「ヤムヤム」

 ねだる人間に向けて首を振り、言い放つ。シャベルが欲しいならヤムヤムを貢げという意味だ。

 足元を見られていたのは向こうだが、俺は無理のある量を要求することはしなかった。不満が溜まって反乱でも起こされたらたまらないからだ。

 その代り、シャベルを自作しようとする者には厳しく対処した。

 俺は俺に懐いた、あの男を使い、この集落の人間を監視した。

 あの男にはレイという名を与えた。男を指さし、「レイ」と宣言すると、男は嬉しそうにその名を受け入れ、他の人間に自慢していた。

 そして、レイに身振り手振りと地面に書いた絵で、シャベルを自作した者を報告しろと命令したのだ。それは伝わったようで、レイは健気に俺の指示に従った。

 やがて一人の男がシャベルを自分で作ると、俺は集落の人間を集め、全員の前でその男を殺した。

 見せしめだ。

 その時点で、既に俺は集落の頂点にいたから、俺に反対する者は誰一人としていなかった。

 その後はもう一人死刑にするだけで済んだのだった。


 しばらく経って十分な量のヤムヤムが集まると、俺は必要な分以外を開けた土地に埋めた。その行為を、最初は誰もが理解できなかったようだ。

 俺はこの行為の意味を言葉で伝えようとは思わなかったし、そもそもできない。

 百聞は一見に如かず

 この言葉に賭けたのだ。

 俺はレイと、ヤムヤムを使って雇った者を使って埋めたヤムヤムを警備させた。

 当然、埋めたヤムヤムを盗もうとする者は死刑にした。今回も二人が罰を受けて命を落とした。

 人間というのは一度では伝わらないらしい、というのはこの経験から俺が学んだことである。

 徐々に集落の人間たちの不満が溜まっていき、爆発しそう、という段になって俺はヤムヤムを埋めた地面を掘り返した。

 そこからは、その時点では信じられない程たくさんのヤムヤムが顔を出し、人々は文字通り目を丸くした。

 二回目以降は、俺がヤムヤムを埋めるのを誰も止めなかった。それどころか、快く俺を手伝い、盗もうとする者を俺が指示しなくても血祭りに上げた。



 人々は俺に王宮を作った。王宮と言っても、全体で36畳にもみたないような小さなもので、丈夫な屋根の他には石と木、葉や蔓を組み合わせて作った椅子があるだけだ。

 それでも、この集落の中では一番大きく、立派な建築物だった。

 俺は民の様子を眺め終わると、再び椅子に座って思案し始めた。考えるのはもちろん……

 考え始めようとすると、誰かが王宮に入ってきて思考が中断されてしまった。

 俺に向かって歩いてきているのはまだ幼さを残している少年だ。

「勝弘様、後もう少しで本日の作業が終わるので、予定通り祭りの準備を始めます」

「こうじか。よし、任せるぞ」

「御意」

 こうじは声変りを迎えていない答え、去って行った。

 王政を布いたことにより生まれたゆとりを、俺は無駄に使うことはしなかった。

 いくつかの政策と呼べるものを打ちだし、実行したのだ。

 一つ目は農作。土地を耕させ、作物を作らせる。

 二つ目は狩り。これはもともとあった風習から大して変えていない。周りの動物が少なすぎて畜産は難しいから、肉を手に入れるには狩りに頼るしかなかったのだ。

 三つ目は探索。周辺でヤムヤムとソルソル以外に食べられそうな山菜などを探させたり、ここの他に人が住んでいないか確かめさせる。さっき俺が食べていたリンゴはその成果だ。大量生産には至っていないが。

 最後は言葉の普及だ。

 新しく生まれた子供は全て俺に預けなければならないと定めた。

 既に信仰の対象にも似た存在になっていた俺に反抗する者は稀だった。拒絶しても強引に連れ出すだけだが。

 集めた赤ん坊に、俺は日本語を教育した。

 漢字は教えるのが大変だし、上手く教える方法も思いつかなかったから、ひらがなだけを教えた。

 苦労した甲斐もあって、集落に暮らす今の子供たちは読み書きができる。

 そして、必要な知識も与え、この集落のエリート、つまり指導層とした。

 俺は英才教育を施した子供たちを介してこの集落を統治している。

 算数などの科学に必要な知識は与えていないが、まだその必要性を感じていない。

 エリートたる子供たちには名前を与えた。全て平仮名の名前だ。姓と名もしっかり分けた。

 さっきの子供、こうじの言っていた祭りとはシャベルを祀る祭典だ。

 嵐で倒れた樹と大きな石を使って作った巨大なシャベルを囲んで踊るのだ。

 下らないが、王政を強固なものとするのには役に立っているだろう。


 先程中断されてしまった思考を再開する。

 考えるのはもちろん、

「この人生における目標」

 俺のカンが告げている。次はない。つまり、もう一度転生することはない。

 魂を管理する女神は面食いだ。女になった俺など目にもくれないだろう。

 ならば、この新しい命で何を為すか。

「俺はこの惑星ほしの歴史に名を残す」

 何をしようが俺はいずれ死んでしまう。ならば、俺の名を永遠にしよう。それが、あの生意気な猫に対する最高の復讐になるだろう。

 そのためには、今のこの小さな集落を巨大で強大なものとする礎を築き、紙とペンの代わりになるものを発明して、歴史を書き記していく文化を確立することだ。

この回はおもちが担当しました

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