主人公は軍神でした
ヤムヤム、イモ科の一種で我らの主食である。
正史によればヤム暦243年に偉大なる大王、マミヤが密林の中で発見したとされる。
やせた土地でもよく育ち、栄養価の高いヤムヤムは我が種族の間で瞬く間に広がった。
ヤム暦245年には、すでに王国南部で栽培が始まっている。
ヤムヤムが安定して供給されるようになると、王国の人口は一気に増加した。
しかし、ヤムヤムの生産量と人口の増加率は等比例の関係にあるわけではなかった。
人口の爆発的な増加によってヤムヤムの需要が供給量を大きく上回るようになったのである 。
王国は深刻な食糧不足に陥った。
同時期に大王マミヤの不在も重なり、王政に対して人々は不満を募らせた。
ヤム暦265年、南部の三州が王国からの独立を求めて反乱をを起こした。
この時代の戦争といっても200人から300人の男たちが剣や槍を持ち寄って、指揮官の掛け声のもと一斉に敵に向かっていく至極単純なものだ。
指揮官が討たれるか敵が恐れをなして逃げるかで勝敗が決まる。
集まる戦士の人数は大体同じくらいだから、個人の剣の腕が勝敗を左右するようになる。
そのため戦士になる男たちは、農作業の合間に剣の稽古をし腕に磨きをかけた。
ヤム暦265年4月。
南部三州は都に対して進軍を開始した。
王国内は大混乱に陥り、ほとんどの州は反乱軍に協力するか、さしたる抵抗もなく降伏した。
こうして、領土の八割が反乱軍に制圧された。
大王マミヤが都に帰還するのは、反乱軍が都に侵攻する1カ月前、五月のことであった。
「大王伝第12章より抜粋」
外の清々しい空気とは反対に室内は重苦しい空気が漂っている。
この日、都の王宮では反乱軍の侵攻に備える軍議が開かれていた。
「降伏を」
長い沈黙の後、タニガキが口を開いた。
他の重臣たちもその言葉で堰を切ったように話し始める。
「すでに、領土の八割方を取られているのですぞ」
「降伏しかありますまい、命だけは助かるはず」
「要求を呑めば、形はどうであれ王国は残るやも」
降伏の二文字だけが室内を飛び交い、会議の意思が決定されたかにみえた。
「静かに、静粛に。大王がお話しになります」
タニガキが声を張り上げる。
全員の視線がマミヤに集まった。マミヤは静かに告げる。
「降伏はしない、戦うのだ」
ギョッとした顔でタニガキが尋ねる。
「何か策がおありのですか?」
マミヤはニヤリと笑って細長い木箱を取り出した。
「これを使う」
木箱の中身を見て一同は目を見張った。
鎧の擦れ合うカチカチという音。銅鑼の合図で3000人の男たちが一斉に前進を始める。正午過ぎということもあって真上に昇った太陽がジリジリと首筋を焦がしていく。男の1人が兜をとると吹き出す汗を手で拭った。
まっすぐ正面を見る。敵も前進しているようだ。まったく、このくそ暑いなかで負け戦さをさせられる敵も哀れなものだ。ざっとみて500にも満たない数に見える。勝敗は誰の目にも明らかだ。無駄に血を流すことはない。それとも・・・。
「舐めてるのか?」
そう思うと戦士としての誇りを傷つけられたようで無性に怒りが湧きあがってきた。
「愚かな、いまさら後悔しても遅いぞ」
男は剣を抜くと突撃の合図を待った。
「2000いや3000はいるな」
タニガキは前進してくる敵を見てつぶやいた。離れていても敵が屈強な体格をした戦士であることがわかる。よほど錬度を積んだ戦士たちを投入してきたのだろう。目の前にいる痩せこけた自軍の戦士たちと比べずにはいられなかった。いや、彼らはそもそも戦士ではない。ひと月前まではヤムヤムを栽培していた農民たちだ。
「勝てるのか」
タニガキは今でも半信半疑だ。大王が王宮に備蓄していたヤムヤム半年分と交換してきたというその武器は弓矢よりも扱いが簡単で、より遠くの敵を狙い撃つことができるという。ひと月の間、このひ弱な農民たちにひたすら弾を込め、的を狙わせる訓練だけをさせてきた。最初は爆音に驚いていた農民たちだったが、思いのほか呑み込みが早いらしく、向かってくる敵に対して200m程から7,8回は撃てるようにはなっていた。
「大王を信じるしかないな・・・」
敵が突撃を開始したのだろう。地鳴りのような足音と獰猛な猛禽類のような唸り声が聞こえる。手筈通り、タニガキは弾を込めるよう農民たちに指示を出す。彼らの手や腕には火傷の跡が残っていた。だが、タニガキにはそれが頼もしく思えた。
空気を振動させるような銅鑼の音が鳴り響く。突撃だ。男は咆哮をあげると目の前の獲物目がけて駆け出した。敵が筒のようなものを前に突き出して何かしているが気に留める暇もない。意識は目の前の敵を殺すことだけにとらわれていた。突然、雷鳴のような音が辺りに響き渡る。自分より前方にいた戦士たちがまるで鎌で刈り取られる草のようにバタバタと倒れていく。男は唖然として駆けるのをやめた。濛々とした煙が立ち込めて視界が悪い。目を凝らしているとまた爆音とともに煙の中からパッパッと何かが光るのが見えた。刹那、鋭い衝撃を左肩に感じて跪く。手で抑えると血が噴き出しているのがわかる。痛みがじわじわと体全身に広がっていく。もはや剣を握るどころではなかった。周囲を見渡すと皆同じように腕や肩、脚から血を流している。頭から血を吹き出して絶命している者もいた。
「いったい・・・」
何が起こったのか、そう言いかけた男の声は三度目の爆音によってかき消された。
ヤム暦265年。
大王マミヤ、エルガサド近郊ニテ賊徒ノ大軍ヲ打チ破ル。
民、大イニ喜ビテ大王ニ軍神ノ称号ヲ授ケル。
「建国正史第3章より抜粋」
この回はasuminが担当しました




