主人公は情報を整理してみました
とりあえず、ここまでの状況を整理しようと思う。ブルーに殴られた俺は、なぜか俺を転生させた猫と再会を果たす。そこで俺はあの世界に転生させられた俺を含む五人のミッシングリンクを知らされた。
転生したのは、とある事件の関係者らしい。そしてその事件の裁判官が、今俺の目の前で生命維持装置に繋がれた状態で横たわっている。
裁判官は転生した五人と文字通り一心同体で、その内の二人を生贄にすれば残りの三人は蘇生するとのこと。そして裁判官が奇跡的に一命と取り留めたら全員死亡。状況を整理すると、くだらないデスゲームが浮き彫りになった。
真面目に考えれば、これはチャンスだと思う。蘇生できれば、くだらない世界とバイバイ。二度とあの世界で不自由な生活を送る必要がなくなる。
ということで、俺は誰を犠牲にするのかを、考えてみる。
俺は弁護士。郷田は検事。怪盗サンシャインが被告人。アリスが被害者。目の前にいるのが裁判官。それでは襲撃女は?
このクイズの答えは簡単だ。残りは証人だろう。証人の証言は、判決を左右するほど重要だ。
俺に対する敵意丸出しな接し方から、あいつは検察側の証人だと思う。
ここで俺の頭にクエスチョンマークが浮かんだ。転生した俺たちが関わった裁判とは何だったのか?
前にも言ったが、俺は弁護した相手を一々憶えているようなマメな人間ではない。俺が郷田と初めて法廷で対峙したのは、江川教授の傷害事件だったな。
そういえば襲撃女が言っていた。
「お前は今まで考えた事もないだろう。お前が真実を捻じ曲げて無罪にした薄汚い犯罪者の代わりに冤罪を被る人達のことを。私の母もそのうちの一人だったんだよ。お前に殺されたんだ。母は」
襲撃女の母親は、江川教授が起こした傷害事件の容疑者だった。それで俺が江川教授こと枝川忠司を無罪にしたばっかりに、彼女の母親は冤罪で逮捕された。
ということは、あの世界に転生した五人の共通点は、江川教授の傷害事件の裁判関係者なのか。そうなれば検察の証人という推理も説明できる。枝川忠司が傷害事件を起こしたという決定的な証言が、襲撃女にできたなら検察の貴重な証人になる。
何となくアリスが傷害事件の被害者な気もしてきた時、俺はとんでもないことに気が付く。先程の俺の推理だと、怪盗サンシャインが被疑者ってことになっていた。怪盗サンシャインの正体が、江川教授だとしたら事態は丸く収まりそうだ。
しかし現実は甘くない。このタイミングで怪盗サンシャインの言い分を思い出す。
「犯罪者という言い方は気に食わないが、私は君たち弁護士や警察の言うところの窃盗犯だった。韋駄天の松。聞いたことくらいあるのではないか? まぁ、私は韋駄天なんかではなく怪盗と呼んで欲しかったが」
怪盗サンシャインは、現世で韋駄天の松と呼ばれていた。金庫破りを専門にした窃盗犯で、その大胆な犯行と逃げ足の速さが天下一品だったと思う。
警察の捜査で本名が、松田希っていうことがバレたんだったな。
あれれ。おかしいぞ。韋駄天の松の本名が
松田希。江川教授の本名は枝川忠司。二人は全くの別人だった。松田希が偽名で、本当の名前は枝川忠司でしたってオチかもしれない。
そんなわけがないと俺の頭は否定する。名前だけなら何とか説明できそうだが、問題はそれだけじゃない。
江川教授は日本各地で連続殺人事件を起こした指名手配犯。証拠を一切残さない完全犯罪な犯行手口で、警察は正体さえも掴めていない。
しかし韋駄天の松は本名を警察に突き止められている。この矛盾は韋駄天の松と江川教授は全くの別人という証拠になるだろう。
江川教授の傷害事件が俺たちの共通点だったという推理は、論破された。それだったら転生した被疑者は江川教授でなくてはならない。
ここまで導いてきた図式は音を立てて崩れる。弁護士の俺と、検事の郷田。それから俺の目の前にいる裁判官という役割は確定だから、ゼロからのやり直しではない。
被疑者。被害者。証言者。誰がどの役割なのかが分からなくなり、裁判官の前で唸っていると、どこからか声が聞こえて来た。
「ミヤミヤ」
これはブルーの声。その直後に俺の目の前で眩しい何かが光り、俺は思わず目を瞑った。
そして俺が再び瞳を開けると、目を丸くしたブルーの顔が飛び込んできた。柔らかいソファーのような感触が、仰向けに寝かせられた体に伝わってくる。頭からは女性の温かい肌触り。
「お嬢ちゃん。起きたのかい。若い女の膝枕からのお目覚めはどうだ」
怪盗サンシャインが振り向きざまに、俺の赤面した顔を見ている。状況はよく分からず俺は周囲を観察した。どうやら俺は車に乗せられていて、後部座席で眠っていたらしい。助手席には襲撃女が不機嫌そうに鎮座している。
なぜブルーが膝枕をしていたのかも気になったが、俺は他に聞きたいことがある。
「どこに向かっている?」
俺の疑問に対し、怪盗サンシャインは視線を前方に向け、行き先を説明した。
この回は山本正純粋が担当しました




