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主人公は老人を見殺しにしました

「実は、あそこで砂のお城を作っているのはモードリ病で若返った八十歳のご老体達だと分かった。ちなみに向こうでビキニ姿でライフルを構えているねぇちゃん達もオーバー八十のアラエーだ。おかしいと思ったんだ! このロリしかいない街であんなムキムキとプルンプルンの男女がいるなんて!」


 俺が骨抜きにした男はあまりの快感からか、老人特有の口の軽さからか、聞いてもないことをいろいろ話してくれた。この競技のこと。参加者のこと。自分のこと。その多くはまったく意味のないものであったが、これだけでもわかれば収穫は大と言える。その上、俺の命令まで聞くというのだ。これだから老人はちょろい。


「ミヤミヤ……、そんなに若い男と女とキャッキャッウフフしたかったの?」

「ブルー、リクルート姿のお前に何がわかる! この世界に来てからロマンスらしいロマンスのひとつもない俺に気持ちが! うら若い肌を求める俺の魂の声が!」


 ブルーは汚物でも見るような目で俺を見るとさっきまで地面を掘り返していたスコップを横薙ぎに振るう。歯先が俺の頭をかすめて風切り音を立てる。直撃していたら俺の小さな頭は吹っ飛んでいたに違いない。


「おまっ、何をするんだ!」

「なにキメェこと言ってんだ。殺すぞ。とっとと勝つこと考えて行動してくれませんか? それともクズみたいな軽い頭じゃ行動さえできないんですか? それなら頭ついてる意味ないですよね。そうですよね。ありませんよね。ミヤミヤ、その重い頭が邪魔なんでしょ? 落としてあげるから動かないでねっ。いまぐちゃぐちゃにしてあげるから」


 ブルーはハンバーグでもこねるかのような軽さで言うと、再びスコップを振り上げた。


 俺は完全に忘れていた。このブルーは地雷女なのだ。どこで爆発するのかわからない動く危険物。俺と行動を共にしているのだって俺を使えば、あいつをコケにしたアリス達に一泡吹かせられる、という考えからだ。つまり、あいつは俺を味方だなんて思っていない。それどころか。


「わかった。ブルー、ちゃんとやるちゃんとやるから」


 俺は両手を突き出してブルーを静止するがブルーは虚ろな目で何かをブツブツとつぶやきながら薄気味悪い笑みを浮かべている。この時点になって俺は気づいた。もうだめだ。静止できるようなものではない。俺は突き出していた手を下ろすと観念したように地面に手をついた。握りしめた湿った砂が気持ち悪い。


「バイバイ、ミヤミヤ」


 ブルーがスコップを振り下ろす瞬間を狙って俺は握り締めた砂を彼女にぶちまける。砂に驚いたのかスコップはあらぬ位置に叩きつけられた。


「やってられるか!」


 俺はブルーが口や目元についた砂を払っている隙をついて走り出す。向かうのは、プールサイドから砂山を狙っているビキニの元老婆の集団ではなく、砂浜で城を作っている元老爺の集団のもとである。別に俺の体が女性になってしまったために男に走ったのではない。暴走した彼女を止められるのはこいつらしかいない、と感じたからだ。


「なんで、砂かけるかなぁ。クリーニングとかたいへんなんですけど。っていうかどうしてミヤミヤが私から逃げるのかわからないんですけど、ホント殺しちゃおうかな? そうしたほうが世のため人のためかな……」


 ぶつぶつと独白ともとれるようなセリフをつぶやきながらブルーが俺に迫る。その歩みは決して早いものではない。だが、一歩づつこちらに近づく彼女からは恐ろしいほどの殺気が溢れ出ており、振り返ることさえためらわれる。


 俺はもつれる足を引き釣りながらビキニパンツの男の集団の元にたどり着いたとき、彼らは一様に驚いた顔をした。城造りの邪魔をしに来たわけでもなく、造り来たわけでもない女。コイツは一体何がしたいんだ、という好奇と疑念に満ちた視線が俺に向けられるが、それは長くは続かなかった。


「ミヤミヤ、死のう」


 軽い口調とは別に剣呑なセリフをまとったブルーが追いついたからだ。彼女は俺の周囲の男たちをちらりと見ると「ああ、人が多い。もっと少なくなればいいのに」、とため息混じりに言うとスコップをおお振りに振り回した。


 無警戒だった男の二人がスコップによって腹部を殴られ、うめき声を上げて砂浜に倒れる。それが始まりだった。男たちはブルーを敵と認識したらしく、数に任せて彼女に襲いかかった。しかし、それは長くは続かなかった。


「この色ボケのおたんこなす共が、なんで私に触ろうとしてるんですか? キモイキモイキモイキモイ……あー、キモイです」


 ブルーがキモイと一言言うたびにスコップが宙を舞い、男たちを殴りつけ、突き抜き、血だまりをつくった。もし、男たちがモードリ病に感染していなければ、老人を撲殺するリクルート女という人権団たちから訴えられること請け合いの地獄絵図が出来上がっていたに違いない。


 俺はこの地獄絵図を見ながら、これで勝てる、と思いながらもブルーに恐怖を覚えずにはいられなかった。理性、善性、忍耐、そんな言葉をこいつはどこに置いてきたのだろうか? 


「た、たすけ」


 命乞いをする最後の男は、スコップを口に突っ込まれ口いっぱいに砂をほおばりながら倒れた。ブルーはその姿を恍惚とも言える表情で見ている。淡く赤く染まった頬は恋する乙女にも見えなくはないが、実際には返り血を拭った結果である。


「ブルー。落ち着け! 落ち着くんだ! お前のおかげで砂浜はカタがついた。あとはあっちだけだ!」


 俺がプールサイドを指さすと、ライフルを構えていたビキニ姿の女たちが後ろにじりっとさがる。それはブルーが彼女たちを見つめた時にピークとなった。彼女たちはブルーの目を見るなり、なりふり構わず逃げ出した。それは蜘蛛の子を散らす、というのに相応しいものであった。


「ミヤミヤ。謝って!」


 ブルーは血まみれのスコップを握り締めながら俺を見つめる。その瞳は虚ろで本当に俺が写っているのか判らなかった。だが、俺は何か行動を起こさねばならない。それは……。


「ブルー、聞いてくれ! 俺は!」 

この回はコーチャーが担当しました

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