主人公は水泳のルールを知りませんでした
『それでは、哀れな下僕……いやいや代表の皆さんは位置についてください!』
コウジのアナウンスと共に、俺はゴーグルをかけ、プールサイドに立つ。
頭には、競泳選手が着用しそうな丸い帽子。
俺は横にいるはずのライバルの顔を見る。おそらく相手はかなりの強豪だろう。高校以来水泳とは縁のなかった俺は、ライバルに勝つことができるのか。
不安な表情を浮かべながら、左右を見渡すと、そこにはライバルの姿がいなかった。
「えっ」
誰一人プールサイドに立っていない。この状況はおかしいと俺は思った。
この世界の水泳は、元の世界の水泳とは全くの別物なのか。
嫌な予感を抱きながら俺はブルーの姿を探す。
『それでは一回戦。準決勝に進めるのは四チームのみ。それ以外は脱落。城取ゲーム。スタートです』
一回戦だと。俺は全く意味が分からず、プールサイドの上で立ち尽くす。
コウジのアナウンスと共に、ルール不明な謎の遊戯『城取ゲーム』が開始された。
このゲームのルールを知っている仲間は、この世界の住人であるブルーしかないだろう。
俺は藁にも縋る思いで、ブルーを探す。
ライバルたちの九割以上は、砂浜に集中している。そのライバルの手には、小さなスコップが握られていた。
残りの一割のライバルたちは、プールに船を浮かべている。その女たちは、その船の上で寝ころび、ライフル銃を構えている。
完全に意味不明である。この世界の水泳はどうなっているのか。
俺にはさっぱり分からない。ここは砂浜の中からブルーを探して、ルールを聞き出すことしかない。
「ブルー。どこだ」
俺は大声で叫び、砂浜を走る。
すると、突然俺の手を誰かが握った。驚き背後を振り返ると、そこにはブルーの姿があった。
俺は安堵し、ブルーを問い詰める。
「ブルー。この世界の水泳はどうなっているんだ。何だよ。城取ゲームって」
「みやみや。知らないの? 」
ブルーは不思議だというばかりに、俺の顔を見つめる。
「知らないから聞いているんだ」
「でも高校以来水泳はやったことがないって」
「だからこの世界の水泳は、俺がいた世界の水泳とはルールが違う。俺が知っているのは、プールを泳いだりする奴」
「じゃあ説明するね。この世界の水泳は、三種類のゲームで構成されているの。その一つが城取ゲーム。砂で城を作って、出来上がった奴をカメラで撮影すればいいんだけど、相手は自由な方法で妨害するからね。プールに浮かんだ船からの狙撃も妨害手段の一つ。もちろんライフルはただの水鉄砲だから安心して」
ブルーがしゃがみ、スコップで砂浜に穴を掘る。
ライフルの件は冗談なのか。やはり就活女の言動は理解できない。
ブルーは続けて、俺に伝える。
「砂の城をカメラで撮影して、審査員に提出したらゲームクリア。砂の城を作ることができるのは一チーム一回だけ。だから前半は妨害に徹するチームも存在するんだよ。だからみやみやも相手チームの妨害に徹して。妨害は何をやっても許されるから」
「妨害しろって言うのか」
「ダメかな。みやみやは不器用っぽいから妨害の方が得意だと思ったけど」
妨害。水着。何をやっても許される。俺の脳に幾つもの言葉が浮かぶ。やがて俺は一つの欲求に囚われる。
「分かった。本当に何をやっても許されるんだな」
俺は改めてブルーに確認する。その彼女の反応は小さく縦に頷くと言う物。
俺は周囲に集まって砂の城を作ろうとしているライバルたちや、プールから狙撃しようとしている好敵手たちの顔全員の顔を見渡しながら、砂浜の中心に立つ。
この回は山本正純が担当しました




