主人公は一肌脱ぎました
そして俺は服を脱いだ。
自分の肉体ながら肉感豊かなプロポーション。それが目の前に広がる青い水面に浮かび上がると、思わずウットリしてしまうほどだった。
「本当に、やるのミヤミヤ?」
背後でブルーがブルーな調子で尋ねてくる。
「当たり前だ」と俺は頷いた。
「今回あなたに連絡したのは--」
あの時こうじが提示した話は、常識外れのアイデアとこうじやその背後の郷田の増長ぶりを差し引いても魅力的だった。
何より、部屋の外から現れた強襲部隊に制圧され、有無も言わさずこの施設に連行されては、断りようもなかったんのも確かだ。
あとは、あからさまに見破られているとは言え、別動の肉体労働組の奮戦に一縷の望みに託すしかない。
そのためにも……相手の注意をそらし、時間を稼ぐためにも、恥を忍んで奴らの言いなりになるしかなかったのだ。
「ミヤミヤ、経験の方は?」
「高校生の頃までだ。それ以上はない」
「それで良く受けようとしたねー」
呆れとも感嘆ともつかない言葉を無視し、相手が指定した服を身につける。
素足に通していくのは、極端に布面積の少ない。人生経験豊富な俺が、前の社会で見たものと基本的なデザインや材質は変わらないようだった。
更衣室は一面マジックミラー張りで、目の前の塩素を孕んだ大量の液体を色鮮やかに透かし出している。
解放感はあるが、それ故に不安になる。
実はこれはマジックミラーでもなんでもなく、ただのガラス張りだったり、あるいは監視カメラなんてのを設置しているのかもしれない。
生まれついての生娘でもあるまいし、貞操にはそれほど頓着しないが、そういう可能性があるというのはどうにも居心地が悪い。
人のこういう羞恥プレイを目の前にしても、依然就活女はリクルートスーツを脱ごうともしない。
薬品の異臭がキツイ更衣室で、バッチリ決めた重装備はかえってミスマッチだ。
ただプログラムの概要記載の資料を留めたボードを抱える姿は、俺のサポーターもしくはマネージャーに見えなくもない。
分厚い鏡面越しに、ワッと歓声が湧いた。
これから起こりうる余興相応の人数と、この馬鹿げた宴としては異様な熱狂ぶりを想像させる。
観衆の多くは、郷田やこうじやアリスの扇動に当てられたこの国の愚民どもだろう。
「まぁ良いや。とにかく、頑張ってよ。色んな意味で」
そんな女の軽い言葉に反応したわけではないのだろうが、着替え終わった俺の目の前でミラーが大きくスライドする。
重低音を発しながらその透明なフィルターが取り払われると、微妙な屈折がなくなって、クリアな世界が現れる。
青い空……を模したドーム。
白い砂浜……を人工的に作り上げたビーチ。
そして海水……の成分を模倣した、水平線の果てが見えない巨大なプール。
そして、頭上の看板にデザイン性を感じさせるロゴで
『国家間対抗水泳大会』
という、実に頭の悪いワード。
けたたましい歓声と、
『さぁ始まりました、ロイヤル(王族)たちによる水泳バトルロワイアル!』
それを上回って余りある、耳に障るこうじの声。
推理通りに、やはり国に滞在して いたというのはデマカセだったようだ。
後ろの女どもに命を握られていたとは言え、とんだ貧乏くじを引かされたものだ。
観客席の大型モニターに映し出された俺の姿は、紛れもなくビキニ姿の美女のそれだった。
それと等しくして映し出された、俺の両脇にいる左右四、五名ずつの男女がいた。自ら農耕を指揮していた俺はともかく、いずれもこうじの言うような水泳に向いた身体作りとは思えない。
『我らに服属する国同士の代表者が、鎬を削って争う死闘!偉大なる大王様の叡智によって実現された今大会の優勝者には、参加国の支配権が一手に与えられます!』
……無論、こんな褒賞を額面通りに信じているわけではない。他の参加者とて同じことだろう。あるいは本気で労せずして領土が手に入るかもしれない。
なんにせよ、たとえ見世物にされようとも、クーデターが看破された俺たちに必要なのは、変化だった。
……それに、策や勝算がないでもない。
『それでは、哀れな下僕……いやいや代表の皆さんは位置についてください!』
この回は瀬戸内弁慶が担当しました




