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主人公は馬鹿で単純でした

「どこから話せばいいのか。そうだ。まずは私の正体から話そう。実は私……」

 就活失敗女が威勢のいい女の顔色を伺いながら言葉を溜める。その瞬間。俺の脳裏に一人の女の顔が浮かぶ。俺はまさかと思ったが女の言葉に続く適切な答えはこれしか思いつかなかった。

「サヤカか。俺の元カノの」

 俺は就活失敗女に尋ねる。だが女は首を横に振る。

「違う」

 即答だった。即ち彼女は俺の元カノのサヤカではない。あの女は誰なのか。俺はこれまで元の世界で会った人物の顔を一人ずつ思い出す。だが就活失敗女はそれを待たず優しい口調で俺に声をかけた。

「そもそもあなたたちは勘違いをしているよ。あなたは私たちに『前の世界』での立ち位置を尋ねたけれど、その質問に私は答えることができない。なぜだか分かるかしら」

「どうせ記憶喪失かなんかだろう」

 俺が女の質問に単純な答えをぶつける。しかし二人の女は俺の答えを聞きため息を吐く。


「間宮センセイ。お前。本当は馬鹿だろう。何が『その程度の問題、この俺が解けないとでも思ったか?』だ」

 威勢が良い方の女が俺の答えに腹を抱え笑う。一方就活に失敗したような女は爆笑する女の肩を触る。

「少し笑いすぎだよ」

 就活失敗女が優しい眼差しで威勢のいい女を見つめる。その後で彼女は視線を俺に移し優しく微笑む。

「あなたたちは私たち二人が元々別の世界から転生した存在だと思っているけれど、それが間違っているとしたら。そう。威勢のいい彼女が『元の世界』から転生した存在で私はただの『この世界』の住人。これが真実」

 

 その真実を聞き俺は威勢のいい女が俺たちを襲撃した事件のことを振り返る。

 あの時威勢のいい女は俺の本当の名前を叫び俺を襲った。だが就活失敗女は俺たちの前に現れた時から今まで俺の本当の名前を呼んでいない。

 就活失敗女は無口で人の名前を呼ばないタイプの人間だと俺は思った。だがそれは間違いだった。

『元の世界』から転生した存在ではない彼女に『元の世界』の立ち位置を聞いても答えることはできない。

「それが本当なら質問が増える。なぜお前は『元の世界』から転生してきた威勢のいい女に協力するのか。彼女の『元の世界』での立ち位置は何なのか」

 俺は再び女たちに問う。その質問を聞き威勢のいい女の方が口を開く。

「質問に答える前に一つ聞く。『元の世界』の世間を震撼させた連続殺人鬼江川教授を知っているか」

「江川教授。日本各地で連続殺人事件を起こした指名手配犯。証拠をいっさい出さない完全犯罪な犯行手口で警察は正体さえも掴めていない。まさかお前の正体は江川教授か」

 俺は自信満々に威勢のいい女の質問に答える。しかしその答えを聞いた威勢のいい方の女は再び腹を抱えて笑う。

「間宮センセイ。やっぱりお前は馬鹿だ。単純だ。馬鹿で単純なお前のために分かりやすく話してやろう。『元の世界』での立ち位置と『この世界』での立ち位置。お前らが知りたいこと全てを話してやる」

 威勢のいい女に馬鹿にされて俺の頭に血が上る。女はそんなことを気にせず俺からの質問に答えた。

この回は山本正純が担当しました

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