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主人公はクーデターに誘われました

「私たちの要求は、打倒よ」


 彼女たちの求めているものが物でもなく、具体的でさえない不明瞭なものだったので、俺も怪盗も唖然としたまま、それぞれ一人ずつ、顔を見守っていた。


「……」

 無言で一歩ずつ進む女二人に、俺たちは後ずさった。怪盗の方が、俺より三十センチばかりは遠のいただろうか。奇妙な、だがむなしい優越感が、俺の胸を過ぎっていった。

 呆れたように、襲撃女は腰に空いた片手を当てて、露骨にため息をこぼした。


「別に貴様らを打倒する気なら、さっさと射殺してるから」


 そうは言われても、つい今しがたまで目を血走らせて銃を乱射していた連中の言葉なんて、誰が信じるだろうか?

 まずは何を打倒しようとしているのか、その辺りを明確にしないと、この胸の疑心の闇は、晴れてくれそうにもなかった。


「具体的にはなにがしたい? 誰を打ち倒すために、俺たちに何をさせたい?」

「打ち倒すだけの強大な敵、それを貴様は知っているはずだ」


 代わりに答えたのは就活失敗女の方だった。

 そして女の言葉に、俺は軽く息を呑んだ。驚きもあったが、何より命の灯火が風前にさらされた今、あの苦い記憶が再び呼び起こされるとは直前まで想像もしなかったからだ。


「……この、国のことか」

「正確には、国家ね。ここの首都のシステムの占拠に、手を貸しなさい」


 新聞紙に印刷されていたアリスの笑顔を思い出し、俺はムカムカとした気分になっていた。目つきを鋭くした美女の姿が、女の歪んだ瞳の中に映り込んでいる。


「現状、あいつらの首脳部は間宮、貴様の国に赴いている。今はモヌケの空よ」


 なんだって、という乾いた声を、俺は隠すことができずに呼気として発した。

 国内に不安要素を抱えたまま、奴らは外に、我が国に赴いているというのか。そんなことはにわかに信じられるはずがない。

 疑念でまた視線を鋭くさせた俺に、彼女たちもまた、こらえかねた敵意を、目の輝きの中に宿した。


「事実だ。新聞の写真を見ろ。政府を取り仕切るメインのメンバーはことごとく映り込んでいる」


 拘束されている現在、文字通り手も足も出ない俺たちの足の間に、今朝の朝刊がぞんざいに投げ渡される。確かに、一見して二十代ぐらいの男女が映り込んでいる。たたえた笑みは誰も彼も、俺のよく知る、汚い中年特有のへばりつくような繕い笑顔だった。


「……だからって」

「もちろん、ある程度の備えはあるだろう。が、それでも現状においてはもっとも無防備な状態と言える」


 俺の懸念を先読みするかのように、一秒も待たずして答えは返ってくる。

 就活女が陰気な声で、相方に同調した。


「この国にはもうまともな労働力、人的資源と呼べるものはない。働けるだけの肉体を持つ健常者は皆、公的労働機関や社会奉仕とやらに駆り出されている。それすなわち……まともに反抗できるだけの結社も組織できない、ということよ」


 悔しげに唇を噛みしめる若い女の肩を、襲撃者が片手で撫でた。

 だがもう一方の手は、銃口をこちらに向けたままだった。


「……つまり、逆にそこに連中の油断がある、ってわけかい」


 怪盗が軽い調子で口を挟む。だが観念にしたかのように回されたその後ろ手では、女二人から見えない位置である物を袖から引っ張り上げていた。

 それは、トランプのカードだった。

 ナイフの切っ先のように、縁を薄く、鋭くさせたそれの絵柄はハートのエース。まさに切り札とも言うべきそれによって反撃に……


「ふんっ!」

「あがぁっ!」


 あっさり看破されて、ヒールによって手首ごと背を踏まれるサンシャインタウンを見て、ですよねー、と俺は軽く呟いた。

 それはそれで構わないが、とばっちりでこっちの膝が踏み砕かれかねない。この段になって俺は抵抗や条件の吊り上げを諦めることにした。


 現段階に、おける……。


「分かった分かった」

 と両手を挙げてみせると、それを条件丸呑みの了承と取ったらしい。眉間の険を和らげたところに、


「いや、話だけは聞いてやるってだけだ。銃をつきつけられちゃビビって話もできやしねぇ」


 と、俺は冗談めかしく


「まずは知ってることを話せ。お前らが俺たちへの殺意を抑え込んでまで国家転覆を企む理由。『この世界』での立ち位置……『前の世界』での、立ち位置。全部だ」


 と言った。


「殺意をもたれているのは『たち』じゃなくて、君だけどね」


 押さえつけられたまま余計な茶々を入れる怪盗の側頭部を、俺はためらいなく蹴り飛ばした。

この回は瀬戸内弁慶が担当しました

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