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心無い少女

追いかけた少年

作者: 木場アサト

「心無い少女」を読んでからの方が分かりやすいです。

 乙女ゲーム、というものを知っているだろうか。簡単にいってしまえば、女性向けの恋愛シミュレーションゲームである。

 いきなりなんなんだと言われるだろうが、まあ俺の話を聞いてくれ。

 どうやら俺は、その乙女ゲームの世界に転生してしまったようだ。

 俺、という一人称から分かるように俺は男である。乙女ゲームなんざやったことあるわけがない。なら何故ここが乙女ゲームの世界だと気付いたか。

 それは、俺の前世での高校の先輩がやっていたからだ。

 俺はとある公立の高校に通っていた。クラスカーストは中の下。どこにでもいる冴えない奴だった。

 そんな俺が先輩と出会ったのは高一の四月半ば。生物部に入ったときである。その高校は全員部活に入らなければいけなかったから、入る部活は適当に決めた。生物部に入ったのも、部員数が少なくて楽そうだったからだ。そんな理由で入った俺は、最初は所謂幽霊部員になるつもりだった。

 が、俺は真面目に毎日部活に行った。先輩がいたからだ。

 先輩は俺の一つ上で、俺を除くと唯一の生物部員だ。俺が入るまでは一年間ずっと、たった一人で活動していたらしい。病気がちの体が弱い人で入退院を繰り返していたため、部活どころか学校にも来ない日が多かったらしいが。

 最初は変わっている人だと思った。生物部員のくせに生物が嫌いで、生物室にいる畜生共の世話などするつもりはないと言うのだ。だったら何で入ったんですか、というと、「お前と同じ理由だ」と言われた。人が少ないからですね、なるほどなるほど。じゃあ、俺が入ってガッカリしたんじゃないですか?と半ば冗談のつもりで言ったところ、「何当たり前のことを言っているんだ?」と即答された。しかもその後「気持ち悪いから話しかけるな」とゴミを見るような目を向けられながら侮蔑をたっぷり乗せた声で言われた。……別に傷ついてなんかいない。


 そんな先輩は、性格は壊滅的に悪いが見た目は抜群に良かった。可愛いより綺麗系で、モデルをやれるんじゃないかというぐらいだ。性格と見た目は反比例する良い例だ。俺がちゃんと部活に行ったのも、先輩で目の保養をしようと思ったからだ。これで性格が良ければ完璧だなと何回も思ったが、現実は甘くない。その綺麗な顔で癒されても言葉で心を抉られて塩を塗り込まれる日々を送った。

 

 先輩はよくゲームをしていた。病気のせいで学校を休みがちだったから暇だったのだろう。RPGやアクション、ホラー、果てはエロゲーまでやっていた。美人が無表情で淡々とエロゲーをやっている姿はとてもシュールだった。

 その中に、この世界の元であろう乙女ゲームがあった。先輩はそれを気に入ったようで、繰り返しプレイしていた。何回も何回もやるので、俺もそれの事を覚えていたのだ。

 先輩の機嫌が良いときに聞いたんだが、先輩はそのゲームの主人公の友達ポジションのキャラが気に入ったらしい。普通そこは攻略対象とかじゃないのか?よく知らないが。友達ポジ、しかもいじめられっこで人見知りの超気弱なキャラ。先輩はそういうの嫌いそうなのに。

 俺がそういうと、分かってないなという顔をして嘲笑された。解せぬ。


「いいか?確かにそういう奴は嫌いだが、あくまでも現実ではの話だ。二次元の世界にまでそういうのは持ち込まないんだよ」


 そういうものなんだろうか。先輩が言うならそういうものなんだろう。

 俺がそう納得すると、それに、と先輩は続ける。


「このキャラ、見た目が私に似てるんだよ。可愛いだろう?」


 そう得意気に言われた。……何故得意気に言ったんだ先輩。

 はいはい、先輩が御可愛らしいのはよく分かっていますよ。


 少し話がずれたが、まあそんなわけで俺はここが乙女ゲームの世界だと気付いた。ゲームの舞台である聖央(せいおう)学園や、攻略対象達が将来継ぐであろう大企業や財閥が現実にあるんだ。気付いたときは驚いた。

 それに、ゲームのキャラが目の前にいるんだ。気付かない方がどうかしている。


 そう、いるんだよ。しかも俺の幼馴染みとして。家族ぐるみの付き合いだからお互いが生まれたときから知っている。そいつの名前は秋川すみれ。先輩が気に入っていた例のキャラである。ゲームのパッケージにあった通り、美人な顔立ちである。いや、今はまだ十五歳だから美少女と言うべきか。見た目だけなら一級品である。


 しかし、中身が問題だった。

 ゲームの通りなら、「秋川すみれ」とは大人しくて気弱な少女だったはず。それなら良かったんだ。しかし──


「おい、何をぼさっと突っ立っている。邪魔だ」

「痛っ!?おい、蹴るなよ!しかも結構本気で!」

「お前がひ弱なんだろう?この私が、わざわざお前を蹴るためだけに本気でやるわけがないだろう」

「……つくづく思うけど、お前、性格悪すぎだろ!」

「何を今さら。そんなの、生まれてからのこの十五年間でとっくに分かっている事だろうが。この低能め」


 この通り、まるで別人である。というか先輩そのものだ。確証はないからあくまでも俺の想像だが、先輩は「秋川すみれ」に転生したのではないだろうか。なかなか信憑性があると思う。

 

 俺の前世での死因は事故。高校三年の夏、俺は車に轢かれて死んだ。そして先輩はその一年前、俺が高二で先輩が高三の時に死んだ。病気だった。もともと体が悪かったのだが、それが悪化したのだ。

 先輩は死ぬ間際までこのゲームをやっていたらしい。だから先輩がこうして転生するのは、まあ不思議ではない、と思う。しかし、何故俺までこんな状況になっているのか。しかも前世の記憶まであるってどういう事なんだ。先輩の方は何も覚えていないし、それが普通なんだろうに。

 

「……まあ、記憶はともかくとして、ここに転生した理由はなんとなく分かる気がするけど」


 先輩がいるからだろうな、きっと。

 正直にぶっちゃけると、俺は先輩の事が好きだった。性格は壊滅的だったが見た目は良いし、それに生物が嫌いだと言っても、なんだかんだで先輩は俺の事を他のやつらよりは可愛がっていたように思う。最初の頃は全く口を利いてもらえず、視界に入っているかどうかも定かではなかったが、半年を過ぎた辺りから大分構ってもらうようになった(見下すような視線と嫌悪の言葉付きだったが)。

 それに好きじゃなきゃ、誰があんな人格破綻者に半年間無視されながらも話しかけるものか。


「……なんか俺、ドMみたいだな」


 いや、違うぞ?断じて違うからな?罵ってほしいとかそんな類いの事なんざ思ったことはない。そもそも好きになった最初のきっかけだってただ単に美人だったからで、そんなアブノーマルな性癖は持っていな……。  

 

「……何をぶつぶつ呟いているんだ。気持ち悪いから黙れ。喉を潰して口を縫い付けてやろうか」

「怖っ!」

「なら口を閉じろ。鼻の穴も閉じろ。一生な」

「息できなくて死ぬわ!殺す気か!?」

「そんなつもりはないが、そうなっても構わないと思う」

「酷い!」


 ……何でこんなやつの事好きになったんだろう、俺。しかも未だにっていう。……本当にドMなのかもしれない。


「お前、少しは俺に優しくしてくれても良いんじゃねえか?俺以外の奴にはそうしてるだろ」

「は?何で今更お前にそんな演技をしなきゃならないんだ」

「……この多重人格者め」

「誉め言葉と受け取っておこう」


 こいつは外面はとても良い。演技力がヤバイことになっている。だが俺にはしない。無駄だと分かっているからだ。


「あのまま騙され続けていれば、今でも優しかったんだろうな……」

「はっ。馬鹿め。だったら他の可愛くて優しい女の子のところにいけば良いんじゃないか?ん?」

「……ああ、くそ。こんな意地の悪いことを言ってくる奴なのに!」

「それでも私が好きなんだろ?馬鹿だよなあ、お前。本っ当、理解できない」


 心底気持ち悪いと言うように、すみれは顔をしかめさせる。その姿ですら可愛いと思う俺は大分重症だ。

 先輩、いや、すみれは、俺がすみれの事を好きだと知っている。それを承知の上でさっきのような事を言ってくる。そして俺の反応を見て面白がるのだ。人の純情を弄ぶだなんて、悪趣味なやつである。それでも未だに、というところが若干悲しいが。


 ゲームでは超気弱ないじめられっ子でヒロインの友達。しかし現実では超ひねくれてる自分至上主義の女王様。

 ゲームの開始はヒロインや「秋川すみれ」が高校二年生のになり、ヒロインが舞台である聖央学園に転入してきたところからである。

 しかし、すみれがここまでゲームと違うのだから、ゲームの展開にも影響があるのだろうか。それともそれ自体がなくなるのか。

 というかまずこいつは聖央学園に行くのか?


「すみれって高校どこいくんだ?」

「お前には関係ないだろう」

「別に教えてくれても良いだろ?」

「……聖央学園だ。一応言っておくが着いてくるなよ。お前の学力じゃ無理だろうがな」

「うるせえよ!」


 余計な一言は言うんじゃない!

 にしても、聖央学園か。そこら辺は世界の修正力とかそんな感じなのだろうか。

 まあ、それでもゲームと同じにはいかないだろうな。そもそもここはゲームじゃなくて現実なんだからな、そうなって当然か。


「何で聖央学園に行くんだ?わざわざそんな遠くに行くなんて、やりたいことでもあるのか?」

「逆高校デビュー」

「……は?」


 何言ってんだこいつ。逆高校デビュー?なんだそれ。


「ど、どういうことだ?」

「高校では空気のように過ごすんだよ。今は気持ち悪いくらいに皆に好かれているだろ?それが鬱陶しくてな。だから高校では空気のように過ごそうと思ってな」

「まさか、それだけのためにわざわざ!?」

「ああ、そうだ」

 

 ……下らねえ!!

 

「下らないと思っただろ、今」

「い、いや?全然?」

「はあ……。言っておくが私にとっちゃ結構深刻なんだよ。あんな風にべたべたべたべた引っ付かれて、気持ち悪いったらありゃしない。一体何回あいつらの指と爪の間に針を刺してやろうと思ったか」

「それは止めろ!痛い!絶対痛い!」

「だから、そのために逆高校デビューをするんだよ。地味な二つ結びにして伊達眼鏡をかけて、地味で気弱で大人しい奴を演じるんだ」


 ……んん?それ、ゲームの「秋川すみれ」とほぼ同じじゃね?


「……ええと、例えばいじめられっ子みたいな?」

「ああ、そんな感じ」

「マジか!」


 世界の修正力すげえ!

 ……あ、もしかしたらゲームの「秋川すみれ」も本当はそんな感じだったり、するのか?いや、先輩はそんなこと言ってなかったよな。なら違うか?


「おい、いきなりどうしたんだ。気持ち悪いぞ。死んだらどうだ?」

「死なねえよ!?」


 いきなり辛辣だな、おい!


「はあ、こんなやつに私の演技を見破られるなんて……」

「こんなやつで悪かったな」

「ふん。まあ私以外は全部等しく気持ち悪くて不自然で不細工で区別する必要なんてないから、どうでも良いけどな」

「……相変わらずの自分至上主義だな」

「当たり前だろ」


 言い切りやがった。

 ……とりあえずいろいろ思うこともあるが、俺がこいつの事を好きな限りこの関係は変わらないんだろうな。


「まったく、難儀な人生だよ……」

「おい、早く来い。置いていくぞ、蓮」

「はいはい分かりました。今行きますよ」 

「早くしろ、この下僕め」

「下僕は止めてくれ!」


 俺は空木(うつぎ)蓮として、今日も青春を謳歌する。

 

 


ありがとうございました。

乙女ゲームって実際どんなものなんでしょうか。想像としては、プレイしていると思わず笑っちゃいそうな感じなんですけど。笑えそうで面白そうです。


ほぼどうでも良い設定

空木(うつぎ) (れん)

 転生者。ドMなんじゃないかと悩み中。まあ実際はただ単に相手の事が好きなだけ。いたってノーマルだが、それに気付くのは結構先のこと。


秋川 すみれ(あきかわ ──)

 転生者。生物嫌いは前世からだった模様。自分至上主義。蓮の事は下僕だと思っている。恋愛感情?あるわけないだろう?お前は虫に対して恋愛感情を抱くのか?

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