漂流者
ピッ・・・
ピリリリリ
ピリリリリ
ピリリッ
谺する規則的な電子音
寝床の傍らに設置された発信源を暴力的に遮断した
バンッ
音源は断たれ沈黙は保たれた
明朝、唯一の光源は昨夜から稼働を継続しているTV
『環境__独自の進化__新種の植物が_____』
断片的な音声が聴覚を刺激
熟睡により外界の情報を遮断していたが
連続する雑音により裸体の男性は半身を起こした
『ん・・・そろそろか』
『今日から本格的だな~』
人体に整合した形状の機器に仰臥すると
施された模様が点灯し呼応した
両脇から歪曲した硝子が包囲し、隔離した
ゴヴォ・・ゴボゴボッ
無色の液体が密室の容量限度まで排出される
液体は肺まで及んだが男性から窒息症状は確認されない
合理的な動作が眈々と成される
この設備は通称L.G.M(Linked growth maintenance)
Try-Ark社がAnother Earthのハードとして開発した機器
栄養と酸素を内包した液体は体内に吸収する事で水中での肺呼吸と養分を摂取する事が可能であり、不純物の濾過を兼ね常時循環している
微弱の電流を定期的に伝達させ、筋繊維を刺激させ健康状態を維持する事が可能
『ご利用ありがとうございますDesmond Gray様
まもなく開始されます』
脳内に直接音声が響応する
『簡易説明を再度反復します
Another Earthでは以下の法則があります
時間感覚は現実とは異なりAfter環境下では300/1まで圧縮されています
世界各国から現時点相当な人数が既存しており
翻訳は外来の言語を脳が自動的に補正します
まもなくされる転送先は難易度は統一され場所は不規則です』
『それではいってらっしゃいませ』
link joint
自我の均衡は崩れ、視界が暗転する
虚空に電子構成され、人体を具現化
仮想体を媒介にし朦朧としていた意識を再構築された
容姿は本体の人物像を反映させ
服装は無地のTシャツと貧相なデニム
Gray『こ・・ここは?』
廃村と化した集落
岩壁により隔離されている
ザッ
『!?』
物音を辿ると刀を携え、脇差を帯刀しており
上半身を露出した長着、黒髪を後頭部で束ねた男
左腕に重度の損傷を負っている
相対して巨躯の怪物
怪物の豪快な地鳴りを伴う猛進により開戦が生じた
ドッドッドッド・・
交錯する瞬間
一条の閃光を経て背後で納刀していた
カチンッ
ズゥゥゥン
怪物は鮮血を飛散させ地に伏せたが
討伐の安堵からか体力の閾値を逸したのか男も卒倒した
バタッ
傍から鑑賞していたGrayは
無意識下で魅了されていたが男に駆け寄った
Gray『大丈夫か!?お前!・・・え・・』
遮蔽物に寄って視界の範疇になかった光景は
小山を築く程の残骸を堆積していた
Gray『これを一人で?・・・』
驚愕する表情とは相反し精神、干渉する所の心は高揚していた
Grayは男を損傷を補填した後
担ぎ、整地された道に沿って行進を開始する
進行を開始し暫時の末、暗闇が訪れ
周囲の視界には腐葉土が犇めき、幾条もの朧月が皓々と照る
蟋蟀や鈴虫の囁きが常時聴覚を刺激する森林
この環境下の恩恵なのか
日没の時を経て人間を運搬しているが疲労は蓄積されなかった
Gray『取り敢えず歩くか~』
現実と相違無い環境を体感しながら
無作為に旅路へと赴こうとした経路は傾斜を帯びていく
山麓の邂逅、石段で整地された山道は中腹まで延長されている
Grayは中枢まで歩行を再開する
Gray『はぁはぁ・・やっと着いた』
鳥居が聳える中腹に到達すると
廃墟と化した神社の境内
社殿は草木に覆われ、老朽化し均衡は崩壊しており
周囲には注連縄を帯びた老木と卒塔婆が乱立している
Gray『気味悪ぃな・・・ん?』
ボコボコ・・・
突如、幾箇所の腐葉土が隆起
骸骨に擬態した外敵が旅路を阻害する
Gray『お?俺とやる気か!』
対話の最中男の安否を優先させ
一旦退避し木陰に仰臥させた
キシキシ
対峙する犇めく程の亡骸
各々、原始的な打製の石斧、殺傷目的の直剣
農具の役割を果たす鍬等、様々な道具、武器を携え戦場に赴く
関節から不協和音を奏でながら動向を警戒していたが
沈黙の均衡は石斧の初撃により崩れた
ドッ・・
Grayは容易く回避する・・・が
間髪入れず直剣の斬撃、鍬の追撃の連続
彼等の連携は人間のそれとは相違無く、精密を極めていた
悉く回避、防衛の一方を保つGray
Gray『やっぱこのままじゃきっついな~早速能力使うか』
【守護の右腕】