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プロローグ

プロローグ


 空を覆い尽くす青と、それに負けじとモクモクと広がろうとする入道雲とうだるような暑さに呼応するかのように鳴き叫ぶアブラゼミが夏をしっかりと演出している。

 神奈川県某市。世間一般では人々は都会だ都会だと言うが、実際には都心部から少し離れれば小さな公園も寂れた神社もある。つまり、世間一般の意見とは違い、そこに住んでいる者にしかわからない地域の味というものがあるということだ。物語の序章はこの町から始まった。


 事はとある夏の日に起こった。体験したのは一人の少年。背丈も体系も一般的な小学校高学年男子。一つ特徴を上げるとすれば漫画に出てくるような丸メガネをかけていることだけだった。

 時刻は夕方前、下校時間になった小学生達は集団を作って帰る者、一人で帰る者、親に車で迎えに来てもらう者それぞれだが丸メガネの少年はいつも通り、一人で下校していた。一人が好きなのか、友達がいないのかは定かではないが彼は決まって毎日そうしていたようだ。少し大きめの通りを5分ほど歩けばすぐに人気のない裏道にそれる。そこを抜けると広々とした人気の少ない道路に出る。少年はこれはまたいつも通り、自分の通学路をテクテクと歩いていた。その通りを半ばほどまで歩いて来ると右手に寂れた神社が見えてくる。特に手入れがされているわけでもないので、雑草は生え放題、石畳ははがれ、本殿の屋根はなんだか傾いているように見える。少年は夏になると下校時決まってここの神社に寄り、木陰で涼んでいくことを日課としている。

 神社に到着した少年はいつものように短めの石段を上り、本殿を目指した。はがれかけた石畳を横目に少年はさらに歩を進める・・・・・・・が。


 『―――――』


 「・・・・・・・」

 何かが聞こえた。ぼそぼそっと誰かの話声のように聞こえたが、何をいっているのかさっぱりだった。いや、ただ風で揺れた木々の葉同士のさえずりかもしれない。そう考えればそのような感じもした。

 「・・・・・・・」

 一応納得した少年は本殿に到着と同時にランドセルを放り投げ、仰向けに寝転んだ。

 「ふぅ・・・」

 この時間。この瞬間が少年にとって至福の時だった。何も考えず、ただぼうっと上を見上げアブラゼミの鳴き声を聴きながら時に吹く風に身を委ねる。マセたガキだと言われるかもしれないが、少年はこの時間が大好きだった。

 『――――』

 学校で起きた楽しかったこと、嫌だったことをぼうっと振り返ってみてもこうしているだけで不思議と嫌なことだけ忘れられた。

 『――――』

 都合がよすぎる話かもしれないが本当だった。故に夏のこの時期だけ、少年はストレスを感じず過ごせた。

 『――――』

 しかし、今日は何かいつもと違うようだ。

 『――――』

 気にしまいとしていた先ほどのぼそぼそとした話し声のような音は次第にはっきりしていった。しかし、相変わらず何をいっているかわからない。

 『――――』

 少年はゆっくりと身を起こし、耳に神経を集中させた。

 『――――』

 聞こえる。しかもはっきりと。奇妙だ。こんなにもアブラゼミが絶え間なく昼間のオーケストラを繰り広げているにも関わらずその話し声はしっかり、はっきり少年の耳に届いていた。

 『――――』

 自分の安らぎのひと時を邪魔された少年は耐えかねて縁側から降り、声のする方を目指し歩を進めた。

 『――――』


 この神社は本殿を囲むように杉の木が生い茂っている。おかげで春になると花粉が大量に蔓延し、花粉症に悩む人々の目や鼻を毎年大洪水へと陥れている。ちなみに少年の堤防はまだ決壊していないようだ。

 少年は杉の木の間を縫うように歩きながら奥へ奥へと進んでいった。どうやらこの声のようなものはかなり奥から聞こえてくるようだ。時々少年の気配に驚き飛び立つセミ共に糞尿をかけられつつもなんとか目的の場所にたどり着いたようだ。

 ケヤキの木だった。いつだったか図書室の図鑑でみたことがある。周りの木が杉しかないだけにこの場所に一本だけケヤキの木が生えているのは違和感というより変な存在感、カリスマ性のようなものすら感じられた。幹周りが大きなこのケヤキは大分長生きと思える。ケヤキの寿命はどれくらいなのだろうか、そんなことを考えながら少年はケヤキに歩み寄り、触れようとした。

 瞬間、


 少年は消失した。

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