四人の少年による噂の真偽検証 ~町外れ、とある森の奥にて~
夕暮れ時。辺りはほのかに夜の帳が降りており薄暗く、そして、昼間はあれだけうるさかった蝉の声も、今はその影を潜めつつあった。
「たしかこの辺に・・・・【アレ】があると思うんだけど・・・・」
「あっ・・・・。あれじゃないか?」
「おお。確かにそれっぽいな」
「う、うわぁ・・・・・・」
そんな、昼から夜へと移り変わる狭間の時間に、四人の少年達が何かを探している。
彼等の居る場所は、町から少し離れたとある森の中。あまり人が寄り付かないのかそこは、藪が少年達の背丈程にまで伸び、伸び放題となった木の枝は、まるで侵入者を拒むかのように突き出ていた。
「ね、ねぇ・・・・もう止めようよ・・・・」
四人の内、とりわけ不本意オーラを滲み出している少年が、怖じ気付いたのかそんなことを言い出した。
「こんな所まで来て止められるかよ。良いから行くぞ。もっと近付いてみようぜ」
しかしその懇願は、四人の中ではリーダー格であるらしい少年に哀れにも一刀両断されてしまう。
「おい!待てよ海音!俺達を置いて行くなって!」
海音と呼ばれた、そのリーダー格の少年に先導される形で、残りの少年達も慌てて後に続く。
「すまんな、彩斗。アイツは一度決めると、目的を達成するまでは何が何でも考えを曲げないんだよ」
「そ、そんなぁ・・・・・・」
怖じ気付いている少年・・・・彩斗も、仲間の一人に苦笑気味に諭され渋々付いていく。流石に一人でここから帰る・・・・というのは、想像しただけでも怖すぎたらしい。
「・・・・着いたぞ」
先頭を歩いていた海音が、立ち止まる。
「こ・・・・これが・・・・・・?」
そこは、今までの獣道とはうって変わって、背の高い藪や木などは無く、かなり開けていた。
「この祠が・・・・例の【アレ】で間違い無いんだよな?」
「間違い無いとは思う・・・・・・けど・・・・」
開けた場所のほぼ中央。ソレはぽつんと佇んでいた・・・・のだが。
「でもさ・・・・この場所、少しおかしくないか?」
四人の内の一人・・・・バスケットの練習着を身に付けた少年が、不思議そうに告げた。
「う・・・・うん・・・・・・。何でココだけ・・・・その・・・・こんなに草木が無いんだろう・・・・・」
彩斗が言うように、そこには草木が全くと言っていいほど生えていなかった。
――ただし、まるで祠を避けるかのように、不自然な円形を描く形で、だ。
「・・・・・・ちょっとヤバくね・・・・?」
しばらくの間、誰もがその光景の異常さに言葉を失っていると、部活着の少年がぽつりとそんなことを呟いた。
「ああ。ヤバいな」
「うん・・・・。ヤバいね・・・・・・」
彩斗ともう一人の少年も同じ事を考えていたのか、部活着の少年の呟きに即座に同意を示した。
「・・・・・・まさか、ここまで来て『帰ろう』だなんて言わないよな?」
しかし、そこですかさずリーダー格である海音が口を挟む。
「ここまで来たんならよ、試してみようぜ。御参り」
実は、海音が言うその
『御参り』こそ、今回の最終的な目的だった。
「うーん・・・・。まあ、願い事を言うってだけなら、良いかな」
「・・・・・・だな。ちちゃっと済ませるか」
「えぇ!?や、やるの!?」
意外にも、他の二人はあっさりとリーダー格の少年の提案に応じ、祠に向かい手を合わせ始めた。
「・・・・・・あとはお前だけだぞ。やってないの」
一番最初に先陣を切って御参りを済ませていたらしい海音に、彩斗は、早くしろと言わんばかりに促される。見ると、もう御参りを済ませたのか、他の二人はもう彩斗の隣にまで戻ってきていた。
「うぅ・・・・。なんかもう、あからさまにアブナい雰囲気なんだけど・・・・・・」
言いつつ彩斗は、海音からの視線の痛さに耐えきれず、嫌々ながら手を合わせ始めてしまう。
(なんでこんなことになっちゃったんだろう・・・・・・)
手を合わせ、目を瞑り黙祷を捧げながら、彩斗は考える。
元はと言えば、海音が「噂の真相を確かめようぜ!」などと言い出した事が始まりなのだが・・・・。
(願い事がなんでも叶うって言ったってなぁ・・・・)
この町には、遥か昔から伝わっているという、とある伝説があった。
その伝説というのが、『町の外れの森の奥に佇む祠』・・・・つまり、彩斗達が今いる場所にまつわるモノで、それによると『この祠に願い事をすると内容がどうであれ叶う』らしい。
しかし、最近の子供達の間では『欲張り過ぎた願いだと祟られる』やら、『生きた人間を一人イケニエとして殺さなければ願い事は叶えてもらえない』といった、よくわからない尾ひれが付いて回っていた。よくある都市伝説の誇大化と似たような感覚である。
(でも・・・・本当に願い事が叶うんだとしたら・・・・僕は・・・・・・)
改めて、真剣に考える。もしも噂――伝説が本当だとすれば、願い事は叶う。逆に、嘘であったとしても、デメリットなど無いのだから、いっそのこと本気で叶えて欲しい願い事を言う方が良いと、彩斗は考えたのだ。
(僕は―――)
その時一瞬浮かんだのは、優しくていつも彩斗の事を思ってくれる、大好きな兄――。
「・・・・・・終わったよ」
ふぅ、と息を吐きつつ、彩斗は目を開けた。
「・・・・結構長かったな。一体何を願ったんだ?」
「いや、それはヒミツだよ」
訝しげな表情の海音の追求を、愛想笑いで受け流す。願い事の内容を言うなんて、考えただけで、顔から火が吹き出そうなほどに頬が熱くなる。
「・・・・?まあ、いいか。おい、みんな。目的は果たしたんだし、そろそろ帰ろうぜ。流石にこれ以上暗くなったらマズいしさ」
海音が言うように、辺りはすっかり日が暮れて、三日月が顔を出していた。
「そうだなー。・・・・・・帰るか」
月明かりが照らす森の獣道を、四人は達成感に満ちた雰囲気の中、もと来た道を引き返し、帰っていった。
さて。「ここもプロローグなんじゃね?」って言うくらい、自分の書きたい大筋とはかけ離れた内容になってしまいました第1話(なろう的には第2話)です。
僕の書きたいギャグパート等は入っていないのですが…まあ、それは次回以降から、という事で←
では。
僕の作品を、皆様が少しでも楽しんで読んで下さることを祈りつつ――。